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松本人志の代役でものまね芸人・JPもブレーク! コロナ禍で相次ぐ「代役芸人」の伝説

ラリー遠田作家・お笑い評論家

最近、新型コロナ感染拡大の影響により、タレントがテレビに出られなくなるケースが増えている。特に、今年の前半の「第六波」の時期には、感染力の強いオミクロン株が流行して、どんなに注意をしていても感染を避けられない場合が多かった。レギュラー番組を持つような売れっ子芸人の中にも大勢の陽性者や濃厚接触者が出ていて、テレビ各局が対応に追われた。

新型コロナが原因で休養に入った場合、通常は一定期間が過ぎればすぐに復帰が見込めるので、レギュラーの仕事では一時的に代役が立てられることが多い。

たとえば、朝の帯番組『ラヴィット!』のMCである麒麟の川島明がコロナ陽性で休業に入った際には、アンタッチャブルの柴田英嗣、アインシュタインの河井ゆずるなどの芸人が日替わりで代役を務めた。

また、コンビ揃ってのコロナ感染が発表されたオードリーのラジオ番組『オードリーのオールナイトニッポン』では、アンガールズ、平成ノブシコブシといった彼らの同世代の芸人がピンチヒッターを務めていた。

1月30日には、濃厚接触者となった松本人志の指名を受けて彼の代役としてものまね芸人のJPが『ワイドナショー』に出演。松本のものまねを披露して大反響を巻き起こした。

明石家さんまも「代役」で注目された

不測の事態でレギュラーの芸人が出演できなくなった際に、別の芸人が代わりに出ることは過去にもあった。そして、ときにはそれが番組や芸人自身の運命を大きく変えることもある。

代役から成り上がった最も有名な事例と言えば、高田純次と明石家さんまのケースである。80年代に一時代を築いた伝説のバラエティ番組『オレたちひょうきん族』で、ビートたけし扮する「タケちゃんマン」が主人公を務めるヒーロー物のコント企画があった。そのライバル役である「ブラックデビル」を最初に演じていたのは高田だった。

ところが、高田がおたふく風邪で収録を休むことになり、代役としてさんまが急きょ抜擢された。さんまは「クワックワッ」という特徴的な笑い方を取り入れて、ブラックデビルというキャラクターをすっかり自分のものにしてしまった。その後、このコーナーに高田が復帰することはなくなり、ブラックデビルはさんまが演じるキャラクターとして後世に名を残すことになった。

1986年にはビートたけしが講談社フライデー編集部襲撃事件を起こし、約8カ月にわたって謹慎することになった。彼のレギュラー番組の多くは高視聴率の人気番組だったため、ほとんどの番組は打ち切りになることはなく、代役を立てて継続されることになった。

このとき、白羽の矢が立ったのが、当時たけしの所属事務所の後輩だった山田邦子である。気鋭の若手女性芸人として注目されていた山田は、たけしの代役として『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』や『スーパーJOCKEY』の司会を務めた。この経験を生かして、のちに彼女は多くの番組で司会を務めることになった。

紳助の引退で世代交代が加速

2011年には、暴力団関係者との交際疑惑を週刊誌に報じられた島田紳助が引退を発表した。このときにも、彼のレギュラー番組の多くは、事務所の後輩が代役を務める形で継続された。『開運!なんでも鑑定団』『オールスター感謝祭』は今田耕司が、『行列のできる法律相談所』は東野幸治と後藤輝基が交代で司会を務めることになった。

このときすでに今田と東野は司会業を中心にしていたが、後藤はこの時期から飛躍的に司会者としての仕事を増やしていった。1人の芸人が抜ければ、同じ事務所の後輩芸人がすぐにその穴を埋めていく。それは活躍の機会をうかがう後輩にとってはこの上ないチャンスでもある。

記憶に新しいところでは、2021年1月24日の『サンデージャポン』(TBS)で、脳梗塞で入院した爆笑問題の田中裕二の代役として、くりぃむしちゅーの上田晋也がサプライズ出演を果たしたこともあった。

田中の相方である太田光は、上田と2人で『太田上田』という番組にも出演しており、昔から付き合いの深い盟友である。

番組冒頭、太田が「日本一のMCが来てくれました」と上田を呼び込んだ。太田以外の出演者には、田中の代役として誰が出てくるのか知らされていなかったため、スタジオ中が騒然となっていた。

上田は、初めて仕切る番組とは思えないほど、生き生きとした立ちふるまいを見せていた。ときには「例えツッコミ」を駆使して自分から笑いを取りに行くこともあるが、決してでしゃばりすぎない。生放送の司会を突然任された立場でありながら、水を得た魚のようにのびのびと仕事をこなしていた。

現在では感染者数がまた増え始めている。コロナ感染で芸人がテレビに出られなくなることを前向きに考えるのは不謹慎かもしれないが、このような事態が起こることで、結果的に新しい才能が注目を浴びることはある。一視聴者としては、いつも見ている慣れ親しんだ番組を違った形で楽しめるチャンスだと捉えてもいいのではないか。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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