ブラックサバス商標問題におけるもうひとつの論点
少し前にエンタメ・カテゴリーで「特許庁が"ブラック・サバス"は日本では著名ではないと判断」という記事を書いてちょっとだけバズりました。早合点してtwitter等で「特許庁けしからん」とコメントしている人がいましたが、そういう話ではありません。
ことの経緯は、オジー・オズボーンとトニー・アイオミが”BLACK SABBATH”を商標登録出願したところ「ブラックサバスは著名な芸名なので本人の承諾書が必要(オジー・オズボーンとトニー・アイオミは出願人なのでいいとして)もう一人のメンバーであるギーザー・バトラーの承諾書も必要」という理由で拒絶になっていたのを、不服審判において「ブラックサバスは日本では著名とまでは言えないのでそもそも承諾書は不要」という理由で登録してくれたという話です。
「大岡裁き」というか「名を捨てて実を取る」という話であって、審判官が「やっぱりブラックサバスは日本でも著名かな」と気を変えてしまったら、商標登録出願は拒絶のままになってしまいます。
さて、本稿では、前回の記事では省略したもうひとつの(ちょっとややこしい)論点についてご紹介します。
この”BLACK SABBATH”の商標登録出願では第9類のCDやレコード等の指定商品につき「商品の質を表わすに過ぎない商標」(商標法3条1項3号)として拒絶されています。これに対して出願人(オジー・オズボーンとトニー・アイオミ)側は反論せず、商品を補正で削除することで対応しています。
CDを指定商品にしてアーティスト名を商標登録出願すると「商品の質を表わすに過ぎない商標」として拒絶されてしまうのは意外に思われるかもしれませんが、理屈としては、「オレンジ」という商標を、ジュースを指定商品にして出願すると「商品の質を表わすに過ぎない商標」(商標の機能である自他商品識別機能が発揮されない)として拒絶されるのと同じというのが特許庁の考え方のようです。
この運用については、以前から不満が聞かれており、LADY GAGA(のマネージメント事務所)は知財高裁まで争いましたが、結局、覆りませんでした(関連記事1、関連記事2)。
知財高裁判決が確定したことで、現在は特許庁の商標審査基準にも以下のとおり明記されましたので、この運用が事実上確定しました。
この運用ですと、国際的アーティストが外国で登録されている商標を日本で出願しても拒絶されるといった問題が生じます(上記のLADY GAGAもそうですし、Black Sabbathも英米をはじめとする多くの国でCDを指定商品として登録されているのに日本では拒絶されました)。また、審査官がアーティスト名として認識しないマイナーなアーティストがCDを指定商品として登録される一方で、少しでも有名なアーティストは登録できない(有名アーティストより無名アーティストの方が保護が厚い)という矛盾した状態が生じてしまいます。
個人的には、アーティスト名はCDという商品の出所を表わしている(自他商品識別機能を発揮している)とも言えるので、この運用はちょっとおかしいのではと感じます。ジュースを指定商品にして「オレンジ」を出願するのではなく、たとえば、「三ヶ日みかん」や「デコポン」を出願するようなものであって、登録を認めるべきと思うのですが、今ここで言ってもしょうがありません。
なお、この話は、CDやレコード等を指定商品にした話であって、Tシャツ、食べ物、化粧品等、音楽と直接関係がないアーティストグッズでの使用を目的とした商標登録出願には関係ありません。