ZOZOSUITは特許化可能か
先日も書きましたがスタートトゥデイ社が無料配布を開始した、着るだけで採寸できるボディスーツZOZOSUITが大きな話題を呼んでいます。ネットによる衣料品販売の大きな課題であるサイズの問題を解決するだけではなく、販売業者側の在庫問題軽減、商品のパーソナライズ、さらには、フィットネスや健康管理分野への応用等々、大きな可能性を持つテクノロジーと言えます。
このZOZOSUITが特許化できる可能性があるかを簡単に検討してみます。もし、特許化できてこの技術をスタートトゥデイ社が独占できるようなことになればアパレル業界がひっくり返る可能性もあるでしょう。
関連する先行事例として、2015年からLike A Gloveという会社が提供している、ジーンズのサイズを自動採寸できる「スマートレギンス」という商品をご存じの方もいるかと思います(”like a glove” とは衣服が体にぴったりであることを意味する英語の言い回しです)。
レギンスなので腰回りのサイズしか測れないですが技術としての考え方は同様です。Like A Glove社は自社商品を売るのではなく、サイズに基づいて他社商品のレコメンドをするだけである点、また、スマートレギンスを59.88ドルという微妙な価格設定で売っているという点でビジネス戦略的にはスタートトゥデイ社とは大きく異なりますが、特許という観点ではそれはあまり関係ありません(プラットフォームビジネスとして成功させるためには最初に無料配布でもして普及させる必要があるので戦略的にスタートトゥデイ社が正しいと言わざるを得ませんが)。
ということで、着るだけで自動採寸できるボディスーツというアイデアそのもので特許を取得することは困難かと思います。特許化のためには従来製品にない改良、あるいは、ビジネスモデル全体での斬新性が必要になります。ちなみに、現在の日本はプロパテントに動いておりIoTデバイスが関係するビジネスモデル特許は比較的取りやすい状況です。
さて、「自分が特許を取れるか」に加えたもうひとつの重要考慮点として「他人の特許権を侵害しないか」があります。この点について言えば、まさに上記のLike A Glove社がスマートレギンスに相当する発明を米国で特許出願(14/538,909)しており(タイトル画像はその出願書類より)、これがつい先日(11月22日)、特許査定を受けて特許料さえ払えば権利化できる状態になっています。権利化される状態の(補正後の)クレーム(特許請求の範囲)は以下のとおりです(翻訳(雑)は栗原による)。
クレームの範囲が結構広いので、一瞬ZOZOSUITも抵触するのではと思ったのですが、「インダクタンスの変化を測定する」という限定(公知技術との差異を出すために補正により加えられたもの)が入っており、ZOZOSUITで使用しているStrechSense社の製品は静電容量で測定をすることがポイントになっていることから大丈夫そうです。
スタートトゥデイ社が、ZOZOSUITについては商品そのものの優秀性、ビジネス戦略、そして、先行者利益だけで勝負する方針で特許出願していない可能性もあるかもしれませんが、しばらくは同社の公開公報を定期的にチェックしていこうと思います。