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TBS選挙特番続投でも話題の太田光が「裏口入学報道」をどうしても許せなかった理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

7月10日放送のTBSの参院選の開票特番に爆笑問題の太田光が起用されることが発表された。昨年の選挙特番でも数々の放言で物議を醸した太田が続投するというニュースは世間を驚かせた。堅苦しく画一的になりがちな選挙特番のあり方に一石を投じるという意味で、個人的にはこのTBSのサプライズ起用は評価したい。

数年前、アメフト部の悪質タックル事件に続いて、応援リーダー部(チアリーディング)監督のパワハラ事件が報じられ、日本大学にまつわる不祥事が止まらない時期があった。そんな中で、意外なところから新たな火種が生まれた。日大出身である爆笑問題の太田に裏口入学の疑いがかけられたのである。

『週刊新潮』の記事によると、太田が30年以上前に日大に合格できたのは、太田の父親が裏口入学ネットワークを通じて日大に800万円を支払ったからだというのだ。太田の所属事務所の社長である太田光代は疑惑を全面的に否定しており、ツイッターで「訴えます」と宣言。訴訟の準備に入っていることを明かした。その後、2022年1月には判決が確定して、新潮側に損害賠償支払いとウェブサイトからの記事削除が命じられた。

ラジオでも怒りの反論

報道された当初、この話は太田本人にとっても寝耳に水だったようだ。記事の中でも直撃取材を受けて疑惑を真っ向から否定した。その後の『JUNK爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)でもオープニングトークでこの件に触れた。開口一番、「浦口直樹の……裏口でお馴染みの太田光ですけどね」と自虐ギャグで自己紹介。

終始怒りをにじませながら、騒動の経緯を解説しつつ、1つ1つの話題について丁寧に説明を行っていた。番組冒頭からCMも挟まず、約50分にわたって太田のワンマンショーが繰り広げられた。太田と同時期に日大に入学している田中裕二も「これ、ひどいわ」とあきれながら相槌を打っていた。

太田が怒るのにはもっともな理由がある。もちろん、受験を経験した本人にとって身に覚えのない事実無根の報道だから、ということが大きいのだと思われるが、それだけではない。

『週刊新潮』の記事によると、裏口入学の手引きをしたのは太田の父親だという。光の父である三郎は2012年に亡くなっている。亡くなった父親を犯人として持ち出したことが、光の怒りを倍増させることになっているのではないか。

病床の父から投げかけられた一言

多くの父と息子がそうであるように、三郎と光も大人になってからはほとんど会話を交わすこともなく、コミュニケーションが途絶えていた。死の間際、病床で三郎は光にこう言った。

「お前、俺のこと嫌いだろ?」

三郎は、一人息子である光に自分が何もしてやれなかったと感じていた。そのため、息子は自分のことを嫌っているのではないかと思い込んでいたのだ。光は想定外の父の発言に驚き、そんなことはないと否定した。その後間もなく三郎は息を引き取った。光は自分が親不孝をしてきたことを思い知らされた。

光は著書などでもたびたび父親のことについて触れているが、嫌っているという趣旨のことは一切書いていない。むしろ、建築家として職人の世界に生きる父に子供の頃から憧れを持っていたと語っている。

また、三郎はさまざまな分野の知識が豊富な趣味人でもあった。若い頃には自分が書いた小説を太宰治に持ち込んだり、落語家の春風亭柳好に弟子入りしようとしたり、映画監督を目指そうとしたこともあった。漫才をするだけではなく、映画を作ったり小説を書いたりしてきた芸人としての光のキャリアには、父親が大きな影響を与えていることがうかがえる。

大人になってから関係が途切れてしまったものの、光はずっと父親のことを尊敬していたし、心の底から慕っていた。そんな亡き父のことを持ち出されて疑惑をかけられたからこそ、光は怒りをあらわにしたのだろう。

スキャンダルもネタにする芸人の「業」

降って湧いたようなスキャンダルに巻き込まれた本人には気の毒な話だが、一お笑いファンの立場から言わせてもらえば、この日のラジオでの太田のトークはとてつもなく面白く聴きごたえがあった。

太田はテレビ、ラジオ、ライブ、活字とさまざまな表現手段を持っている芸人だが、こういうタイムリーな話題について冗談を交えつつ時間をかけて深く掘り下げて語れるのはラジオしかない。ラジオというメディアの特性が存分に生かされていた。

爆笑問題は時事ネタ漫才を持ち芸にしていて、芸能ニュースもしばしばその題材となる。また、太田はほかの人が避けるようなタブーにもあえて踏み込んでいくようなスタンスをとっていて、テレビで共演する芸人やタレントにまつわるスキャンダルがあれば、率先してそれをネタにしていくようなところがある。

そんな彼は、自分がスキャンダルに巻き込まれたときにも逃げるわけにはいかない。太田には「受けて立つ」以外の選択肢がないのだ。だから、週刊誌が最愛の父を侮辱するような行為に及んでいたとしても、ある程度の笑いを交えながらそこに立ち向かうしかない。それが太田の芸人としての「業」というものだ。

怒りを表に出し、やるせない悲しみをにじませながらも、ラジオを舞台に自らの言葉で戦う太田は輝いていた。芸人という生き物のすごさを思い知らされるのはこういう瞬間である。

選挙特番で再び矢面に立つ太田が、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか大いに期待したい。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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