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「コスプレが非営利目的なら著作権法に抵触しない」というのは本当か?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典;いらすとや

「コスプレの著作権、政府がルール整備 トラブル防止へ」というニュースがありました。「井上信治クールジャパン戦略担当相は、29日の記者会見で、アニメやゲームのキャラクターにふんするコスプレをめぐる著作権トラブルを未然に防ぐため、政府がルール整備に乗り出す狙いについて説明し...ルール整備によってコスプレ文化に水を差すことなく著作権を保護する道を探る考えを示した」ということです。

これ自体は結構なことと思いますが、一般的な二次創作と同様に、コスプレについても趣味的なものについては、権利者が(ガイドラインの公開または暗黙の許諾により)許容している状況だと思います。こういう「阿吽の呼吸」でバランスが取れているところに、公的機関が「厳密に言えば著作権侵害だから正式の契約を行なうべきである」というような余計なことを言い出すと、せっかくいい感じで確立している業界秩序を崩してしまうのではとの懸念を抱いてしまいます。

なお、コスプレの著作権を論じる上では、「そもそもコスプレ衣装は著作物か」という根本的論点がありますが、たとえば、等身大フィギュアに近いものなど著作物に相当するものもあるという前提で話を進めます。

さて、上記記事中の気になる表現に「コスプレが非営利目的なら著作権法に抵触しない」というものがあります。本当でしょうか?著作権法で営利か非営利かが侵害に直接関係する条文は38条くらいです。非営利・入場無料・無報酬の上演・演奏・上映・口述等には著作権は及ばないという規定です。

ということは、コスプレは著作権法の「上演」にあたるということが前提なのでしょうか?確かにそのような解釈をされる人がいるようではありますが、戦隊ショーのようなドラマ仕立てなら別として、通常のコスプレイベントで元作品の演劇的要素を再現することはあるのでしょうか?

もし、他人の著作物を複製した衣装を身にまとって何かを演じると上演権を侵害するという広い解釈を行なってしまうと、自分で正規に買ったミッキーマウスのTシャツを着て、ライブハウスで演奏したり、劇場で漫才をしたりすると著作権侵害ということになってしまいかねません。

ちなみに、もし上記記載が複製権のことを言っているのだとすると(著作物に相当する)コスプレ衣装を自分で作って個人的範囲を越えて使用すれば、営利目的だろうが非営利目的だろうがどっちにしろ複製権侵害です。著作権法上はどちらも侵害だが、非営利目的の場合は権利者が黙示の許諾をしている実情なので問題にならないという意味なのでしょうか?(だとするとちょっと文章をはしょりすぎです。)

他にも著作権法でコスプレを厳密にコントロールしようとするとややこしい論点満載で、短期間で結論を出すのは困難ですし、そもそも上記の「阿吽の呼吸」によるバランスを崩してまで著作権法の解釈を示したり、改正を行なったりすべきなのかは疑問です。営利目的による知財のフリーライドを防ぐべきなのは当然ですが、であれば「表現の保護」を扱う著作権法よりも、まずは「ビジネスの秩序」を扱う不正競争防止法や商標法(場合によっては意匠法)で処理すべきと考えます。

任天堂vsマリカー裁判(参考記事)において、裁判所が不正競争防止法による判断のみを示し、著作権法に関しては判断するに及ばないとしたのも、結論に影響を与えない論点を検討しないことで裁判所の不要な負担を防ぐという意味はあるわけですが、著作権法に関して判断を示すのはいろいろ副作用が多かろうという考えが背後にあったのだと思います。

この問題はかなりややこしく(私も100パーセント把握しているとはとうてい言えません)、他にも論点満載です(たとえば、コスプレしている人を撮影した画像をネットにアップした場合の問題などがあります)。また、追加記事を書く予定です。コスプレの現場にいる方からのフィードバックもお待ちしております。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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