ローリングストーンズにはドナルドトランプ氏に楽曲の使用中止を命じる権利があるのか

(写真:ロイター/アフロ)

「トランプ氏、ストーンズの楽曲使用中止要求に"倍返し"」というニュースがありました。ローリングストーンズがドナルドトランプ氏の選挙活動においての自分たちの楽曲を使用しないことを求めていたのに対して、トランプ氏は「"いいかい、私たちは実にたくさんの楽曲を使っている。使う権利も持っている。私はいつだって(楽曲使用の)権利を買っているんだ"と述べ、ストーンズ側の要求を一蹴した」そうです。どちらの言い分が正しいのでしょうか?

ローリングストーンズの楽曲の著作権を管理しているのは、著作権管理団体のASCAPです(楽曲によってはBMI等の別の管理団体が管理しているかもしれません)。日本におけるJASRAC等と同じです。

著作権管理団体が楽曲を管理することで、たとえば、ライブハウスが所定の料金さえ払っていればカバー曲を演奏したり、CDを流したりするたびにいちいち作詞家・作曲家の許可を得る必要がありません。一方、著作権管理団体には応諾義務がありますので、特定の人や店だけに楽曲の使用を許諾しないということはできません。ただし、これらはライブハウスやコンサートでの演奏等の話であって、選挙活動の場合はまた異なります。

米国の選挙活動における楽曲の権利処理については、ASCAPのサイトに”USING MUSIC IN POLITICAL CAMPAIGNS: What you should know”というそのものずばりの資料が載っています(BMI等の他団体でも事情は同じと思われます)。以下にポイントとなる部分をサマリーします。

第一に、選挙に限ったことではないですが、楽曲を動画のBGMとして使用する場合(いわゆるシンクロ権)、CD音源を使用する場合、テレビCMで使用する場合等は、ASCAPに所定の使用料を払うだけでは足りず、音楽出版社からの許諾を得る必要があります。選挙活動でローリングストーンズの楽曲を使うということは当然ながらオリジナルのCD音源を使うわけなので音楽出版社(場合によっては原盤権者)の許諾は必要です。ただし、音楽出版社は特にアーティスト(作詞家・作曲家)の意向を聞くことなく、料金の折り合いさえ付けばメカニカルに許諾してしまうことも多いようです。トランプ氏がちゃんと金を払って権利を買っているというのはこのことを指しているのでしょう。

そして、この文書にはそのものずばりの質問「選挙活動向けに適切な著作権ライセンスが行なわれた場合でもアーティストに訴えられる可能性はありますか?」が載っており、それに対する回答には「はい、アーティストが選挙活動に自分の楽曲が使用されるのを好まない時は、”パブリシティ権”の侵害、連邦商標法で規定された商標の希釈化や”false endorsement”を根拠に訴えてくる可能性があります」と書かれています。これを防ぐためには「アーティスト(のマネージメント事務所)・作詞家・作曲家と直接契約して許諾をもらえ」とも書かれています。ことは著作権だけの問題ではないのです。選挙運動に楽曲を使用されるということは、ライブハウスでカバー演奏される場合等とは異なり、その政治家の思想信条と楽曲とが強く結びついたイメージを公衆に与えることになりますので、アーテイストとしては直接的な許諾を求めるのは当然ですし、今回のように思想信条が相容れない政治家が直接的な許諾なしに楽曲を使用して場合には中止を求めることもあり得ます。

冒頭の記事によれば、ストーンズ側は「トランプ氏の選挙陣営に楽曲使用を許可したことは一度もない」と言っているそうなので、トランプ氏がこのような直接契約をしていることは考えにくいです。ということで、この件についてはストーンズ側に分がありそうです。

追記:日本でも、選挙運動での音楽の利用については、JASRACに所定の料金を払うだけでなく、別途、音楽出版社や著作権者の許諾を得よというのがJASRACの運用です。やはり、選挙関係は特別扱いです。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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