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「10万円が2回振り込まれてラッキー」誤入金された給付金、使ったら犯罪になる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 大阪府寝屋川市が1人10万円の特別定額給付金を誤って993世帯、2196人に二重に振り込んだ。その総額は2億1960万円に上るという。もし口座の名義人がこうしたお金を使ったら、犯罪になるか――。

どのような話?

 報道によれば、次のような事案だ。

「市によると、オンラインや郵送などで申請を受け付け、マスターデータベースで入力漏れや重複が起きないよう管理していた」

「24日に市内全11万528世帯の8割が申請を終え、25日から最終確認を始めたが、何らかの理由で993世帯については振り込みが完了していたのにデータベースに反映されず、二重に支給された」

「対象世帯には、電話などで謝罪し、返金手続きを依頼している」

出典:毎日新聞

 こうしたミスは、すでに福島県天栄村でも発生している。375世帯、1162人に二重に支払うミスがあり、住民の問い合わせで発覚した。総額1億1620万円に上り、20日までに1億690万円を回収している。残りも回収予定だという。

 誤って振り込んだ場合、「組戻し」という手続をとることで振り込みをキャンセルできる。振込先口座の銀行が入金記帳を行う前であれば名義人の同意は不要だ。しかし、入金記帳後だとその同意を要するので、お金が戻ってくるまで時間を要する。

 しかも、組戻しには手数料が必要だから、振り込みの際はミスのないように細心の注意が必要だ。

裁判所の判例がある

 もっとも、こうした行政による特別定額給付金に限らず、読者の中にも、口座番号などを間違えて振り込んだとか、逆にミスによる振り込みを受けたといった経験をした人は多いだろう。

 もし口座の名義人が「ラッキー」だと思い、誤って振り込まれたお金をそうだと分かりながら使えば、犯罪が成立する。何罪に当たるかは、そのお金の帰属をどうとらえるべきかといった問題を踏まえ、議論が積み重ねられてきた。

 その結果、すでに裁判所の判例が示されている。これによれば、窓口でお金を下ろしたら、間違った振り込みだと告知する義務に違反し、銀行員をだましたということで、銀行に対する詐欺罪が成立する。

 また、ATMで下ろしたら、機械をだますということはありえないので、銀行が占有するお金をとったということで、窃盗罪が成立する。

 これに対し、もし誤った振り込みだと知らずに使った場合、過失なので、犯罪にはならない。もっとも、お金を下ろしたあと、実際に使う前にミスだと分かった場合、それでも使ったら、占有離脱物横領罪が成立すると考えられる。

民事の問題も

 なお、民事的には、誤送金を受けた口座の名義人が不当に利得を手にしたということになるので、振り込んだ側はその返還を請求できる。

 ただし、名義人が悪意であれば利息を含めたその全額だが、誤送金と知らなかった善意の場合、名義人の手もとに残っている利益に限定される。

 いずれにせよ、トラブル回避のためにも、誤った振り込みだと分かったら、双方ともすぐにお互いの銀行にその旨を伝えるべきだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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