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人と組織で業績を上げる! サイバーエージェントのクリエイティブ人事【曽山哲人×倉重公太朗】第1回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲストは、株式会社サイバーエージェントの常務執行役員CHOの曽山 哲人さんです。サイバーエージェントは、1998年にインターネット専門の広告代理店として創業。その翌年、曽山さんはサイバーエージェントに転職しました。営業として入社した7年目に、人事本部長への異動を打診されたそうです。人事の経験はなかった曽山さんですが、その時思ったのは、「経営にインパクトを与える人事をやってみたい!」ということでした。人と組織で業績を上げる、サイバーエージェントのクリエイティブ人事について聞きました。

<ポイント>

・人事は何のためにあるのか

・人は論理ではなく感情で動く

・ポジティブ共犯者を作る

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■サイバーエージェントの創業期を支える

倉重:今日はサイバーエージェントの超有名人事パーソンの曽山さんにお越しいただいています。簡単に自己紹介をお願いできますか。

曽山:皆さん、今日はよろしくお願いします。サイバーエージェントで常務執行役員CHO、人事責任者をやっている曽山といいます。1999年、サイバーエージェントが社員20名の時に入社しました。会社設立が98年なのでその1年後ですね。

倉重:本当に初期ですね。

曽山:そうですね。営業担当として、第2新卒で入りました。

倉重:伊勢丹から転職されたのですよね?

曽山:そうです。伊勢丹から転職しました。6年間営業をして、今、16年間人事をしているのですが、カオスをたくさん見てきました。

倉重:1年目の組織と今のサイバーエージェントでは全然違うでしょうね。

曽山:そうです。全く変わりました。

倉重:まず曽山さんの人となりから伺っていきたいと思います。最初に伊勢丹に入社したということは、希望や業種などに狙いがあったのですか?

曽山:そうですね。伊勢丹に入った時は、衣食住の「衣」、ファッションで人を動かせることがすごく良い、「この業界は面白い」と思って入りました。

倉重:ただ、キャリアチェンジは割と早めということですよね。

曽山:そうです。そこでeコマースを手伝う機会があり、「非常に面白い!」「どうしてもやりたい」という気持ちを止められなくて、サイバーエージェントにチャレンジしました。

倉重:決断が速かったのですね。最初にサイバーに入った時は営業ということでしたか。

曽山:最初は企業に向けて「インターネット広告をこう使うといいですよ」と営業していました。

倉重:人事に行ったのは何年目ぐらいからですか。

曽山:6年間営業をして、ちょうど30歳の時に人事に異動になりました。

倉重:それはたまたまですか。それとも希望したのですか。

曽山:役員合宿で人事部門を強化することが決まったのです。それまで人事は経営本部の中にある一つのグループでしたが、人事本部として独立させて、役員直轄にしようという話になりました。

倉重:その時点で、人事の扱いをきちんとする会社になっていたということですね。まさに今日の対談の1つ目のテーマはここで、「人事は何のためにあるのか」を伺いたいと思います。例えば経営会議や取締役会などに人事担当責任者がいなかったり、「人事のことは全然知らない」と言ったりするケースは結構あると思います。人事の重要性はどういうところだと、その合宿では言われましたか。

曽山:言葉としてはシンプルです。「人を大事にしたほうが個人にも良いし、会社の業績も伸びる」ということが決議されたのです。

倉重:それは経営方針ですか。

曽山:そうです。「人を大事にする」ということを実践すれば、社員も会社を大事に思ってくれて、結果的には業績も上がるだろうという意思決定で人事を強化しました。

倉重:逆に言うと、その意思決定をする前はあまり大事にしていなかったのですか?

曽山:大事にしていたのですが、混乱もありました。社長の藤田はもともと人材ビジネスの会社から独立しているので、人が重要ということはよく口にしていました。藤田自身が採用活動に力を入れていたくらいです。

倉重:自ら?

曽山:はい。自ら会社説明会にも、最終面接にも出て、内定のクロージングの食事も全部して、「特に人が大事だ」と言っていました。私は社員20人のときに入社したのですが、1年後には100人の組織になっていました。幹部も若手もたくさん入って来たので、藤田の言葉がほかのメンバー全員に浸透しているかというと、残念ながら徹底はできていなかったと思います。

倉重:なるほど。

曽山:藤田の言っていることはすごく良い考えで私も共感していましたが、現場で言動が一致されているかというと、そうでもなかったのです。それが離職率の数字にも出ていて、1年間で30%が辞めました。

倉重:相当多いですね。

曽山:そうです。しかもそれが3年続きました。毎年3割ずつ去っていき、3年後には全員入れ替わるくらいの勢いがあったのです。

倉重:それはまずいですね。「経営戦略として人事を強化しよう」ということで、まず何をしましたか?

曽山:2003年がサイバーエージェントの人事の分岐点です。このタイミングで「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを定義しました。今で言うMission Statementと呼ばれるものです。ほかの会社ではバリュー、価値観、クレドなどと言われるような、大事にすべき行動指針を明文化しました。同時に7つほど、新人事制度に取り組みました。具体的には新規事業プランのコンテストや、社内の異動公募制度、転職の制度です。今でも残っていますが、社員同士が交流できるように、飲み会・食事代の支援も始めました。

 そういう流れが2003年には出来ていて、社員も喜んでいました。ただしこの人事制度は運用がうまくいっていないものが多かったのです。

倉重:そうなのですか。

曽山:例えば「新規事業プランコンテストの応募数が少ない」という課題がありました。人事が専門部署してきちんとやるべきだという話があり、2005年の役員合宿で決議されました。それで「人事部門を作ろう」ということになったのです。当時私は広告営業の責任者となっており、社内で一番顔が利くので「曽山君がいいのではないか」と指名されたようです。

倉重:なるほど。人事のことは知っていましたか?

曽山:全然知らなかったです。ただ、僕のベースとしては、大学4年生の時に、ラクロスというスポーツのキャプテンをしていました。そこでチーム作りの楽しさと難しさは痛感したのです。

倉重:組織をまとめ上げる経験はあったということですね。

曽山:そうです。社会人になる時にも、先ほどは「衣食住」でファッションの伊勢丹を選んだと言いましたが、「すごいチームを作りたい」ということは、僕の思いの中にずっとありました。「チームをどこまで最大化できるか」ということが、自分のやりがいだと思っていたのです。

倉重:いいですね。

曽山:ですので、サイバーの中でも営業として、個別面談やチームを作ることなどの組織開発をしていたわけです。確かに人事労務などの知識はゼロでした。ここで分岐点が出来たという感じですね。2005年に入ってからは、とにかく勉強しました。本を大量に買って読んだり、すでに人事メンバーが5~6人いたので、「この本に書いてあるこれを教えてもらいたい」と頼んだりしていました。

倉重:人事本部長自ら部下に教わりに行ったのですね。それができるのはすごいことです。人事本部長として強化を始めて、いきなりうまくいきましたか?

曽山:いや、最初の半年間はものすごいスランプというか、立ち上がらないままスランプに陥ってしまったのです。なぜかというと、営業は数字を見るのに対して、人事はどのように成果を出せば良いのかわからず、大変悩みました。

倉重:いろいろな会社の社長さんもおっしゃいますよね。人事は目に見える目標がなく、どうやって評価すればいいのかと。

曽山:そうです。かなり難しいですね。結論は、役員や社員から感謝されたり、「サイバーは良い会社ですね」とほめてもらったりするサイクルをたくさん作るほうがいいだろうというところに着地したのです。

倉重:なるほど。それは分かりやすいですね。

曽山:それを重点的にやるようにしてから、仕事が前に進むようになったという感覚があります。

倉重:最初は曽山さんも理詰めで部下に対して迫っていくような時期もあったのですよね。

曽山:よくご存じですね。昔は自他共に認める激詰めマネジャーで、すぐロジックで詰めきっていました。うまくロジックが合う部下だけは成長しますが、正直それ以外は合わなかったので、申し訳なかったと思っています。人事を通して一番大きな学びは、「人は論理ではなく感情で動く」ということでした。

倉重:なるほど。

曽山:これは僕の中ですごく大事にしていることです。感情で動くことを大事にすると、一人ひとりが笑顔になるし、やる気も出るということを、人事に来て少しずつ学んでいきました。

倉重:「感情で動く」ことは、私もいろいろな紛争を見ていて、本当にそうだと思います。言うのは簡単ですが、実際に行うのは難しいですよね。

曽山:とても難しいです。ですから、一人ひとりに寄り添うこともたくさんしています。空中戦で、「人事のトップがこう決めたから、全社こう動け」というのではなく、自分ができる範囲でランチに行ったり、面談したりすることを繰り返しました。一人ひとりの関係性を大事にすることが重要だと思っています。

倉重:本当に地道な話ですが、「年に1,000人と会う」と決めているのですよね。

曽山:コロナの時期は難しいのですが、週に4回ぐらいは社員と食事に行っています。ランチとディナーをそれぞれ週に2回ぐらい行く感じですね。1回あたり5人と食事すると、5人×4回で、1週間で20人と会えるわけですね。4週間行けば、80人。80人×12カ月で、ざっくり1年間で1,000人ぐらいになります。

倉重:それは現場の声を聞くことを目的にしているのですか?

曽山:はい。基本的には現場の生の声を聞くということと、経営の生の声を伝えることはセットだなと思っています。

倉重:それを実践してみて、どういう良いことがありましたか。

曽山:ものすごく自信がつきました。例えば新しい人事制度を考えているときに、「こういう課題があって、こういう解決策を議論しているが、どう思うか?」と、僕はどんどん聞いていきます。「それはとても良いですね。ぜひやってください」と言われたら、ものすごい自信になります。逆に「それはピンと来ないですよ。曽山さん、ずれていますよ」と言ってもらったら、その場で議論します。全部決まらないにしても、ヒントが出るだけで、その人たちはもう共犯のような感じです。

倉重:自分も考えた制度ということになりますね。

曽山:どんどん巻き込んで、「ポジティブ共犯者」を作っていくと、いざそのサービスがリリースされたときに、多少形が変わっていても、「あの時議論した、あれですよね」と言って皆応援してくれるのです。仮に毎月社員と会っていない曽山がいたとして、毎月きちんと社員と話している曽山と比べたら雲泥の差が生まれます。制度を作るときの自信になりますし、失敗したときの軌道修正も楽なのです。

倉重:ポジティブ共犯者!良いですねぇ。一緒に議論した人たちの顔が浮かびますし変な制度は作れないですしね。

曽山:そうです。「彼らが言っているのなら仕方ない。確かにそれは間違いだ」と思えます。

倉重:なるほど。人事制度改革などは秘密にしなければならないから、誰にも言えなくて悩むことがありますが、真逆ですね。

曽山:そうです。オープンにしたほうがいいです。

(つづく)

対談協力:曽山哲人(そやまてつひと)

株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO

上智大学文学部英文学科卒。高校時代はダンス甲子園で全国3位。

1998年に株式会社伊勢丹に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事。

1999年に当時社員数20名程度だった株式会社サイバーエージェントに入社。

インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。

現在は常務執行役員CHOとして人事全般を統括。

「クリエイティブ人事」「強みを活かす」などの著作のほか、ビジネス系YouTuber「ソヤマン」などSNSでも情報発信。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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