マスクの転売で検挙された夫婦、為替レートの変動で起訴できない珍事発生 なぜ?

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 5月20日、大阪府警はマスクの転売で検挙した30代の夫婦を書類送検した。しかし、為替レートの変動で起訴できないことになりそうだ。なぜか――。

どんな事件?

 この夫婦は、3月上旬に中国のインターネット通販サイトで50枚入りの箱入りマスクを仕入れ、3月16日に大阪市内で通行人に転売していたとして検挙された。

 価格は利益分を上乗せし、1箱3500円だった。

 しかし、米ドルによる仕入れ代金の支払いはクレジットカード決済だったため、カード会社の決済センターに利用情報が届くまでタイムラグがあった。

 その間、為替レートが変動しており、仕入れ当時と比べ、日本円に換算した決済時の金額が販売価格よりも高くなってしまった。

 結果的に、1箱あたり数十円ほどの損失が出たというわけだ。

政令の内容は?

 一方、マスクの不正転売を禁止する政令では、販売価格が仕入れ価格を1円でも超えていれば処罰の対象になるが、仕入れ価格以下だと処罰の対象外となっている。

 例えば、1000円でマスクを仕入れたものの、なかなか買い手がつかず、800円に値下げして転売した「損切り」の場合、販売価格が仕入れ価格を超えていないから、処罰されないというわけだ。

 政府は当初、販売価格を問わず、マスクの転売そのものを一律で禁止する方針だった。しかし、転売屋が大量に抱えている在庫のマスクを安く売らせ、供給源を増やすため、彼らが仕入れた際の価格を処罰の基準とした。

 しかも、不正転売目的で仕入れることを不正転売と同じく罰則付きで禁止しているチケット不正転売禁止法と異なり、政令ではマスクの不正転売だけを処罰の対象にしているから、転売のための買い占めのような仕入れ行為そのものを処罰することもできない。

 したがって、夫婦は利益を上げようとしていたものの、結果的には不正転売には当たらず、不正仕入れを処罰する規定もないことから、起訴されないということになる。

 政令の制定時には想定されていなかったケースだ。こうなると、仕入れ代金の決済を待ったうえで検挙する必要あり、ということになるかもしれない。

 なお、これとは逆に、仕入れ価格よりも安く販売しようと値付けし、実際に販売したところ、その後、為替レートの変動で決済額が低くなり、結果的に販売価格が仕入れ価格を上回ってしまったというパターンも考えられる。

 こちらは、転売時に不正転売の故意がなかったという理屈により、処罰されないだろう。

捜査しているという事実が重要

 3月に規制が始まったマスクに加え、5月26日からはアルコール消毒液なども転売が規制される。

 ただ、こうした規制をどれだけ導入しても、違反者が検挙されず、野放しになるのでは意味がない。

 そこで、警察の「やる気」が重要となるわけだが、今回のケースにより、露天販売のような事案であっても、警察が高額転売を察知すれば、きちんと捜査され、取調べを受けたり、入手先や売上状況を特定され、送検に至るということが明らかとなった。

 その意義は大きい。

 5月22日には、三重県警も、ネット上で仕入れたマスクを高額で不正転売していた衣料品店の経営者らを書類送検している。警察官が衣料品店でのマスク販売を不審に思い、捜査を進めた結果、不正転売が判明したというものだ。

 こちらは、1枚約80円で1000枚ほど仕入れたマスクを倍近い価格で販売し、数日で売り切り、5万円以上の利益を得たという事案だから、今回のケースと違い、不正転売として起訴可能だ。

 ネット上の転売屋に関するものを含め、今も警察にはこうした情報が多数寄せられているはずだ。

 不正転売の時効は3年だから、情報を精査し、一つ一つ捜査が進められることだろう。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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