任天堂vsマリカー訴訟の判決文が公開されました

筆者撮影の写真をぼかし加工

公道カートレンタルサービスのマリカー(現名称:MARIモビリティ開発)社を任天堂が訴えていた事件については、(プレスリリースレベルの情報に基づいて)既に書いていますが、ようやく地裁判決文が公開されました。

121ページと結構長いのですが、簡単に要旨をまとめます。主文の大まかな内容は以下のとおりです。

  • 営業上の施設及び活動(外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシによるものを除く)におけるマリカー(MARICAR等のバリエーション含む)標章の使用差止め
  • 営業上の施設及び活動におけるマリオ、ルイージ、ヨッシー、クッパのコスチュームの使用差止め
  • 一部宣伝動画の廃棄
  • maricarを含むドメイン名の使用差止め(外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する場合を除く)
  • 1000万円の損害賠償支払

任天堂にとって大きかったのは「マリカー」が「マリオカート」の略称として周知であるいう判断を得られたことでしょう。結果的に不正競争防止法に基づき「マリカー」という名称の使用禁止が命じられました。これは特許庁の異議申立における判断(参照過去記事)とは異なりますが、かたや特許庁で商標の話、かたや裁判所で不正競争防止法の話なので多少の相違は十分あり得ます。被告側は「マリカー」を商標登録していることを抗弁として主張しましたが権利の濫用として認められませんでした(不正競争防止法が商標権をオーバーライドすることはたまにあります)。なお、任天堂はマリカーという社名の使用の差止めも求めていましたが、マリカー側が先んじて社名を変更してしまいましたので関係なくなりました。

ただし、日本語を解さない外国人にとっては「マリカー」は「マリオカート」の略称として周知ではないという被告側の主張も認められましたので、外国語のみで記載されたウェブサイトやチラシには差止めは適用されないという中途半端な結果になりました。公道カートレンタルビジネスの顧客のほとんどは外国人観光客と思われますので、被告側にとってはそれほどのダメージではないと思われます。

ドメイン名についてもほぼ同様の判断です。

コスチュームについては、任天堂の周知な商品等表示であることが認定され、不正競争防止法に基づき、コスチューム映像を含む写真や動画の営業活動での使用、従業員にコスチュームを着用させること、店舗内にマリオ人形を設置すること、営業活動において貸与すること等が禁止となりました。カートに乗る観光客がたまたま「近所の店」で売っていたコスチュームを着た場合はどうなるかといった話は議論されていません。

気になる人も多かったと思われる著作権関連の請求ですが、原告表現物(マリオ、ルイージ、ヨッシー、クッパ)を複製または翻案してはならないという広範な請求については、

原告の請求は,絵画の著作物である原告表現物を絵画上複製するという行為がされていない本件において,差止めの対象となる行為を具体的に特定することなく,広範かつ多様な態様な行為のすべてを差止めの対象とするものといえ,自動公衆送信又は送信可能化の差止めについても,その差止めの対象自体を複製物又は翻案物とすることから,同様のものといえる。このような無限定な内容の行為について,被告会社がこれを行うおそれがあるものとして差止めの必要性を認めるに足りる立証はされていない。原告の前記請求には理由がない。

と認められていません。コスチュームが任天堂の著作物にあたるかどうかの判断は不正競争防止法で貸与が差止められているので判断する必要はないとされました。

要するにこの判決は不正競争防止法に基づくものであって、著作権法については請求棄却または判断保留ということになります。結果的にこの判決が趣味のコスプレに影響(良い方向であれ悪い方向であれ)を及ぼす可能性はほぼないと言えます(商業的に行なって不正競争防止法の領域に関連してくれば話は別です)。

損害賠償金額が少ない気がしますが、元々の任天堂の請求金額が1000万円でした。

地裁判決が出ましたが、その後も、マリオっぽいコスチュームを着た公道カートレンタルは続いているように思えます。もし被告側は控訴しているようなので、判決はまで確定していませんし、損害賠償金額もたいしたことはなかったのでやり得と考えているのかもしれません。任天堂としては頭が痛いところだと思います。

ただ、個人的には、知財の話以前に、道路交通法的に危険な点が問題だと思いますので何らかの規制は必要と思います(任天堂ではなく役所が考えるべき問題ですが)。