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錦鯉、カミナリ、コウメ太夫、小島よしお……漫才協会に入る若手芸人が増えている理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

最近、お笑い界で「漫才協会」という単語をよく耳にするようになった。漫才協会とは、漫才の普及と人材育成のために作られた一般社団法人である。漫才協会の公式ホームページには以下のような記述がある。

「漫才協会は、漫才を中心とする演芸の普及向上、継承と振興と人材の育成を図り、もって我が国の文化の発展に寄与することを目的とする公益法人です。」

漫才協会の存在が世間で広まったきっかけは、そこに所属する若手漫才師のナイツが売れっ子になったことだった。ナイツは、ボケ担当の塙宣之がテーマに沿った小ボケを絶え間なく連発する「ヤホー漫才」で有名になった。2008年には「お笑いホープ大賞」「NHK新人演芸大賞」で大賞を受賞し、『M-1グランプリ』では初の決勝進出を果たして3位に食い込んだ。

ナイツは、自分たちが浅草を拠点とする漫才協会に所属していることを積極的にアピールしていた。漫才協会に所属する芸人は、浅草の寄席で出番を与えられて漫才を演じることができる。寄席は毎日行われているし、年配層を中心に幅広い世代の観客がいる。そこで芸を磨いたことで、ナイツは万人ウケするネタを作ることができた。

多くのお笑い事務所は常設の劇場を持っていない

東京のお笑いライブ事情は、吉本興業とそれ以外の事務所で大きく異なる。吉本興業には「ルミネtheよしもと」「ヨシモト∞ホール」「神保町よしもと漫才劇場」といった常設の劇場があるため、所属芸人はそれぞれの劇場で出番を与えられ、ネタを演じることができる。

しかし、吉本興業以外のほとんどの事務所は常設の劇場を持っていないため、ライブを頻繁に行うことができない。そのため、芸人たちは外部のライブハウスや劇場を自分たちでお金を出し合って借りたり、外部のライブ主催者に声をかけられたりすることで、何とかライブ出演の機会を得ることになる。

そんなわけで、吉本興業以外の芸人は、吉本芸人に比べて舞台に立つ回数が圧倒的に少ない。だからこそ、『M-1グランプリ』『キングオブコント』などのお笑いコンテストでは、優勝したり決勝に進んだりするメンバーの大半が吉本芸人ということになる。

吉本芸人はそもそも数が多いというのも一因ではあるが、普段のライブでネタを披露する機会に恵まれているということが、有利に働いているのは間違いない。

ナイツは寄席で経験を重ねて売れっ子に

ナイツが吉本芸人を押しのけて『M-1』で決勝に進んだりして結果を出すことができた理由の1つは、彼らが漫才協会に所属していて、舞台を踏んだ回数が多かったからだ。

そんなナイツの活躍を見て、少しずつ漫才協会に入る芸人が増え始めた。磁石、三拍子、ハマカーン、エルシャラカーニといったコンビ歴15年を超える実力派の漫才師をはじめ、にゃんこスター、小島よしお、はなわ、コウメ太夫といったバラエティ豊かな人材が続々と入会している。最近では、錦鯉やカミナリも加わった。漫才師ではなくても、芸人であれば所属はできるという方針のようだ。

ライブに出る回数が限られている吉本以外の東京の芸人にとって、常設の寄席に出演できるというメリットは大きい。特に、東京のライブの多くは伸び盛りの若手が中心になっていて、ある程度の芸歴を重ねるとライブに呼ばれにくくなるため、そういうベテランの芸人にとっては漫才協会はありがたい存在なのだ。

ナイツ塙が若手芸人を勧誘

ナイツの塙は漫才協会の副会長として、積極的に芸人を勧誘したり、漫才協会を広めるための活動を行っている。最近では、塙にとって漫才協会の大先輩にあたる大御所漫才師の「おぼん・こぼん」が、『水曜日のダウンタウン』の仲直り企画に出演して話題になったこともあった。この企画がきっかけでおぼん・こぼんの名前が若い世代にも広まり、寄席には観客が詰めかけるようになったという。

お笑い界は長く吉本興業の一強体制にあった。そんな中で、吉本以外の事務所の芸人がキャリアの差を超えて一丸となって組織されている「漫才協会」は、対抗勢力として順調に育ってきている。今後も東京の漫才シーンを牽引する存在となるだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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