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ラジオ番組『ANN』も好調! 異色のヒップホップユニット・Creepy Nutsの人気の秘密は?

ラリー遠田作家・お笑い評論家

この春の改編で、ニッポン放送の深夜ラジオ番組『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0』が、『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』として放送されることになった。火曜の深夜3時から放送されていた番組が、4月からは月曜の深夜1時からの時間帯に繰り上がることになった。

Creepy Nutsとは、R-指定とDJ松永の2人から成るヒップホップユニットである。「ヒップホップ=不良」のイメージを覆す親しみやすいキャラクターの2人が、深夜ラジオでは飾らない本音トークを繰り広げて人気を博していた。

最近では、そんなCreepy Nutsの2人をテレビで見かける機会が増えてきた。EXITとのレギュラー番組『イグナッツ!!』(テレビ朝日)をはじめとして、数多くのバラエティ番組に出演している。

ラッパーのR-指定は日本最高峰のMCバトル『UMB GRAND CHAMPIONSHIP』で3年連続の優勝を果たしている。一方のDJ松永はイギリス・ロンドンで行われた世界最大規模のDJ大会『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019』で優勝した。2人ともヒップホップミュージシャンとしては文句なしの実績を残している。

しかし、バラエティ番組に出ているときの彼らは、人懐っこい笑顔を浮かべるフレッシュな若手タレントである。その飾らない自然体のたたずまいは、今どきのタレントには珍しい。

テレビ慣れしていない純朴さが新鮮

昔から、ミュージシャンでありながらテレビタレントとしても活躍する人はいた。バラエティ番組で重宝されるミュージシャンの条件は「キャラが強い」「トークが面白い」のどちらかの要素を持っていることだ。例えば、GACKTはどちらかと言うと前者、西川貴教は後者の要素を持っている。デーモン閣下のように両方の要素を持っている人もまれにいる。

だが、Creepy Nutsの2人はこの条件にあまり当てはまっていないように見える。見た目がそれほど目立つわけではないし、ラジオ番組を持っていてトークに慣れているとはいえ、プロの芸人のような並外れた話術があるわけでもない。ただ、目立ちたがり屋でもなくテレビ慣れもしていないその純朴さが、一周回って新鮮に見えている。

彼らはヒップホップミュージシャンでありながら、荒々しいイメージがなく、親しみやすいところがある。本人たちも、何も特別なことがない一般家庭で育った自身の生い立ちにコンプレックスを感じているところもあるようだ。特に、DJ松永は「童貞感」を売りにしていて、バラエティ番組でもこじらせた本音を赤裸々に語ることが多い。

2020年に『あちこちオードリー』(テレビ東京)に出たとき、Creepy Nutsはバラエティ番組に出始めた時期だった。DJ松永は、気心の知れたオードリーを前にしてテレビの仕事への不平不満をぶちまけた。そんな彼に対してオードリーの若林正恭は「テレビの仕事増えちゃうぞ」と言った。それから1年、若林の言葉通り、彼らのテレビ出演は大幅に増えていった。

レギュラー番組を獲得しただけでなく、ゲストとしてバラエティ番組に呼ばれる機会も激増。さらに、『情熱大陸』(MBS・TBS系)に取り上げられたり、R-指定が『人志松本のすべらない話』(フジテレビ)に出演したり、テレビのさまざまな分野に進出していった。

生のリアクションが予定調和を崩す

DJ松永がテレビで話しているのを聞くと、良くも悪くも「普通の人だな」と思う。そこら辺を歩いている普通の内気な青年が、いきなりテレビに引っ張り出されたときに思うようなことを率直に語っている。それがドキュメンタリーとして新鮮で面白い。

テレビというのは、徹頭徹尾作り物でありながら、そこに生々しさも求められるという矛盾がある。テレビのフレーム内に映るすべてのものは、制作者の意図によって作り込まれたものであり、出演者も制作の意図に従って動く操り人形のようなものだ。しかし、出演者が話す内容や出演者の存在感そのものには生っぽさがないと面白くならない。

テレビタレントとして生きると決めているプロの立ちふるまいは、どうしても一定の枠の中に収まったものになりがちだ。だからこそ、テレビは常に外部に新しい才能を求める。学者、ミュージシャン、アーティスト、モデルなど、別の分野の専門家がテレビの空間に引っ張り出されてくる。そして、テレビ的ではない生のリアクションをする。それが予定調和を崩してテレビを面白くしてくれる。

誤解を恐れずに言えば、Creepy Nutsがいま座っている場所は、一昔前に蛭子能収が座っていた場所と同じだ。DJ松永にはこれからも「若蛭子」として、飾らない物言いで視聴者を楽しませてほしい。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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