JASRACのブロックチェーン採用は「ブロックチェーン言いたいだけちゃうんか」案件なのか?

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

「JASRAC、著作権管理におけるブロックチェーン技術の導入を示唆」というニュースがありました。浅石理事長がブロックチェーン技術の導入についての検証を行なっていることを表明したそうです。

これだけだとよくわかりませんが、日経の記事によると、日本IBMとの共同実証実験で、楽曲の利用・徴収・分配データをブロックチェーンで管理できるということを確認し、2020年には一部業務で本格導入したいということのようです。

ひと言で言えば、ブロックチェーンは取引履歴の改竄不可能な保存手段です。この目的のためには適しているように思えます。

なお、IBMがからんでいることから、おそらく、Hyperledger Fabricを使ったプライベート・ブロックチェーンとして実装するのでしょう。一応説明しておくと、プライベート・ブロックチェーンは、ビットコイン等のベースになっているパブリック・ブロックチェーンのように、1万ノードを越える世界中のコンピューターが非中央集権型で管理する世界とは全然違い、特定の組織が管理する数ノードのコンピューターから成ります。イメージ的には、いったん入力されたデータの改竄が困難なDBクラスタという感じです。

楽曲の利用・徴収・分配データが改竄困難な形で保存されること自体は好ましいことです。これにより、JASRACの内部者やシステム管理者、外部から侵入したハッカーによる過去の履歴が書き換えられることが防げます。

ただ、気を付けなければいけないのは、ブロックチェーンを使っても、最初から間違ったデータが入力されることは防げないという点です。ブロックチェーンができるのは、その間違ったデータを(間違ったまま)ずっと維持し続けることだけです。当然ながら、ライブハウス等の音楽利用者の人が(故意か過失かによらず)間違ったデータを入力してしまうことは防げません。これを防ぐためには実地での抜き打ち調査等の人手による監査で対応せざるを得ません。

また、ファンキー末吉氏等が問題にしているライブハウスの演奏権料金分配の問題の解決にもブロックチェーンは関係ありません。これは、比較的演奏回数の少ない楽曲がサンプリング調査から漏れることにより生じる問題です。この問題は解決すべきものと考えますが、ブロックチェーン導入とは関係ない話です。ブロックチェーンが全国津々浦々のライブハウスに調査に行ってくれるわけではありません。サンプリング調査の問題を解決するひとつの方法はライブハウスに演奏曲を個別に報告してもらうことですが、上記のとおり、ブロックチェーンを使えば、ライブハウス担当者が急にまめになって入力が正確になるということはありません。むしろ、楽曲入力システムのUIを改善してエラーを防ぐ方が重要でしょう。

ブロックチェーンに保存された利用・徴収・分配データをオープンにレビュー可能にすれば透明性が増して良いという話はあるかもしれませんが、これらのデータを従来型のRDBMSで保存していてもデータをWeb API等で公開することは可能であり、その点ではブロックチェーンとの相違はありません。

ということで、楽曲の利用・徴収・分配データをブロックチェーンで管理すること自体は悪いことではないですが、そんなに大層な話ではないのではというのが正直なところです。この話をゲームチェンジングだと思っている人は、ビットコイン等のイメージに引っ張られて、中央集権の典型である著作権管理業務が「非中央集権型」で運営されるようになるという印象を持っているのかもしれませんが、そういう話ではなさそうです。