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「角野卓造じゃねえよ!」の一言で女性芸人全盛時代の扉を開いたハリセンボン・近藤春菜の功績

ラリー遠田作家・お笑い評論家

今のお笑い界では、女性芸人に対する注目度が年々上がっている。毎年のように新しい女性芸人が出てきてあっという間に人気者になっていくし、女性芸人限定のお笑いコンテストも始まった。

そんな女性芸人全盛時代を築いた立役者の1人が、ハリセンボンの近藤春菜である。彼女は女性芸人の中でも有数の売れっ子であり、朝の生情報番組『スッキリ!!』(日本テレビ)のサブMCを務めたことでも話題になった。

近藤の代名詞として真っ先に思い浮かぶのが「角野卓造じゃねえよ!」というツッコミだ。彼女の顔に似ている俳優がいることから生まれた一種のギャグである。これにはほかにもいろいろなバリエーションがあり、「シュレックじゃねえよ」「マイケル・ムーア監督じゃねえよ」などと、相手の投げかけた言葉に応じて使い分けられていた。

「角野卓造じゃねえよ!」誕生秘話

このギャグが生まれた瞬間のことは私もよく覚えている。もう10年以上も前、ロンドンブーツ1号2号が司会を務める『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)に近藤が出演していた。まだテレビに出始めの頃で、彼女の顔にも緊張の色が見えた。そんな中で、司会の田村淳から何度も「角野卓造さんに似ている」という話を振られたのだ。

近藤が必死になって声を張り上げて「角野卓造じゃねえよ!」と言い返すと、場が大いに盛り上がった。その後、ほかの芸人もこれを真似て、彼女にネタを振るようになった。それがどんどん発展していって、1つの定番の流れとして定着した。

その後、芸人以外の人も、彼女に対してこのくだりを仕掛けるようになった。彼女は律儀にそれを打ち返していた。すると、そこから自然に笑いが生まれていった。この技を使うことで、彼女はどんな人が相手でもその人と距離を縮めることができるようになった。

最近では「容姿いじり」が敬遠される風潮もあって、このやり取りはあまり見られなくなっているが、「角野卓造じゃねえよ!」という決めフレーズが彼女が世に出るきっかけの1つとなったのは事実である。

押しつけがましくない優しいツッコミ

この得意技からもうかがえるように、近藤は基本的にツッコミ担当の芸人である。だが、誰かを批判したり文句を言ったりするという印象は薄い。むしろ、誰かにイジられて言い返すという形のツッコミを得意としていた。ここに彼女の特徴がある。

本来の近藤は、どちらかというとおとなしく内気な人間である。お笑い養成所時代にも、暗くてなかなか前に出られないタイプだったという。そんな彼女は、自分と同じおとなしい性格の箕輪はるかと出会い、意気投合してコンビを結成することにした。

近藤はもともと明るい人気者タイプというわけではない。だからこそ、偉そうな感じや押しつけがましい感じがない。背伸びして必死でがんばっているという好印象だけが残るので、それが好感度の高さにもつながっている。

いまや近藤も「若手」と呼べるキャリアでもないのだが、いまだに出始めた頃の初々しい感じを失っていない。ベテランらしい落ち着きと若手らしいパワーの両方を兼ね備えているのが、芸人としての彼女の魅力なのだ。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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