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トップ5%の社員5つのの習慣(2/4)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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成果を出し続ける5%の社員と、それ以外の95%の一般社員はどこが違うのでしょうか。クロスリバーの越川慎司さんの調査によると、95%の一般社員のうち、6割以上が作業をしている充実感に満足してしまい、成果を残すことを考えていないそうです。一方で、5%社員は成果を成し遂げた達成感に満足し、仕事へのフィードバックを常に必要としています。5%社員と95%社員の違いから、これからの時代に求められる「働き方」について考えていきます。

<ポイント>

・5%リーダーはなぜWEB会議で雑談をするのか?

・小さな失敗をたくさんした先に成功がある

・いきなり何か変えるのではなく、小さな行動実験を促す

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■WEB会議で発言を促すには?

倉重:テレワークなども当たり前になっていく中で、オンラインで新たなチームを常設することもあると思います。マネジャーとしては、どうしたらいいでしょうか?

越川:今は出勤してオフィスで働く方と、テレワークの方がいるハイブリッドな状態です。これがずっと続くと思っています。中間管理職の人が一番管理しにくいパターンです。「しっかり管理すればしっかり結果がでる」というのは、妄想だと分かりました。リーダーは管理することが目的ではなくて、未来へ導くことがそもそものミッションなのです。

 例えばトップ5%リーダーがしていることは、どこにいようがメンバーの強みと弱みと環境という3つを理解して掛け合わせることなのです。

倉重:「こことここを組み合わせて、この問題は彼が担当する」というようなことですね。

越川:管理職の方は、「5人で5の成果を出す」ということではないのです。会社側から「5人で7人分、8人分の成果を出せ」と言われます。だから組織では、1+1を3や4にしていかなければいけません。そこで何ができるかというと、強みと弱みの入れ替え、トレードオフなのです。

例えば営業の得意な人は、お客さんの対応時間を増やしたほうがいいのです。営業の得意な人は資料が苦手とか、Excelが苦手という方が結構います。

倉重:それはあります。細かいのが苦手という方はいます。

越川:そうしたらExcelなどのデータ分析の得意な人はそれに集中させて、この強みと弱みを掛け合わせると、営業の得意な人は接客時間が1.4倍になってチーム売り上げが1.2倍になったという実験結果があります。こうした能力の掛け合わせでチームとしてのパフォーマンスが上がるのです。

倉重:本当ですね。「稼ぎ方改革」につながっていくわけですね。それもオンラインで意識して、相手がどういうことに強み・弱みがあるのかを把握しなければいけないわけですね。

越川:ですから優秀なリーダーは、自ら弱みを出すということは5%社員と一緒です。面白いのは、緊急事態宣言が明けても、5%リーダー、管理職の方々のしていることが「社内会議の冒頭2分の雑談」だということです。

倉重:雑談があるのとないのとでは全く違いますか?

越川:同じ会社で、同じプロジェクトの冒頭2分の雑談を入れた会議4,000時間と、入れない会議4,000時間を比較したのですが、雑談を入れたことによって発言者数が1.9倍になっていました。

倉重:それほど違いますか。

越川:618社を調べたところ、社内会議でビデオをオンにする人は21%しかいませんでした。下手なことを言って怒られないように、みんなしゃべりません。結局、内職しながら聞いているだけなのです。冒頭2分の雑談を入れると、心理的安全性が確保されるので発言しようという人が増えてきて、発言数が1.7倍、発言者数が1.9倍になります。冒頭2分の雑談を入れたにもかかわらず会議が予定よりも早く終わる確率が45%高くなります。

倉重:そんなにビデオオンが少ないんですか。しかし、雑談だけで発言も増えて早く終わるというのはすごいです。

越川:いかに初めに空気を温めるかということと、雑談はくだらない話をするのが目的ではなくて、実はメンバーとの共通点を探り合うというコミュニケーション術だということです。例えば暑い、寒い、おなかがすいた、焼きそばを食べたなどで共通点や共感ができると、一気にメンバーの心理的安全性が広がります。そうすることで弱みも出してくれますし、発言もしてくれるということです。

倉重:「俺も焼きそばを食べたよ」と言ったら盛り上がりますからね。

越川:実は飲食が一番心理的安全性を確保しやすいことが分かっています。家族ネタを嫌がる人は24%いました。飲食が一番不快に思う人が少ないのです。年代、性別、国籍が違っても全員が飲食をしますので、「お昼に何を食べたの」「自炊派ですか」「買ってくる派ですか」というところから共通点を探ります。「会社の近くのセブン-イレブンのしゃきしゃきレタスのサンドイッチを食べました」と言うと、「君は出勤しているのか、ありがとう」という話になって、共感が生まれるという感じです。

倉重:。現在の状況まで知れてしまうということですね。雑談があると、発言者数が倍ぐらい違うとは思いませんでした。

越川:いかにみんなが発言しないかということです。21%しかビデオをオンにしていません。ビデオをオンにしない人のうち41%が内職をして聞いていないということも分かりました。それでは会議に参加する必要がありません。

倉重:それだったらいなくていいです。パフォーマンスが下がるだけです。

越川:例えば優秀なリーダーは「冒頭2分の雑談だけ、ビデオをオンにしませんか」と言います。60分ビデオをオンではなくて、2分だけビデオをオンにしないかと提案するのです。

 これで大体4割ぐらいの人がビデオをオンにしますが、そこで盛り上がると、ずっとビデオをオンにしたままであったり、次からビデオをオンにする人が徐々に増えてきたりするのです。

倉重:私たちはほとんどの会議がオンなので、それほど少ないのかと思ってびっくりしました。

越川:びっくりするぐらい皆さんビデオはオフです。特に日本は家庭事情などもあると思いますが。ワンルームで暮らしている若い世代などは、やはりプライバシーを見られたくないのでしょう。

倉重:バーチャル背景対応のツールをそろえておけば良いだけの話ですよね。そういうところへの投資も必要だと思います。

■小さな失敗をたくさんした先に成功がある

倉重:次に原則3の話で「挑戦を実験するものと捉える」と。

越川:一般社員は何か新しいことをするときは、成功を目指して、「失敗してはいけない」と考えます。でも5%社員は、成功か失敗の2択ではなくて、失敗の先に成功があることを分かっているので、まず小さな失敗、かすり傷をたくさんするのです。

 成功と失敗では失敗のほうに学びが多いので、かすり傷程度の小さい実験をして、失敗があったら修正していこうという考え方です。この考え方だと、初動が早くなります。

倉重:まず始めるということですね。

越川:失敗を恐れると、やらない理由を考える人たちが多くなるのです。5%社員は実験することが目的なので、「今日の資料だけ、赤文字ではなくて白抜き文字で作ってみよう」と考えて実行し、それで結果を見て振り返ります。成果が出なかったら元に戻しますし、良かったら続けていきます。これが行動量の多さにつながっていきます。

倉重:「まずやってみる」ということはよく言われます。考えなしにやるのではなくて、きちんと準備をして行動するのですね。

越川:これはベンチャー企業にも通じるところがあります。例えばリーンスタートアップやライト・フットプリントといって、まずは小さく実験してリスクを抑えて初動を早めます。途中で修正しながら進めることで、成功に至りやすい行動の仕方です。これを5%社員は身に付けていました。

倉重:やはり失敗して、直して、直して、直していった先に成功があるわけだから、やめなければいつかは成功するという話ですね。

越川:そうですね。昔はPDCAのPに時間をかけると成功しやすいといわれていたのですが、これだけ不確実な世の中になったので、PDCAをたくさん回したほうが、やはり成功に近づくことが分かってきました。ですから5%社員は、Pを小さくしてDCAをひたすら繰り返すのです。

倉重:これは本当に人事施策でも私もよく会社に言っていますが、1回決めたことだからといって現状と合っていないのに無理やり続けてもおかしくなります。特にコロナの状況で「出社する・しない」ですらどうするかというレベルでいろいろ変わっているので、それは変えていかないと駄目だと思います。

越川:世の中が変わっているわけですから、考え方と行動を変えていかないといけません。昔の成功体験を持ち出して「出勤したほうが営業成績は上がる!」という妄想にとらわれた管理職の方々が多くいます。それならば営業をオンラインで5回、出勤で5回してみて、成果がどうなるかという実験をするほうが、よほど信ぴょう性の高い再現ルールが獲得できると思います。

倉重:まずは実験してみるということですね。

■意識よりも行動を変える

倉重:次の原則4が意外でした。「意識変革はしない」のですね。

越川:僕も800社に対応して、なるほどと思ったのですが、働き方改革で失敗する企業の多くは経営陣がこう言うのです。「世の中が変わっているのだから、みんな意識を変えろ!」と。そう言っている人が一番意識を変えなければいけないケースもたくさんあります。

でも意識を変えるだけでは変化を起こせません。もっと言うと「意識が変わると行動が変わる」という思い込みで、「まず先に意識を変えよう」と言っている人たちが多いのです。意識が変わっても行動が変わらなければ成果は出ません。

倉重:これは行動ファーストということですね。

越川:5%社員が内省をしているのがポイントなのです。彼らは2週間に1回程度内省していました。その頻度は一般社員の約8倍です。モチベーションがあったり、なかったりというのは関係がありません。意識が変わる前にまず内省して、行動を起こす仕組みを作ってしまっているのです。行動を起こして、必ず振り返ります。振り返って「意外と良かった」という言葉が出たときが、一番意識が変わった瞬間です。それを意識変革だと彼らは言っています。「意外と良かった」を見つけるためには、先に行動してみることです。

倉重:行動した結果、意識が変わっていくということですね。

越川:実は「意識が変わって行動が変わる」のではなく、「行動を変えて振り返ったら意識が変わる」ということが分かってきました。これが、5%社員が実践している「意識変革の前に行動をする」ということです。

倉重:行動プラス内省で結果的に意識が変わるということですね。ちなみに、内省するのはどの時間帯がいいのでしょうか。

越川:お勧めなのは金曜日の午後3時前後の15分です。5%社員は、金曜日の夕方に達成感を得て、働きがいを感じる人たちなので、精神的にもかなり満たされている状態です。資料作成や会議などを入れずに、ただ単にもうカレンダーを見ます。

倉重:今週の振り返りですか?

越川:そうです。コーヒーを飲んだり、たばこを吸ったりしながらOutlookやGoogleカレンダーなどをただ見るだけです。「この資料は意外と良かった」「この会議のための会議のための会議は本当に必要なかった」という内省をすることによって無駄なものが見えてくるので、「よし、来週はやめよう」と決意して週末に突入します。

倉重:もう来週から変革が起こってくるわけですね。

越川:やはり17万人の行動変革を促している中で分かったのは、生産性を高めるのは、新たなことをする以上に、「やめることを決める」のが一番だということです。

倉重:無駄なものをやめるということですか。

越川:ビジネスパーソンの68%の時間を奪っている社内会議、資料作成、メールは、全部振り返らないと成功かどうかが分からないものです。振り返ると、「メールを見ていますか」というメールが世界一無駄であることが分かって、チャットに変えたりします。

倉重:それはありますね。

越川:すごく当たり前のことですが、皆さんは忙し過ぎて目の前の仕事に追われているので、立ち止まって振り返って考えるだけで無駄なものが見えます。無駄なものをやめるだけで時間に余裕ができて、余裕ができると新たな挑戦ができます。この順番なのです。

倉重:例えば、みんな手帳ですごく日程調整に時間がかかっていた会社が、Outlookを入れるようになるだけで劇的に変わりますね。それほど難しいことではなくて、行動してみたら「これは便利だ」という話になってくると思います。それでも抵抗する人もいますね。

越川:抵抗する人のほうが多いです。僕も含めて、人は今までのやり方のほうが楽ですし、脳が疲れません。

倉重:やはり現状を変えたくない人は多いです。そういうときは、どうしたらいいのでしょうか。

越川:これは5%社員も5%リーダーも使っているテクニックなのですが、例えば「あしたから全員Outlookにします」とは言いません。「自分たちが試してみたら、スケジュールの調整が25%も少なくなったので、あなたも月に1回だけやりませんか?」と小さな行動実験を促すのです。

倉重:なるほど。

越川:毎日は無理です。「明日からすべてのメールがチャットへ変わります」となったら抵抗勢力が大噴火するので、「週に1回だけ、金曜日の午前中だけ、だまされたと思ってメールではなくチャットにしてみませんか」と言うのです。

倉重:「1回ならできるでしょう?」ということですね。

越川:小さい実験をしたときに抵抗勢力ほど決まり文句のように「意外と良かった」と言います。それが意識変革です。ですから行動障壁を下げながら、小さな行動実験をまず自分が始めます。それから「やってみませんか」と言うのです。「全部ではなくて少しやってみませんか? 数分だけでもいいのでやってみませんか? 良かったら続けましょう」という提案をして、抵抗勢力をどんどん巻き込んでいきます。

倉重:反対をしている中でも何人かは「やってみよう」となって、「意外といいね」が広がっていくということですね。

越川:振り返りのために匿名でアンケートを必ず取ります。「グループウェアにOutlookを使ってみて良かったと思う人が92%いたので、3カ月後から全面的にOutlookにしましょう」という世論を作る感じです。

倉重:数字で来られたら、なかなか反対しにくいですから。やはり働き方改革もそうですし、変えようと思っている方はすごく多いので、ぜひ参考にしてほしいです。

越川:デジタルツールなどもDXと言われるほどクラウドもたくさんあります。大体のクラウドツールには結構フリートライアルが付いているので、「まず1~2週間だけ試しにやって、良かったら続けましょう」という気軽な感じのほうが、結果的には定着・浸透しやすいです。

(つづく)

対談協力:越川 慎司(こしかわ しんじ)

株式会社クロスリバー 代表取締役CEO/アグリゲーター

国内外通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2005年に米マイクロソフトに入社。日本マイクロソフト 業務執行役員としてPowerPointやExcelなどOfficeビジネスの責任者等を務めた後、2017年に株式会社クロスリバーを設立。

クロスリバーでは、選択式週休3日・完全リモートワーク・複業(専業禁止)を導入し、新たな働き方を実践しながら800社以上に「稼ぎ方改革(More with Less=より短時間で、より大きな成果を)」の実現を支援。

メディア出演、講演多数。講演の受講者満足度は平均94%、受講後に自発的に行動を起こす受講者は70%以上。

著書16冊『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣『AI分析でわかったトップリーダーの習慣』『ずるい資料作成術』『超会議術』『巻込力』など。その多くが重版となり海外でもベストセラーに Amazon等で発売中

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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