マイナスドライバーを1本持っていただけで現行犯逮捕 そのワケとは?

(写真:アフロ)

 未明に金沢市内の駐車場に停めた車中で警察の職務質問を受けた男性(71)。トランクの中からマイナスドライバー1本が発見され、現行犯逮捕された。なぜか――。

ピッキング禁止法がある

 男性の逮捕容疑は「特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律違反」だった。

 1990年代後半から、ピッキング、すなわち耳掻き状の特殊な金属棒をかぎ穴に差し込み、短時間で開錠したうえで、住居や事務所などに侵入し、盗みを働く事件が多発した。そこで、これを未然に防止するために2003年に制定・施行されたのが、この「ピッキング禁止法」などと呼ばれる法律だ。

 すでに軽犯罪法にも「正当な理由がなくて合かぎ、のみ、ガラス切りその他他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」を処罰する規定があった。

 しかし、違反者に対する刑罰は拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)か科料(千円以上1万円未満の金銭罰)であり、懲役や罰金がなく、あまりにも軽すぎる。しかも、被疑者が住居不定の場合か、検察や警察の出頭要請に正当な理由なく応じない場合しか逮捕状で逮捕できない。

 そこで、ピッキング禁止法により、一定の器具について規制や罰則を強化したというわけだ。

規制される器具や行為は

 この法律や政令で規制の対象となっている用具は、次のとおりだ。

(1) 特殊開錠用具

 (a) ピッキング用具

 (b) 破壊用シリンダー回し

 (c) ホルソーのシリンダー用軸

 (d) サムターン回し

(2) 一般開錠用具

 (a) マイナスドライバー(先端部の幅が0.5cm以上、全体の長さが15cm以上のもの。専用の柄に小型ドライバーを付け替えるものでも、柄を取り付けたときの長さが15cm以上であれば、たとえバラバラにした状態でもアウト)

 →破壊用シリンダー回しの代用となるうえ、バールの代用などにもなるから。プラスドライバーだと規制対象外。

 (b) バール(作用する部分のいずれかの幅が2cm以上で、長さが24cm以上のもの)

 →持ち運びが容易であるうえ、建具の破壊やサッシの持ち上げ、シャッターのこじ破り、ガラスの打ち破りなどに使えるから。

 (c) ドリル(電動・手動を問わず、直径1cm以上の刃が附属するもの)

 →サムターン回しの際に開口部分の作成に使えるほか、シリンダーを潰すといった手口にも使えるから。

 以上の用具について、次のような行為が規制される。

(i) 業務その他正当な理由による場合を除き、(1)を所持すること

 →1年以下の懲役か50万円以下の罰金

(ii) 業務その他正当な理由による場合を除き、(2)を隠して携帯すること

 →1年以下の懲役か50万円以下の罰金

(iii) 相手が(i)に及ぶことを知ったうえで(1)を販売・授与すること

 →2年以下の懲役か100万円以下の罰金(両者の併科可能)

拡大解釈防止の必要性

 重要なのは、ピッキングなど特殊な用具だけでなく、その代替となったり、開錠に使えるような用具についても、一定の要件に当てはまれば規制されるという点だ。また、それらの用具を使って実際に住居や事務所などに侵入するという目的の有無も問わない。

 そうすると、警察の恣意的取締で規制が広がりすぎることが懸念される。例えば、(2)-(a)のマイナスドライバーなど、おそらく一家に一本はあると思われるほど広く普及しているものだからだ。

 そこで警察庁は、運用上の留意事項などを通達の形で全国の警察に示している。特に(2)の一般開錠用具については、次のとおりだ。

(ア) 「隠して」いる場合に限る

 服のポケット内や上着の内側にしまったり、鞄や袋の中に入れるなどにより、他人の目に触れないような状態におくこと。

(イ) 「携帯」している場合に限る

 (2)の一般開錠用具を現に携え持っている必要があり、自宅で保管しているといった「所持」よりも狭い概念。ただ、必ずしも直接身に付けている必要はなく、直ちに使用できるような状態であれば、自動車の後部座席に載せてその自動車を運転するといった行為も含まれる。

(ウ) 「業務その他正当な理由による場合」はセーフ

 社会通念上、(2)を隠して携帯することが当然に認められるような場合。これに当たるか否かは、その者の職業、その時間帯や場所で(2)を隠匿携帯する合理性、軍手や懐中電灯など一緒に携帯している物は何か、その者の言動や周囲の状況といった客観的要素に加え、携帯の認識、動機、目的などをも総合的に考慮して判断される。

 例えば、次のような場合は「業務その他正当な理由による場合」に当たるからセーフとされる。

・大工が業務のために工具箱に入れて持ち歩く場合。

・自動車の修理に用いるために自動車の工具入れに入れてその自動車を運転する場合。

・機械の修理、引越し等のために必要があって持ち歩く場合。

逮捕の経緯は

 今回は、11月6日午前2時ころ、パトロール中の警察官が金沢市内にある野球場の駐車場で不審な車が停車しているのを発見し、運転席にいた無職の男性に職務質問して車内を調べた結果、トランク内に規制の対象となるマイナスドライバー1本を隠し持っていたのが分かったという事案だ。

 「隠して携帯」という要件に当たるのは明らかだから、問題は「業務その他正当な理由による場合」に当たるか否かだ。

 未明という時間帯や場所、男性が無職であるうえ、その時間・場所で規制の対象となるマイナスドライバーを隠匿携帯している合理性がないこと、男性は「ガスライターの火力を調整するために持っていた」と供述しているものの、火力調整部分と適合しないなどその説明が不自然であることなどから、警察は「業務その他正当な理由による場合」には当たらないと判断した。

 むしろ、おそらくは付近で夜間の事務所荒らしなどが相次いでおり、警察官がパトカーで警戒中に男性の車両を発見したとか、パトカーの無線で男性の前歴照会をした結果、石川やその周辺でマイナスドライバーなどを使った事務所荒らしの前歴が判明したといった事情があったのではなかろうか。今後は、侵入窃盗の余罪掘り起こしが捜査のポイントとなるだろう。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

有料ニュースの定期購読

元特捜部主任検事の被疑者ノートサンプル記事
月額1,100円(初月無料)
月3回程度
15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

あわせて読みたい

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。

専門家の知識と情報で、あなたの生活が変わる