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「最強チーム」の作り方(2/4)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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中原淳先生は、対談の中で従来の日本企業は、「チーム」というよりも「村」に近いものだと話します。新卒一括採用や年功序列、終身雇用を特徴とする日本型雇用システムにおいては、一度会社という村のメンバーになってしまえば、ずっとその村に居続けることができました。自分から働きかけなくても、そこにいれば仕事がもらえるという風土に甘えていれば、なかなかチームとしての視点は生まれません。しかし、2020年のコロナ禍以降、日本企業を取り巻く環境は激変しています。村からチームへと組織をアップデートするにはどうしたら良いのでしょうか?

<ポイント>

・リーダーシップは他人事ではなく自分事として捉えるには?

・ビジネスパーソンの86%は「見直したほうがいい仕事がある」と思っている

・「社会的手抜き」はどの会社でも起こっている?

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■チームに必要な3つの視点

倉重:同じメンバーで似たような仕事をやっていると、動的な視点が発想の外になってしまいますね。チーム視点はどうですか?

中原:「チーム視点」というのは、チームの全体像を常に見続けるということです。チームのメンバーになると、「私の役割さえやれば仕事は終わりですよね?」という人がいます。そういう人は多分、「1+1+1+1+1=5」がチームだと思っているわけです。しかしシナジー効果が生まれて、1+1+1+1+1が5ではなくて6や7になってもいいのです。そのために、自分のなすべきことをどんどん積極的にしてもらわないと困ります。

倉重:これは「当事者意識を持つ」ということと似たような感じでしょうか。

中原:端的に言えば、チームを動かす当事者です。別の言葉で言えば、リーダーシップは他人事ではなく自分事だということです。

倉重:よく「当事者意識を持て」と上司の人が怒っていたりしますね。でもそういうことを言われても無理という人もいると思います。

中原:「当事者意識を持て」と言われて持つのは、本当に当事者意識なのでしょうか。当事者意識という言葉を使ってしまうと、反発もあります。もう少し得体の知れない言葉で「おっ」と思わせるような、手あかの付いていないものを作らなければなりません。この本はいろいろな職場で読んでくれています。そうすると、本に出てきている言葉が共通言語になりますよね。「ゴールホールディングしているかどうか」「フィードバッキングしているかどうか」という言葉を使って、みんながチームについて語りやすくなるのです。チームを語るための言葉を提案するツールとして、使えるワードを使ってほしいと思います。

倉重:これまでの日本型雇用においては、長時間労働や飲み会などを通して、暗黙知もありながら常に同じ目標に向かうことで成功してきたわけです。今はそれが通じません。お互い自分が何を考えているかをオープンにしながら、常に目標を軌道修正しながら進めることが大切ですね。

中原:若い人はみんな長時間労働が嫌だと言っているし、飲み会も行けない人がたくさん出てきています。

倉重:「コロナで飲み会がなくなって良かった」という人もたくさんいますから。大事なことは、3つの視点を持って仕事をすることだと本に書かれていました。その3つの視点である、ゴールホールディングとタスクワーキング、フィードバッキングについてお伺いしていきたいのですが。

中原:チームで何か物事を成し遂げるときに一番大事なことは、登る山の高さを決めることですよね。これがゴールホールディングスです。

倉重:大体最初に目標は決めますよね。

中原:でも大体ズレていくのです。今はそういう時代を生きていると思います。倉重先生は2週間前まで「オミクロン」という言葉を知っていましたか?

倉重:知らなかったです。

中原:1週間前まで、「日本企業は対面のオフィスに戻るのではないか」という空気がありましたが、オミクロンが出てきてまた危機感が高まっています。これが一番分かりやすいから使いましたが、常に状況は変わっていっています。

チームで仕事をしていても、期初に握った目標は、期末に行く前に変わっていることのほうが多いです。例えば競合が自分のカスタマーに働き掛けてきたら、どのように防衛しなければならないかと考えるでしょう。だから期初に握った目標を期末まで維持していたら危険だと思います。

倉重:これは定期的に「その目標で正しいのか」と話し合う場を設けるのですか?

中原:そうです。今の目標管理制度は形骸(けいがい)化しています。期初に握っている目標を最後まで握り続けているのは15%ぐらいしかいません。そもそも3割ぐらいの目標は、もう時代に合わなくなってきているのです。

倉重:最初の設定からかなり間違っている場合もあるということですか。

中原:これを1年間の評価制度として組み込んでしまったから間違いなのです。絶対に形骸化すると思います。今1on1といって、目標管理の間を埋めるようなコミュニケーションを入れているでしょう。状況が変化していく中で、仕事の目標を握ってフィードバックし、立て直すことを続けます。

倉重:その1on1の15分間が説教の場と化しているケースも多々ありますよね。

中原:説教1on1ね。この間ある若手が、2時間の1on1でひたすら説教されていると言っていました。それならば仕事をさせてあげなよと思いますね。

倉重:それは地獄ですし、かえって仕事の邪魔をしています。目標を常に握り続けるというのは結構難しいのではないでしょうか。人によって見え方も違えば、気持ちもズレてくるでしょう。これは1対1でしゃべり続けるのが基本ですか。

中原:組織のサイズにもよります。例えば職場の目標を会議のときに必ず5分でも10分でも毎回違う言葉や言い方で伝えていくことも大事だと思います。1対1で「君は何を目指すのか」を一緒に考えてあげることも大事ではないでしょうか。

倉重:ゴールというのはチームの目標でしょうか。それとも個人の目標でしょうか。どちらで考えたらいいですか。

中原:チームの目標だと思います。チームの目標を下位分解していくのが個人ということになります。でもチームの目標は意外に握られていません。みんな自分のことしか考えていないからチーム視点ではないのです。「私はこれをやればいいでしょう」「この仕事を達成すればいいでしょう」と考えています。端的に言うと、「他の人がどうなろうと知りません」というわけです。

もし「チームがこれを目指しているならば、何かやるべきことはないですか?」というひと言が言えれば、強いですよね。けれどもチームの目標は意外に握られていないのです。

倉重:しかも握るというのが大事で、結局納得していないと意味がないですね。

中原:先ほどと同じ言葉ですが、お届けして受け取ってもらわないと価値がありません。人材開発というのは、基本そういうものだと思います。相手に良かれと思って言った言葉でも、相手が咀嚼(そしゃく)して「ああ、そうだな」と腹に落ちていなければ行動を変えるわけがないでしょう。きちんとお届けすることが大事です。

倉重:そこにきちんと時間を割いて、お互いに何を目指すかというところに定期的に振り返っている組織は少ないですよね。自分もできていないと思いました。

中原:地道で猛烈に泥臭いけれども、結局それしかありません。

倉重:なるほど。確かに半径5メートルからしか変えられないですからね。

■解くべきことを常に見直し続ける

倉重:次はタスクワーキングですね。

中原:タスクワーキングは端的に言うと、「解くべきことを解け」ということです。状況が常に変わっていく中で、本当は解かなくてもいいことや、やらなくてもいいことにとても注力していたりするのです。定期的に自分たちが何を目指すのか、解くべきことを常に見直し続ける必要があります。

倉重:最初に「そもそもどういう課題を設定するのか」という視点と「課題を設定した後もさらに修正し続ける」ということが大事ですね。

中原:同じことをずっと言っていますが、ingなのです。課題がこれだと思っていても、もしかしたら間違っているかもしれません。例えば「売上げを上げる」という目標があって、「商力(ショウリキ)を増やさなければいけない」という課題を設定したとします。実行したらレスポンスが来ますよね。それを通じて課題が合っているのか、間違っているのかが分かります。

 タスクワークが何なのか、課題をどこに設定するのかというのは、やってみないと答えは分かりません。やってみて、レスが返ってきたらまた次の課題設定をします。解くべきものを常に変えていかなければいけないのです。

倉重:最初から真の課題を探すなということですね。

中原:動かないと分からないから探せません。これは人間観として大事なことですが、人というのは環境や他者に対して働きかけて、レスがあるから何かができるのです。常に最初にやるべきことは働き掛けること、アクションです。行動しないことには分からないのです。分かっているから行動するのではありません。

倉重:確かにそうですね。今日の対談も、突然私がMessengerでメッセージを送って「対談してください」とお願いしたことで始まりましたから。

中原:それだってやってみないことには、レスが返ってくるかどうかも分かりません。世の中は「分かってからやろう」と考える頭でっかちの人がいます。

倉重:やはり正解を探しがちですね。

中原:「全体像が分かってからやります」ではなく、普通は逆です。やってみて全体像が分かるのです。例えばキャリアプランもPlanしてからDoするという話でしょう。それはうそだと思います。

倉重:絶対にそれは無理ですよ。私も大学生のころに、将来労働法を専門にしているとは思いませんでしたから。

中原:僕だって大学2年生で彼女に振られなければ、ここで話していません。今この状態を、どうしてあの大学2年生の時にプランできるのでしょうか。

倉重:地元に帰っていたり、普通の商社に入っていたりしたかもしれません。それはわかりませんよね。話を戻すと、1回目標を立てて見直さないと、ズレた方向にひたすら進んでしまうノーリアクションチームになってしまうリスクがあるということでした。

中原:常にズレると思います。一番かわいそうなのは、真面目に働いてみんなで仲良くデスマーチしていることです。

倉重:死の行軍ですね。

中原:やるべきことをやっていないから落とし穴にはまっていくということになります。これは学生を見ていて本当にそう思いました。今の学生はみんなZoomのアカウントを持っています。夜中でもグループワークをして、せっかく頑張っているのになかなか成果が出ないという人がいます。それは最初に解くべき課題を間違っているからです。

倉重:間違ったまま進んでいると。

中原:それを誰も言おとしません。なぜかというと、課題が何かを考えるのがすごく面倒くさいです。「このままだと死の行軍になる」ということは、うすうす気付いているけれども誰も言わないでデスマーチしています。

倉重:言ったらまた何かいろいろやらされて面倒くさいというのもありそうですね。

中原:「まあいいよ、これはどうせ授業だし」となっていくわけです。

倉重:これを防ぐにはどうしたらいいですか。

中原:やはり誰かが言うしかないと思います。あるいは誰かにはっきりと言ってもらうしかないですね。学生の場合は、教員や志を持っている人が「このままいったら、うちのチームは死ぬかもしれない」と言ったりします。

倉重:会社だったら社長が指摘してくれるわけではないですよね。

中原:社長も答えを知りませんから。違う話になりますが、新規事業提案のコンクールなどを社員にさせて、社長がジャッジしている図というのは、よくありますよね。社長は答えを知っているのでしょうか?

倉重:確かにそうですよね。

中原:僕は「審査員席にいるぐらいなら、社長も一緒に考えたら?」と思います。新規事業で一番大事なのは経営陣からのサポートを得ることです。経営陣がメンバーに入っている新規事業提案であれば、そもそもコンクールの必要がないでしょう。

倉重:本当に新しいことを始めたり組織を改革したりするならば、経営陣も一緒にやってくれよと、私もいつも思います。

中原:それが多分一番成功すると思います。

倉重:あと「駄目なチームは目標を見失ってしまう」ということでした。

中原:目標を見失ってしまうのもよくあります。管理職やリーダーの立場の人であれば、つらいことかもしれませんが、設定した目標でこれだと思った課題は、常に手放されていると思ったほうがいいと思います。逆にそれほど人は移ろいやすいということです。

倉重:「あれ、ズレているな」と思いながらもやっていたら、身が入らないですね。

中原:会社組織でも、「これは完全に徒労だな」「やってもしょうがないな」という仕事はありますよね。

 少し違う本になりますが『残業学』という本を前に出させてもらいました。「職場に見直したほうがいい仕事、やめたほうがいい仕事があるか」と聞いたら、日本人のビジネスパーソンの86%は「ある」と答えたのです。でも面倒くさいから、誰も口に出しません。

倉重:そういう生産性のない仕事をやってどうするのかというのは、いろいろな会社に言えることです。

中原:本当にそう思いますね。「この書類を1枚なくしたら、何か職場が変わりますか?」と聞いて、変わらないならばやめればいいではないですか。

倉重:私もよく「印鑑を突いて出してください」とよく言われます。「それなら事務作業手数料を取りますよ」と言うと、大体「PDFでいいです」と言うのです。最初からそれでいいじゃないですか。もう惰性で動いてしまっているなという感じがすごくします。

こういうことをやめるためには、常に目標を見直し続けるということが必要だと思います。例えば「週1回目標を見直します」と決めてしまったほうがいいのですか。

中原:決めてしまってもいいと思います。職場のミーティングのようなものは大概セットされていますよね。その中で毎回でなくてもいいかもしれませんが、5分、10分でもいいので「目指すものは何か」「何が起こっているのか」ということを地道に対話することが大事です。

倉重:納得感が必要ですからね。目標や課題は数字にこだわらなくてもいいという記載もあって、なるほどと思いました。

中原:人事や経営企画の仕事はそうだと思いますが、意外に数字で表現しにくいのです。お客さんが製品を使って喜んでいる絵を描くのもいいと思います。何か見たいシーン、見たい光景を絵にして、同じものを見るということです。ちなみに見たい光景というのを英語にするとビジョンですよね。だからビジョンは「見ること」なのです。「ビジョンを提示する」というと、何かすごいものを提示しなければいけないと思うかもしれません。ですが、従業員とリーダーが同じように実現したい未来を脳裏に光景として思い浮かべればいいのです。

倉重:サイバーエイジェントの曽山さんのIMPACTモデルの話もありました。曽山さんもこのコーナーで対談させていただきましたが、お互いにわくわくできる未来を見るというのはすごく大事ですね。

中原:やはりモチベーションはそういうものだと思います。燃えない目標というのは嫌ではないですか。

倉重:「頑張って現状を維持しよう」では、誰も燃えないですからね。

中原:達成したいと思うようなものしか達成はしません。

倉重:定期的に目標を振り替えるということを、ルーティンにするということですか。

中原:振り返りや見直しや対話というものは、ほとんど習慣にしたほうがいいです。「このくそ忙しい時期に振り返りはできない」「対話はできない」という人もいますが、僕は逆のような気がします。意識的な振り返りや対話をしないから生産的な仕事の仕方ができない、ゆえに忙しいのです。

倉重:忙しいといっても、あさっての方向に行っていたら、結局何も生み出していないですから。

中原:僕はそう思いますし、「まだまだ見直せるものがあるのでは」という気がします。コロナになってがんがん減らしたものはありますよね。多分無駄の塊であるいろいろなものが減らせるのではないかと思います。

倉重:本当に日本企業は改革の余地しかないですね。

中原:僕の持論ですが、8割、9割の出張は要らないと思っています。なぜかというと、Facebookでは秋田に出張に行ってきりたんぽを食べているおやじばっかりですから。これは完全に地方巡業でしょう。

倉重:もうZoomでできるということが、ばれてしまいました。社会的手抜きというのは、本当にそうだなと思います。私はいろいろな解雇事件などをやっているので、だんだん意欲を失ってしまう人をたくさん見ているのですが、集団だと発生しますよね。

中原:組織サイズが大きくなれば、必ず社会的な手抜きはできます。大きくなればというよりも、3人以上であれば絶対そうなるのではないでしょうか。「自分がやらなくても回る」ということを見てしまったら、社会的に手抜きをすることを学習してしまいます。

倉重:「一瞬でまん延する」と書いてありましたね。

中原:だから組織は難しくて、社会的手抜きはどこにでも起こっているということを前提にしないと駄目なのではないかと思います。

(つづく)

対談協力:中原 淳(なかはら じゅん)

立教大学 経営学部 教授。立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。専門は人材開発論・組織開発論。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2017年-2019年まで立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム主査、2018年より立教大学教授(現職就任)。

「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。

単著(専門書)に「職場学習論」(東京大学出版会)、「経営学習論」(東京大学出版会)。一般書に「研修開発入門」「駆け出しマネジャーの成長戦略」「アルバイトパート採用育成入門」など、他共編著多数。著作のいくつかが、中国語・韓国語に翻訳・出版。研究の詳細は、Blog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)。Twitter ID : nakaharajun

民間企業の人材育成を研究活動の中心におきつつも、近年は、横浜市教育委員会との共同研究など、公共領域の人材育成についても、活動を広げている。2021年より、文部科学省・中央教育審議会・臨時委員。一般社団法人 経営学習研究所 代表理事、特定非営利活動法人 Educe Technologies 副代表理事、認定特定非営利活動法人カタリバ理事、一般社団法人ピアトラスト 理事。専門性:人材開発・組織開発、趣味:人材開発・組織開発、特技:人材開発・組織開発、大好物:人材開発・組織開発。「画狂老人」と号した葛飾北斎をリスペクトし、自らは「学狂老人」として一生涯、「学び」にまつわる研究を行おうとしている。現在は「学狂中年」。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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