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どうなる!?『キングオブコント2020』

ラリー遠田作家・お笑い評論家

9月26日にコント日本一を決める『キングオブコント2020』の決勝が行われる。この大会の模様は毎年、TBS系列全国ネットで生放送されている。今年は「お笑いの日2020」という8時間の生放送特番の中の目玉企画として行われる。

『キングオブコント』はコント日本一を決めるお笑いコンテストであり、コントを専門にする若手芸人にとっては登竜門のような存在だ。ここで結果を残せば、芸人として一気に飛躍するチャンスをつかむことができる。今年の大会の見どころを簡単に述べたい。

今年のファイナリストは、うるとらブギーズ、空気階段、ザ・ギース、GAG、ジャルジャル、ジャングルポケット、滝音、ニッポンの社長、ニューヨーク、ロングコートダディの10組。

この顔ぶれを見て真っ先に気付くのは、例年よりも吉本興業の芸人の割合が高いということだ。実に10組中9組が吉本芸人で占められている。

吉本芸人はもともと数が多いのだが、どちらかと言うと漫才を専門にする人が多く、コントをやる人は少ない。コントの大会である『キングオブコント』では、吉本芸人と他事務所芸人がだいたい半分ずつぐらいの割合で決勝に進むことが多かった。ここまで吉本芸人が多い方に偏るのは異例のことだ。

その背景にはコロナ禍の影響があると考えられる。新型コロナウイルス感染症の流行により、エンタメ業界は大打撃を受けた。お笑い界も例外ではない。東京・大阪を中心とした劇場やライブハウスで毎日当たり前のように行われていたお笑いライブは軒並み中止になり、なかなか公演は再開しなかった。

ようやく再開するようになってからも、公演数が少なかったり、客席数が極端に減らされていたりした。今年は芸人が人前でまともにネタを演じられる機会が極端に少なかったということになる。

例年であれば、『キングオブコント』に向けて若手芸人はネタを磨いている。いろいろなライブでネタをかけて、その都度、観客の反応を見て、ネタを調整していくという過程がある。

今年はどの芸人もそのプロセスを踏むことができなかった。そのため、全参加者が例年ほどは磨き上がっていないネタで勝負するしかない状況に追い込まれた。そのことが吉本芸人を少しだけ有利にした可能性がある。

吉本でもお笑いライブは中止になっていたのだが、公演の再開は比較的早かった。吉本興業は客席数の多い自前の劇場を持っているため、席の間隔を空けて感染に配慮しながら公演を部分的に再開することができた。

一方、他事務所の芸人が出るライブの多くは、小規模なライブハウスで行われていた。会場が狭く空気も悪いため、感染対策が難しい環境だった。

吉本興業がライブを再開するのとほぼ同時に、それ以外の事務所やライブ主催団体でもお笑いライブが再開される動きはあったのだが、それでもなかなか普段通りの公演ペースには戻らなかった。他事務所の芸人が人前でネタを試せる回数は、今年に限っては極端に少なかったのではないかと思われる。

また、どの芸人も十分にネタを磨くことができない状況では、その芸人の本来の実力が試される。吉本芸人は普段から舞台の数が多く、芸人としての地力が鍛えられている。その点がこの結果につながったのかもしれない。

とはいえ、例年、決勝に行けた人と行けなかった人の差は紙一重である。吉本と他事務所の差というのも、実際には誤差の範囲内だろう。この手の大会で準決勝の戦いを生で見るたびに「誰が勝ってもおかしくない」というふうに感じられる。

例年ほどコンテスト仕様にネタが磨き上げられていないとはいえ、厳しい予選をくぐり抜けたファイナリストによる上質なネタを見て、一般視聴者がそこに違和感を覚えることはまずないだろう。コロナ禍という不運に見舞われたとはいえ、決勝は間違いなく例年通りの熱戦になるはずだ。

幸いにも、一昔前に比べると、芸人のネタを見られる番組は増えてきた。『キングオブコント』のようなお笑いコンテスト番組は、そんな数あるネタ番組の中でも、面白さが保証された一段上の権威ある番組だと考えればいいと思う。

『キングオブコント2020』は、9月26日の19時からTBS系列全国ネットで生放送される。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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