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「ポスト坂上忍」の大本命! 本音で勝負する長嶋一茂、石原良純、高嶋ちさ子の魅力

ラリー遠田作家・お笑い評論家

ここ数年、俳優の坂上忍がテレビバラエティの世界を席巻していた。ゴールデンタイムには『坂上どうぶつ王国』『坂上&指原のつぶれない店』などの冠番組を持ち、平日の昼には生放送の帯番組『バイキングMORE』の司会を長年にわたって務めてきた。

しかし、そんな「坂上王国」の栄光にもようやく陰りが見えてきた。いまや坂上の代名詞とも言える『バイキングMORE』がこの春に終了することになったからだ。彼はライフワークとしている動物保護活動に注力するため、自ら番組卒業を申し出たという。

テレビタレントとしての坂上の特徴は「本音キャラ」である。余分な綺麗事やお世辞を言わず、どんなことに対しても本音を語ってくれそう、と多くの視聴者に期待されているのだ。

坂上は俳優であり、バラエティが自分の本業だとは思っていない。自分の軸足をテレビに置いていないからこそ、いつそのポジションを失っても構わないという覚悟を持っていて、ほかのタレントよりも一歩踏み込んだ発言ができた。テレビの制作者も出演者も、叩かれるリスクを恐れて守りに入りがちなので、坂上のように堂々と本音を言える人間が重宝されてきたのだ。

一茂・良純・ちさ子が『紅白』の裏番組を任される

現在、テレビ界では坂上の次に続く人材が求められている。そこで「ポスト坂上忍」の最有力候補と思われるのが、長嶋一茂、石原良純、高嶋ちさ子の3人だ。彼らはテレビ朝日の人気番組『ザワつく! 金曜日』にレギュラー出演している。

2019年からは毎年、大晦日にも特番が放送されている。『NHK紅白歌合戦』の時間帯にぶつけているのは、局からの期待感の表れだ。実際、2021年の大晦日にはこの番組が初めて民放でトップの視聴率を記録した。

この3人にはいくつかの共通点がある。1つ目は、裕福な家庭で浮世離れした環境で育ってきたため、常に自分のペースを貫いているということだ。一茂の父は長嶋茂雄。良純の父は石原慎太郎。高嶋の父は高名な音楽ディレクター。特殊な環境に身を置き続けたことで、物怖じしない性格が育まれていったのだろう。また、それぞれ家庭が裕福であるため、タレント業で仕事を失うことを恐れていない。それが彼らの自由奔放な発言を生んでいる。

2つ目は、プロの世界で厳しい競争にさらされてきた苦労人でもあるということ。一茂はプロ野球選手になり、史上最高の天才プレーヤーだった父の才能を受け継ぐ者として日本中の期待を一身に集めてきた。良純は役者やタレントとして仕事を続けながら、難関と言われる気象予報士の資格を取得して、さらに仕事の幅を広げた。高嶋はヴァイオリニストとして年間100回以上のライブやイベントに出演している。厳しい世界を知っているプロ中のプロであるからこそ、そんな彼らのどこか抜けている部分が妙に人間臭く見えて、愛される要因になっている。

3つ目は、それぞれバラエティタレントとしてのキャリアが長く、テレビにも慣れているということだ。彼らは昨日今日出てきた駆け出しのタレントではない。テレビでどういうキャラクターが求められるのかということもよくわかっている。だから、今さら脚光を浴びたところで浮足立つこともないし、ボロが出ることもない。

この3人は坂上にも劣らない本音トークを得意としているが、坂上ほど攻撃的なところがなく、マイペースで落ち着いた印象を与える。そういうところも魅力的である。

猛獣を手懐けるサバンナ高橋の手腕

ただ、それぞれ主張が強いこの3人が並び立つ様子はなかなかスリリングだ。『ザワつく! 金曜日』はその意味で刺激的な番組である。3人が好き勝手に持論を述べたり、口論になったりしてすぐに収拾がつかなくなる。

そこを何とかまとめて番組を進行させていく役割を与えられているのが、サバンナの高橋茂雄である。高橋ぐらいの手練でなければこの場をまとめることはできないだろう。3匹の猛獣の共演はそれだけで強烈なインパクトがある。バラエティの世界で坂上の抜けた穴を埋められる可能性があるのは、この3人のうちの誰かではないだろうか。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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