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アップル、iWatchの商標使用をあきらめたにもかかわらず訴えられる

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

以前にも書いたとおり少なくとも日本での商標登録出願の経緯を見る限りAppleはぎりぎりまでスマートウォッチ製品の名称をiWatchにしたかったようですが、既に登録されていた類似商標との抵触を回避できず、土壇場でApple Watchに名称変更したと思われます。

これにはSwatch社によるiSwatch商標登録との類似に加えて、アイルランドの小規模ソフトウェア開発企業Probendi社が所有するiWatch商標登録の問題もありました(参照過去記事)。

商品名を変えた以上、商標権の問題はなくなったかに思われたのですが、Bloombergの記事"Apple Is Getting Sued Over the Name iWatch, Even Though That’s Not What Its Product Is Called"によると、この問題のProbendi社はAppleがiWatchという名称の使用をやめたにもかかわらずAppleを商標権侵害で訴えたようです。

AppleがGoogle AdwordsのキーワードiWatchを購入してGoogleの検索結果上でApple Watchのサイトのリンク広告を表示するようにしたことが理由です(商標の「使用」には商標を付けた商品を販売することだけでなく広告において使用することも含まれます)。同社は、iWatchという名称のAndroidベースのスマートウォッチを開発中であり、Appleによる同商標の使用の差止めを請求しているそうです。

ここでの重要な論点は、そもそも、Google Adwordsでのキーワードの使用が商標権の侵害になり得るのかです。架空のケースで説明すると、鳥華族という焼鳥チェーンと鳥三郎という焼鳥チェーンがあったとして、「鳥華族」が商標登録されていた場合に、鳥三郎が「鳥華族」をキーワードにしたAdWords広告を買い、消費者が「鳥華族」をキーワードでグーグル検索したときに、鳥三郎の広告リンクが表示されるようにすることが鳥華族の商標権侵害になるのかということです。

これについては、既にAmerica AirlineやRosetta Stone等によりいくつかの訴訟が行なわれていますが、商標権者側が勝つことはほとんどないようです(参考記事”Suing Over Keyword Advertising Is A Bad Business Decision For Trademark Owners” , ”Trademark Owners Just Can’t Win Keyword Advertising Cases EarthCam v. OxBlue” )。ひと言で言えば消費者を明らかに混同させている態様でないと商標権侵害は問いにくいということです。

おそらく、Probendi社としては和解にもちこんでAppleに商標権を買い取ってもらうのが目的なのでしょう。ただ、AppleがiPad商標の使用のために6,000万ドルを中国企業に払ったとされる過去の和解ケースとは異なり、今回はAppleとしてはiWatch商標の使用はすでにあきらめていますので、それほど大きな金額の話にはならないと思います(そもそも、iWatchのAdWordsキーワードとしての使用をやめれば侵害はなくなりますし、停止前の損害賠償が発生したとしてもそれほどの金額にはならないと思われます)。

Probendi社は昨年からAppleにiWatch商標を使うなとAppleに警告していました(本心は「使うな」ではなく「使いたければ商標権を買い取って」だったのでしょうが)。で、結局、Appleは「じゃあ使いません」となってすっかりあてがはずれたので、苦肉の策で無理筋訴訟ということのように思えます。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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