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日本エレキテル連合がブレイクした3つの理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

「ダメよ~、ダメダメ」の決めフレーズでいま話題の芸人と言えば、女性コンビの日本エレキテル連合。いまやテレビで見ない日はないというほどの人気ぶりで、無料通話・メールアプリ「LINE」でも「日本エレキテル連合」のスタンプがリリースされました。年末の「流行語大賞」受賞へ待ったなしの状態です。

人気に火がついたきっかけは、橋本小雪さんが演じる「未亡人朱美ちゃん」と中野聡子さんが演じる「細貝さん」のコントをテレビで披露したこと。派手な衣装に身を包み顔を白塗りにしているおしゃべりロボットの朱美ちゃんは、小平市在住の中年男性・細貝さんが何を言っても、「ダメよ~、ダメダメ」と冷たく繰り返すだけ。それでも細貝さんはくじけず、「いいじゃないの~」としつこく朱美ちゃんに言い寄っていきます。

このネタが大反響を巻き起こし、どんどんテレビ出演の機会も増えていきました。日本エレキテル連合は、なぜここまで大ブレイクしたのでしょうか?

ヒットの要因は大きく分けて3つあると思います。1つは「インパクト抜群のキャラクター」。白塗りメイクで派手な衣装の「朱美ちゃん」は、一目見ただけで忘れられなくなるほどの強烈な印象を与えます。

日本エレキテル連合の2人は、衣装や小道具に独特のこだわりを持っています。自分たちの足でフリーマーケットや作業服店を回り、お気に入りの衣装や小道具を探し求めています。そして、その衣装からイメージを膨らませてネタを作っているのです。

着ているものやメイクなどのディテールにこだわっているからこそ、パッと見たときの印象が鮮烈なものになるのです。テレビを見ている人は、「朱美ちゃん」のコントをほんの一瞬見ただけで「何かおかしなことをやっているぞ」と分かります。見た目で人を引きつけて、自分たちの世界に引き込んでいるのです。

2つ目は「グロかわいい」という魅力があること。日本エレキテル連合は、実は女性にも絶大な人気があります。その理由は、彼女たちの演じるキャラクターが「不気味だけど、ちょっとかわいい」からだと思います。

実は「かわいい」に「グロい」が少し混ざっていると、より深みのある「かわいい」が生まれることがあるのです。原宿系ファッションモデル・歌手として多方面で活躍するきゃりーぱみゅぱみゅさんのファッションにも、しばしばドクロや目玉などのグロテスクなモチーフが取り入れられています。不気味なものは、時として180度その意味を変えて「かわいいもの」として生まれ変わることがあるのです。

日本エレキテル連合のコントには、確実にそういう種類の「グロかわいい」が存在しています。ネタの中でどんなにショッキングな展開や不気味な造型があっても、なぜか気持ち悪さはなく、どこかかわいらしく見えるところがあるのです。その絶妙なさじ加減こそが、彼女たちが多くの女性に支持されている秘密だと思います。

3つ目は、ネタの密度が濃いことです。「朱美ちゃんと細貝さん」のコントも、最後までストーリーを丁寧に追っていくと、中年男性の孤独と悲哀、情熱と冷酷さを巧みに描いた実に味わい深い物語であることが分かります。

でも、そこまで深読みしなくても、見た目がおかしな2人がおかしな調子でヘンなことを言い合っているコント、と単純に受け取ることもできます。そうやって理解しても十分に楽しめます。

つまり、受け手の理解力に合わせて、彼女たちのコントはそれぞれ違った種類の面白さを提供してくれます。だから多くの人が楽しめるし、同じネタを繰り返し見てもその度に新たな発見があります。ネタの密度が濃いというのはそういうことです。

見た目のインパクト、グロカワの魅力、ネタの密度。これだけの要素を高いレベルで兼ね備えている芸人は、お笑い界広しと言えども日本エレキテル連合だけではないでしょうか。この熱狂的なブームが一段落した後にも、彼女たちはきっと新たなネタで私たちを楽しませてくれることでしょう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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