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Twitter社の大量解雇、日本法では

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

イーロン・マスク氏が買収したTwitter社において、大量解雇が行われていることが話題となっています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/aba673970d8c6f521c0e938e8a83eccb901409a3

そして、この動きは日本法人でも行われているのではないかということで、様々な議論がSNS上でもなされていますが、議論の前提として日本の労働法制(今回は解雇法制)を確認した上で、どのような問題点があるかについて検討してみようと思います。

まず、有名な労働基準法における解雇の規定は下記、解雇予告手当に関するものが有名です。

【労基法20条1項本文】

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。

この規定は、勘違いされがちなのですが、あくまで「解雇の手続」を定めたものに過ぎず、解雇の実体的要件(解雇理由)については一切触れられていないのです。そのため、解雇予告手当を支払えば・あるいは30日前に予告すれば解雇できる(あるいはこの義務を果たしていないのではないか)という議論は本件の本質ではありません。

重要なのはこちらの法律です。

【労働契約法16条】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働契約法は、これまで判例で定められていた雇用ルールを法律にしたものです。解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」であることが必要となります。

もし仮に、この「合理的な理由」を欠いていたとすると、解雇は「無効」になります。

解雇が無効になるとどうなるか

仮に、裁判において解雇が無効になった場合の効果は簡単に言うと

①バックペイ・・・解雇から判決までの間の賃金を支払う

②地位確認・・・労働契約が復活し、その後も従前通り毎月賃金を支払い続けなければならない

こととなります。

つまり、現在の日本の裁判においては「解雇が有効か・無効か」という「0か100か」の争いしかすることはできず「金銭を支払うから解雇を有効にしてよい」などといった判決はすることができません。

会社側の事情による解雇の判断基準は

会社側の業績不振や事業転換・廃止などによるリストラ的解雇のことを労働法的には「整理解雇」と言います。本件解雇もこの類いでしょう。

整理解雇は「4要素」を基準に判断がなされます。

【整理解雇の4要素】

①人員削減を行う経営上の必要性

②使用者による十分な解雇回避努力

③被解雇者の選定基準およびその適用の合理性

④被解雇者や労働組合との間の十分な協議等の適正な手続

【参考:労働政策研修・研究機構HP】

https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/10/90.html#:~:text=%EF%BC%881%EF%BC%89%E6%95%B4%E7%90%86%E8%A7%A3%E9%9B%87%EF%BC%9D%E7%B5%8C%E5%96%B6,%E8%A6%B3%E7%82%B9%E3%81%8B%E3%82%89%E5%88%A4%E6%96%AD%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%82

現時点では日本法人の経営状況については明らかではないため、上記①については不明ですし、③の解雇者選定がどのように行われたかも不明です。しかし、イーロン・マスク氏がTwitter社を買収した直後に行われていることからして、②や④が満たされていると考えるのは難しいという判断が出る可能性があります(もちろん、個別事案では様々な事情が考慮されるのであくまで一般論です)。

外資系では退職パッケージを用意することが通常

また、外資系の場合、リストラを行う際は「退職パッケージ」といって数ヶ月~十数ヶ月程度の賃金を一度に支払う代わりに退職を受け入れるように交渉することが見られます。

ニューヨーク州などでは90日前の通知を義務づけているという記事もあり(下記リンク)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN050GW0V01C22A1000000/

今回も90日分のパッケージ程度しか用意されないのではないかとの噂もありますが、少なくとも大規模な退職パッケージを用意したという報道はありませんし、既に解雇の方向に舵を切っている以上は大幅に方針を転換するとも考えがたいでしょう。

Twitter問題から考える日本の解雇法制

個別事案として、Twitter日本法人の解雇を巡りどのような訴訟や裁判所の判断がなされるかは今後の推移を見守るしかありません。

もっとも、これを機に日本の解雇法制の硬直性についても改めて考えてみたいと思います。

前述の通り、日本の解雇法制は解雇が有効か無効かという、「0か100か」の議論しか裁判所の判決ではできません(和解は除く)。

これは一社での終身雇用が前提である昭和の高度経済成長期に今の解雇規制の考え方が生まれたことに由来します。

一方で、アメリカは州により規制の厳しさは違えど、前提が解雇自由の国です。またヨーロッパの多くの国(フランス・イタリア・ドイツなど)が解雇の金銭解決制度を導入しています。

【解雇及び個別労働関係の紛争処理についての国際比較】

https://www.jil.go.jp/foreign/report/2015/pdf/0615.pdf

確かに、今回の解雇は拙速に過ぎると思われる向きも多いでしょう。

しかし、コロナ・ウクライナ戦争・インフレ・円安など、ダイナミックかつ不確実に時代が変わっていく中で、例えば自動車がEVにシフトするなど、企業が大きく方針転換することは今後もあり得る話です。

その中で、日本だけが「一社で終身雇用」という昭和時代の幻想にしがみついたままで居ると、今後の国際競争において日本企業だけが足かせをはめられることになり、日本企業の生き残りは難しくなります。

そもそも、前述のように1社で終身雇用という前提が昭和時代の名残です。

むしろ、これからは社会全体で生涯現役で働くために、自分自身はどのようなスキル・経験を身につけるべきか、という「キャリア自律」の意識が重要になります。

自分に非がないと思うなら、むしろさっさと割り切って、退職一時金をしっかりもらって、次のチャレンジを探すのが合理的という意見もあります。

「解雇が無効である!」という訴訟提起をすると、その訴訟では勝てる可能性もありますが、次の就職活動や新たな仕事に集中できず、今後のキャリアへの影響も否定できないでしょう。

その際に、いちいち訴訟をせずとも、解雇された分の金銭を法的に保障する仕組み(解雇の金銭解決制度)があった方が次へのチャレンジの後押しとなる上、泣き寝入りも防止できると筆者は考えます。

個別事案の解雇の有効性という小さな議論ではなく、むしろ、日本の解雇法制がどうあるべきか、改めてこれからの雇用社会のグランドデザインを考えるべき時期に来ていると、Twitter解雇問題から考えて見るべきでしょう。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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