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「ゆとり世代のしっかり者」横澤夏子が輝き続ける理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

女性ピン芸人の横澤夏子は、結婚して二児の母となってからも精力的に活動を続けている。彼女は芸人・タレントとしての仕事以外でも、信念を持って社会的な行動を進めている。

横澤は子供を持つ親にも気軽にお笑いを楽しんでほしいという思いから、お笑いの劇場に託児所を設けたいと考えていた。所属事務所の吉本興業もそんな横澤の提案を受け入れて、大宮ラクーンよしもと劇場に簡易託児所が開設された。(現在はコロナ対策のためにサービスが一時中止されている)

横澤は私たちの身のまわりにいそうな「ちょっとイラッとくる女」のものまねネタで注目され、2016年にピン芸日本一を決める大会『R-1ぐらんぷり』(現在の表記は『R-1グランプリ』)で決勝進出を果たした。その頃から次第にメディア出演の機会が増えていった。

身近にいる気になる人物をじっくり観察して、それをネタに取り入れていくスタイルのピン芸人は、これまでにもいた。その中で横澤のネタの特徴は、本当に学校や会社や街角で見かけたことがあるような、親近感がわく人物を題材にしているということ。そして、どんな人物を演じていても彼女自身のキャラクターがぶれていない、ということだ。

ものまねやコントを持ちネタとする芸人の中には、本人の素の状態がわからなくなるくらい役柄に深く入り込んで演じる、いわゆる「憑依型」と呼ばれる人もいる。

一方、横澤にはそういう感じはない。あくまでも素のキャラは崩さず、それに近いところにいる人物を絶妙な切り口で演じている。いわば、彼女が演じる「ちょっとイラッとくる女」とは、一歩間違えればそうなっていたかもしれない、自分自身の分身のようなもの。だからこそ、そこにリアリティがあって面白い。

女子である自分を堂々と肯定する

横澤は、結婚前には驚くほどまっすぐな結婚願望を持っていた。街コンや婚活パーティーに足しげく通い、積極的に恋人探しに乗り出していた。また、中学時代には生徒会長に就任して、当時好きだった男子を生徒会役員に指名。自らの権力を利用して意中の男性とお近づきになり、交際することに成功したこともあったという。恋愛にはとにかく積極的で、「彼氏欲しい!」「結婚したい!」「素敵な恋愛したい!」と堂々と公言する彼女は、今までありそうでなかった珍しいタイプの女性芸人だった。

一般に、女性芸人になるような人は、どこか屈折したところがあったり、コンプレックスを抱えていたり、恋愛で大きな挫折を経験していたりするため、恋愛願望をまっすぐに語ることに照れや戸惑いを感じていることが多い。

ところが、横澤にはその種の照れがほとんど見受けられない。素直にのびのびと育ち、「女子」である自分を堂々と肯定している。それでいて、ちょっとイラッとくるような同性の言動には人一倍敏感で、それをネタに換える皮肉っぽい目線も備えている。この両方の要素をバランス良く持っているというのが、横澤という芸人の最大の特徴であり、魅力的なところだ。

欲しいものは何でも手に入れる

横澤さんは仕事にも常に前向きだ。世に出る前からコツコツとネタを作り続けて、貪欲にチャンスをうかがってきた。『とんねるずのみなさんのおかげでした』の「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」のオーディションに臨んだ際、大量のネタを用意してスタッフを驚かせたというエピソードは有名だ。仕事には真面目に打ち込み、恋愛にも興味津々。エネルギッシュに動き続けて、欲しいものは何でも手に入れようとする貪欲さが彼女にはある。

1990年生まれの横澤は、いわゆる「ゆとり世代」のど真ん中にあたる。一昔前にはゆとり世代が何かと揶揄される対象になることも多かったが、その中で手を抜かず努力し続ける人がいれば、頭ひとつ抜け出してトップに立つことができる。横澤の素顔は、ゆとり世代のしっかり者。ひたすら前に突き進む底抜けの明るさと貪欲さを武器に、彼女はこれからも活躍の場を広げていくのだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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