Yahoo!ニュース

「令和のコント55号」モグライダーが人気の理由とは?

ラリー遠田作家・お笑い評論家

「美川憲一さんって、気の毒ですよね」

昨年末の『M-1グランプリ』は、こんな衝撃的な一言から始まった。1番手として舞台に上がったモグライダーのともしげが無邪気にそう言い放つと、リーゼントで細身の芝大輔がすかさず「お前に何がわかんだよ!」とツッコんだ。

そこから彼らの漫才が始まった。美川の「さそり座の女」の歌い出しが「いいえ私はさそり座の女」であることから、美川は誰かに当てずっぽうで間違った星座と性別を言われて、それに対して「いいえ」と返して落ち込んでいるから気の毒なのだとともしげは言う。そして、ほかの星座や性別の可能性を事前に全部つぶしておくことで、美川に気持ち良く歌ってもらいたいと主張するのだ。

ここから芝が美川になりきって、「さそり座の女」を歌う。その横でともしげは「射手座の男ですか?」「魚座の女ですよね?」などと質問を投げかけて、すべての可能性をつぶそうとする。

奇抜な設定ではあるが、焦るあまりミスを連発するともしげが、どこまで計算でどこまで本気で間違えているのかわからないし、それに対する芝のツッコミも正確で自然なので、実に見ごたえのあるスリリングな漫才になっていた。

このネタは伊集院光にも「コント55号のようだ」と激賞された。たしかに、ともしげのあたふたする雰囲気と、芝の江戸っ子口調の厳しいフリとツッコミは、坂上二郎と萩本欽一のコントの世界にも通じるものがある。彼らは『M-1』では敗れてしまったが、間違いなくその名を全国に知らしめた。

お笑いファンの間では、モグライダーが実力派の芸人であることは有名だった。いつ世に出てもおかしくないと言われていたのだが、『M-1』で勝てるようなネタを生み出すことができず、長い間、雌伏の時を過ごしていた。

芝はツッコミや仕切りの腕に定評があり、次世代のMCとしても期待がかかる存在だ。ともしげは、危なっかしさを漂わせる天然キャラであり、バラエティ番組でも狩野英孝やパンサー尾形などに続くドッキリスターとして活躍するポテンシャルを秘めている。

モグラのように土の中に埋もれていた彼らが、ついに『M-1』をきっかけに地上に出て、まぶしい日の光を浴びた。彼らが動き出すのはこれからだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

ラリー遠田の最近の記事