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症状、予防、経過と治療… 新型コロナウイルス感染症とは? 現時点で分かっていること(2021年1月)

忽那賢志感染症専門医
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

新型コロナウイルス感染症について様々なことが分かってきました。

流行状況、症状、治療、予防など現時点で分かっていることについてまとめています(記事の内容は2021年1月24日時点での情報です)。

新型コロナウイルスとは?

コロナウイルスによる感染症の種類と比較(国立感染症研究所「コロナウイルスとは」を参考に筆者作成)
コロナウイルスによる感染症の種類と比較(国立感染症研究所「コロナウイルスとは」を参考に筆者作成)

これまでにヒトに感染するコロナウイルスは4種類知られており、かぜの原因の10〜30%を占める原因ウイルスとして知られていました。

2002年中国広東省に端を発したSARS(重症急性呼吸器症候群)は、コウモリ(あるいはハクビシン)のコロナウイルスがヒトに感染し、ヒト-ヒト感染を起こすことで8000人を超える感染者を出しました。

また2012年には中東でMERS(中東呼吸器症候群)が報告され、ヒトコブラクダからヒトに感染する感染症であることが分かりました。

そして2019年12月末から中国の湖北省武漢市で発生した原因不明の肺炎は、新型のコロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因であることが判明しました。

新型コロナウイルスの世界での広がりは?

新型コロナウイルス感染症の症例が報告されている国(2021年1月19日時点. WHO Situation Report 2021 Jan 19より)
新型コロナウイルス感染症の症例が報告されている国(2021年1月19日時点. WHO Situation Report 2021 Jan 19より)

2021年1月24日時点での世界における新型コロナ患者は、

感染者数:9,869万人

死亡者数:212万人

致死率:2.1%

John Hopkins Coronavirus Resource Center

となっています。

世界で最初に報告された新型コロナ症例から、1,000万症例に到達するまで177日かかっていますが、そこからは症例増加ペースは加速しており、

【世界における新型コロナ感染者数 増加までの日数】

1例〜1,000万例まで:177日

1,000万例〜2,000万例まで:44日

2,000万例~3,000万例まで:37日

3,000万例~4,000万例まで:31日

4,000万例~5,000万例まで:21日

5,000万例〜6,000万例まで:17日

6,000万例〜7,000万例まで:17日

7,000万例~8,000万例まで:16日

8,000万例〜9,000万例まで:15日

Johns Hopkins Coronavirus Resource Center

とだんだんと感染者が1000万人増えるまでの期間が短くなってきています。

また、最初に報告された死亡者から、115日で25万人に達していますが、それ以降は、

【世界における新型コロナ死亡者数 増加までの日数】

1例〜25万例まで:115日

25万例~50万例まで:56日

50万例~75万例まで:46日

75万例~100万例まで:45日

100万例〜125万例まで:40日

125万例~150万例まで:26日

150万例~175万例まで:23日

175万例〜200万例まで:20日

Johns Hopkins Coronavirus Resource Center

とだんだんと死亡者数の増加ペースも速くなっています。

現在、特に新型コロナが流行しているのは、北アメリカ大陸、ヨーロッパ、南アメリカ大陸です。

アジア地域は、これらの地域と比較すると相対的には感染者数が少なくなっています。

新型コロナウイルスの日本での広がりは?

日本における新型コロナの新規報告者数 厚生労働省「国内の発生状況など」より(2020年1月24日時点)
日本における新型コロナの新規報告者数 厚生労働省「国内の発生状況など」より(2020年1月24日時点)

2021年1月24日時点での日本国内での新型コロナの報告数は、

感染者数:361,812人

死亡者数:5,063人

致死率:1.4%

新型コロナウイルス感染症まとめ

となっています。

日本で最初に新型コロナ症例が報告されたのは2020年1月16日ですが、

【日本における新型コロナ感染者数 増加までの日数】

1例〜5万例まで:212日

5万例〜10万例まで:76日

10万例〜15万例まで:32日

15万例〜20万例まで:20日

20万例〜25万例まで:15日

25万例〜30万例まで:8日

30万例〜35万例まで:9日

厚生労働省 オープンデータ

とだんだんと感染者数が5万人増えるまでの期間が短くなってきています。

また、日本で最初に死亡者が報告された2月13日から、166日で1000人に達していますが、それ以降は、

【日本における新型コロナ死亡者数 増加までの日数】

1例〜1,000例まで:166日

1,000例~2,000例まで:101日

2,000例~3,000例まで:29日

3,000例〜4,000例まで:18日

4,000例〜5,000例まで:14日

厚生労働省 オープンデータ

とだんだんと死亡者数の増加ペースも速くなっています。

変異株の広がりは?

世界におけるイギリス変異株、南アフリカ変異株の検出状況(2021年1月19日時点 WHO Situation Report 2021 Jan 19より)
世界におけるイギリス変異株、南アフリカ変異株の検出状況(2021年1月19日時点 WHO Situation Report 2021 Jan 19より)

現在、イギリス、南アフリカ共和国で新たな変異株が見つかり世界各国に広がっており、また1月6日には新たにブラジルからの渡航者から変異株が検出されたことが国立感染症研究所から報告され、変異株の拡大が世界的な問題となっています。

イギリス変異株VOC202012/01、南アフリカ変異株501Y.V2は感染性が強くなっていると報告されており、また南アフリカ変異株501Y.V2とブラジル変異株P.1は既存の新型コロナウイルスに対する中和抗体への反応性が低くなっており、再感染やワクチンの有効性低下が懸念されています。

イギリス変異株、南アフリカ変異株、ブラジル変異株の比較(筆者作成)
イギリス変異株、南アフリカ変異株、ブラジル変異株の比較(筆者作成)

日本では2020年12月25日に空港検疫でイギリス変異株が見つかって以降、報告が増えていますが、1月15日には静岡県で渡航歴のない感染経路不明の新型コロナ患者が報告されています。また1月21日には東京都内でも同様に渡航歴のない感染経路不明のイギリス変異株の事例が報告されています。

南アフリカ変異株およびブラジル変異株は空港検疫からのみ検出されており、国内で広がっている状況ではありません。

新型コロナウイルス感染症の症状は?

新型コロナでよくみられる症状(CDC「新型コロナの臨床症状」より)
新型コロナでよくみられる症状(CDC「新型コロナの臨床症状」より)

新型コロナの潜伏期間(感染する機会から何らかの症状を発症するまでの期間)には1〜14日と幅がありますが、多くの人がおよそ4〜5日で発症します。

新型コロナウイルス感染症の初期症状は風邪やインフルエンザと似ており、

・発熱

・咳

・だるさ

・食欲低下

・息切れ

・痰

・筋肉痛

・嗅覚障害・味覚障害

などの症状が見られることが多いです。

特に「息切れ」「嗅覚障害・味覚障害」の症状は、風邪やインフルエンザでは稀な症状ですので、新型コロナの可能性を疑うきっかけになります。

新型コロナウイルス感染症の経過(BMJ 2020;371:m3862より イラストと頻度は筆者加筆)
新型コロナウイルス感染症の経過(BMJ 2020;371:m3862より イラストと頻度は筆者加筆)

新型コロナに特徴的なのは、症状の続く期間の長さです。

特に重症化する事例では、発症から1週間前後で肺炎の症状(咳・痰・呼吸困難など)が強くなってくることが分かっています。

流行早期の中国での4万人の感染者のデータによると、発症してから1週間程度は風邪のような軽微な症状が続き、約8割の方はそのまま治癒しますが、約2割弱と考えられる重症化する人はそこから徐々に肺炎の症状が悪化して入院に至ります。

2割のうち全体の約5%の症例で集中治療が必要になり、約2%の事例で致命的になりうるとされています。

新型コロナウイルス感染症にかかると重症化しやすい人は?

年齢・基礎疾患による入院・死亡リスク(CDC資料より)
年齢・基礎疾患による入院・死亡リスク(CDC資料より)

これまでに報告されている死亡者は持病を持つ人や高齢者に多いことが分かっています。

また、糖尿病、慢性呼吸器疾患、心血管疾患、高血圧、がんなどの持病を持つ人では、持病のない人よりも致死率が高いと報告されています。

また基礎疾患も1つ持っているだけの方よりも、2つ、3つ持っている方の方が入院リスクや死亡リスクが高くなるとされています。

例えば、肥満があり、かつ高血圧がある(私のことです)場合は入院リスクが4.5倍になります。

新型コロナの後遺症にはどんな症状がある?

日本で行われた新型コロナ後遺症の調査結果(Open Forum Infectious Diseases, ofaa507よりイラスト・説明は筆者加筆)
日本で行われた新型コロナ後遺症の調査結果(Open Forum Infectious Diseases, ofaa507よりイラスト・説明は筆者加筆)

新型コロナから回復した後も数ヶ月以上も何らかの"後遺症"の症状が続く方がいることが分かっています。

イタリアからの報告では、特に倦怠感や呼吸苦、関節痛、胸痛などの症状が続いている方が多く、その他、咳、嗅覚障害、目や口の乾燥、鼻炎、結膜充血、味覚障害、頭痛、痰、食欲不振、ノドの痛み、めまい、筋肉痛、下痢など様々な症状がみられるようです。

また、フランスからは、脱毛、記憶障害、睡眠障害、集中力低下といった急性期にはみられなかった症状も後遺症として報告されています。

日本人を主な対象とした国立国際医療研究センターによる調査でも、咳、痰、だるさ、呼吸苦、嗅覚障害、味覚障害といった症状が、発症60日後も10-20%、発症120日後も2-11%でみられました。また脱毛も全体の24%でみられ、発症から1ヶ月後から出現し、4ヶ月後くらいまでみられることが分かりました。

今のところこれらの後遺症に対する治療法はなく、新型コロナに罹らないことが最大の予防法です。

新型コロナウイルスの診断は?

画像検査

新型コロナウイルス感染症患者の胸部レントゲン(左)と胸部CT(右)(患者さんの許可を得て掲載しています)
新型コロナウイルス感染症患者の胸部レントゲン(左)と胸部CT(右)(患者さんの許可を得て掲載しています)

新型コロナウイルス感染症患者は高い頻度で肺炎を起こしています。

そのため胸部レントゲンを撮影して肺炎の有無を確認しますが、肺炎のある患者でも胸部レントゲンでは見逃すことがあります。

肺炎の有無を正確に確認するためにはCT検査を行います。新型コロナウイルス感染症では左右の肺の外側に影が出るのが特徴的とされます。

PCR検査・抗原検査・抗体検査

PCR検査、抗原検査、抗体検査の特徴と長所・短所(筆者作成)
PCR検査、抗原検査、抗体検査の特徴と長所・短所(筆者作成)

新型コロナウイルス感染症の確定診断には「PCR検査」または「抗原検査」が用いられています。

PCR検査とは、ウイルスの遺伝子を検出する検査です。

新型コロナウイルス感染症の患者ではノドの奥や痰の中、唾液などに新型コロナウイルスが存在するため、鼻咽頭を拭ったり唾液を採取したりして、その検体の中のウイルスの有無を検査します。

PCR検査はウイルスの遺伝子が少数であっても検出できるため、一般的に感染症の検査の中では検出力の高い検査とされます。

しかし、PCR検査で新型コロナ患者を100%診断できるわけではなく、感染者でも結果が陰性と出てしまうことがあります(偽陰性)。

PCR検査以外に抗原検査も用いられるようになってきました。

抗原とはウイルスの一部であるタンパク質であり、抗原検査はこれを検出することで診断します。

抗原検査は30分という短時間で検査結果を得られるというメリットがある一方、一定のウイルス量がないと検出できないため見逃しが多くなる可能性があります。

また抗原検査はPCR検査と比較して偽陽性(感染していないのに陽性と出てしまう)の事例が多く報告されています。

「抗体検査」は過去の感染を診断するための検査です。

抗体とは、生体の免疫反応によって体内で作られるものであり、微生物などの異物に攻撃する武器の一つです。

新型コロナウイルスでは発症から概ね2週間くらいで8割の人が、概ね3週間くらいでほぼ全ての人がIgMまたはIgGが陽性になります。

抗体検査は個人個人の診断というよりも、感染症の全体像を把握し、公衆衛生上の対策に役立てることができます。

ただし、特に無症候性感染者や軽症者では抗体が長期間維持されないという報告が出ており、過去に感染した人も抗体検査が陰性と出てしまうこともあります。

新型コロナウイルスの治療は?

新型コロナの治療の考え方(DOI: 10.1056/NEJMcp2009249を元に筆者作成)
新型コロナの治療の考え方(DOI: 10.1056/NEJMcp2009249を元に筆者作成)

新型コロナウイルス感染症に対して有効性が確認されている薬剤はいくつかあります。

発症初期のウイルス増殖期には抗ウイルス薬、そして発症から7〜10日以降の過剰な炎症反応が起こる時期には抗炎症薬が有効ではないかと考えられるようになってきました。

抗ウイルス薬としてはレムデシビル、抗炎症薬としてはデキサメタゾンが国内では新型コロナに対して使用可能になっています。

これ以外にも、臨床研究などでトシリズマブ、ファビピラビル、モノクローナル抗体、回復者血漿など様々な治療薬の有効性が現在も検証されています。

新型コロナウイルス感染症の予防は?

ファイザー/ビオンテック社、モデルナ社のmRNAワクチンの比較(DOI: 10.1056/NEJMoa2035389、N Engl J Med 2020; 383:2603-2615を参考に筆者作成)
ファイザー/ビオンテック社、モデルナ社のmRNAワクチンの比較(DOI: 10.1056/NEJMoa2035389、N Engl J Med 2020; 383:2603-2615を参考に筆者作成)

海外ではファイザー/ビオンテック社が開発したワクチン(BNT162b2)とモデルナ社のワクチン(mRNA-1273)が承認され接種が開始された国が増えてきています。いずれもm(メッセンジャー)RNAワクチンという新しい技術を用いたワクチンです。

どちらのワクチンも大規模なランダム化比較試験という信頼に足る臨床研究によって、発症予防効果90%以上という非常に高い効果が示されています。

新型コロナワクチンの詳細はこちらをご参照ください。

発症前後の新型コロナの感染性の推移(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5を元に筆者作成)
発症前後の新型コロナの感染性の推移(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5を元に筆者作成)

新型コロナはインフルエンザなどと違い、発症する前の状態から人にウイルスをうつすことがあります。

そのため、症状がない人も含めて屋内ではマスクを着用することが推奨されています。

新型コロナの人が周囲の人にうつしやすい時期は、発症の3日前から発症後5日くらいであるとされます。この時期を過ぎると人にうつすことは稀になります。

新型コロナウイルス感染症は、「密閉・密集・密接」の3要素を持つ空間で広がりやすいことも分かっています。

老若男女、全ての人が「3密空間」を避けることが新型コロナ対策では重要です。

また手など触ったところからウイルスが広がり感染する可能性もあるため、こまめな手洗いを行うようにしましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)

※ワクチンの図表に「感染予防効果」と記載していましたが正しくは「発症予防効果」のため修正しました(2021年1月27日)。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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