中学受験のカリスマに聞く、「子供のキャリア形成と親の関わり方」【安浪京子×倉重公太朗】第1回

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今回のゲストは、算数教育家、中学受験専門カウンセラーの安浪京子先生です。神戸大学発達科学部卒。関西・関東の中学受験専門大手進学塾にて算数講師を担当、プロ家庭教師歴約 20 年のベテランです。開催するセミナーは即完売、カウンセリングの予約が数年先まで埋まっているほど人気で、中学受験のカリスマと言われています。先の見えない世の中で、子どもたちの力を引き出し、中学受験を機にキャリア形成していくにはどうすれば良いのか伺いました。

<ポイント>

・少子化により中学受験業界はヒートアップしている

・中学受験は飲み込まれるのではなく利用する

・受験業界はハズレの先生が多い?

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■どうして受験業界に足を踏み入れたのか?

倉重:今回は中学受験界のカリスマ、「きょうこ先生」こと安浪京子先生にお越しいただいております。安浪先生はプロ家庭教師や中学受験カウンセラーです。簡単に自己紹介をお願いします。

安浪:中学受験専門の算数のプロ家庭教師の会社「株式会社アートオブエデュケーション」を経営しており、私自身も算数のプロ家庭教師をしています。弊社は家庭教師を派遣しているだけではなく、中立的な立場でカウンセリングを行い、学習のアドバイスをしているのです。親子の確執が深くなる中学受験だからこそ、親向け、子向け、親子向けのセミナーを開催したり、メンタル系のサポートにも力を入れたりしています。

倉重:私や妻もきょうこ先生のセミナーに参加させて頂いているのですが、親後さんとの関係性やメンタルサポートは、かなり強く強調されていますね。本当にカリスマなので予約も数年待ちで、抽選でも全然取れません。ご出身は神戸大学で、最初は大手の塾で講師をされていたと思うのですが、「受験業界に行こう」という昔から思っていたのでしょうか?

安浪:そういう気持ちは全くなかったです。

倉重:最初のキャリアはどうやって始まったのですか?

安浪:大学の学部選択のときまで、私は作曲家かアナウンサーになりたかったのです。音楽を勉強できる神戸大学の発達科学部に進みましたが、やはり音楽では食っていけないということがあって、いろいろなテレビ局のアナウンサー試験を受け、大学卒業後は、気象キャスターになりました。会社契約ではなく、関西で初めて派遣の気象キャスターとして採用されたのですが、それでは生活が苦しかったのです。一方で、大学時代に浜学園で算数を教えていたという経歴は、関西ではすごくブランドになりました。算数は一番ニーズが高く、かつ女性講師ということで、プロ家庭教師として強い引き合いがあったんです。

倉重:確かに、プロ家庭教師で女性はかなり少ないですものね。

安浪:そこで家庭教師とキャスターの二足のわらじ生活がスタートしました。収入は気象キャスターよりも家庭教師のほうが上回っていたのです。でも、当時の夢は気象キャスターとして全国ネットのNHKに出ることで、「いつかは中学受験からは足を洗いたい」と思っていました。

倉重:副業でやっていたということですね。でも今では完全にこの業界でやっていくという感じですよね。

安浪:気象キャスターは女性の場合、若い方が重宝がられる部分がどうしてもあり、使い捨ての世界でもありますからね

倉重:いつごろ主従が逆転したのですか?

安浪:実はキャスターを辞めてからも気象の世界にはずっと携わっていて、検定事業も始めたのです。「天気検定」というNPOをつくって、中学受験と二足のわらじをしていた時期もあります。

倉重:天候が好きだったのですね。

安浪:特にそういうわけでもないですが…(笑)。私はいろいろな所でキャリア講座論を持っているのですが、「音楽や気象キャスター、天気検定事業、中学受験の算数は、形が違うだけで、皆さんに自分の言葉で分かりやすく伝える部分は全部一緒です」と話しています。

倉重:なるほど。中学受験のほうに本腰を入れようと思ったのは、何かきっかけがあるのですか?

安浪:正直に言うと、やはり中学受験のほうがお金になります。食べていかないといけませんし、家庭教師はフレキシブルに働けるところも魅力です。20代の頃はそんな感じで考えていました。ですが、勉強が順調に進まないだけで親子関係がガタガタになっていたり、泣きながら勉強をする子どもを見たり、この業界の闇の深さを目にしたことで「何とかしてあげたい」という気持ちが強くなってきました。

倉重:もう今は中学受験一本ということですよね。

■少子化で中学受験の難易度はどうなるのか?

倉重:中学受験は少子化が進んでいる今、さらに難しくなっているのですよね。

安浪:難しいというより過熱しています。少子化とメディアによる情報の影響も大きいです。

倉重:メディアだけでなく、Twitter、Facebook、インスタ等、今は個人でもいろいろ情報が溢れています。過熱しているのは首都圏が中心ですか?

安浪:地方は高校受験が一番過熱します。私の地元の岐阜でも、旧制一中である岐阜高校に入るために小5から塾に行くという現象が起こっているわけです。昔はそんなことはありませんでした。だから、中学受験に限らず、教育がすごく低年齢化して過熱している傾向は、各地で見られるのではないでしょうか。

倉重:高校に入るために小学校からですか。地方でも都市部と同じなのですね。

安浪:そういう部分もあると思います。

倉重:受験にお金をかける人や労力を使う人は増えているということですか?

安浪:少子化になって、その傾向は高まっていると思います。1人にかけるお金がドンと増えるので。その一方で私学は余っていますから、つぶれていくところも多くなっています。

倉重:私も今娘が受験をしておりまして、週5で塾に行き、家庭教師も3人付けています。

安浪:3人も付けているのですか。

倉重:「週1しか入れません」という先生も含めて3人で、組み合わせながら取りあえず乗り切っていこうという状況です。日曜日も模試ですし、だいたい朝6時に起きて夜11時に寝ることで、日々之決戦状態です。「受験が終わったらこれをしたい」と楽しみにしておりますが、やはり今の受験制度というものを実際に体験して、「何でこういうことをやるのだろう」と親も疑問に思う時があります。すごく難しかったり、社会の問題で、とても細かい年号を暗記させたりするのは「本当に必要なのかな」と思ってしまいます。安浪さんは、中学受験の必要性についてどうお考えですか。

安浪:皆さんの多くは、「公立中学か私立中学か」という二者択一だと思い込んでいるみたいですが、別に二者択一ではありません。そういうふうに思わせているのは塾業界です。例えば神奈川は高校受験の内申がとても複雑です。先生の腹一つで高校受験の内申が決まってしまうため、なんと神奈川の高校受験のために中学受験塾に通っているという家庭もあります。

倉重:高校受験のために中学受験塾に通うのですか?

安浪:神奈川の場合はどういうことかというと、中学受験の内容はすごく高度じゃないですか。高校入試や大学入試と同じものが普通に出題されたりします。国語の読解技術も大学入試まで共通です。国語と理科と社会を中学受験の塾で勉強をしておけば、中学に入ってから楽にトップにいられます。

倉重:確かに結構、理科と社会もハイレベルだと思いました。

安浪:公立中学の定期テストよりははるかに難しいです。そこを先取りで勉強しておくと、伸び伸びと部活もできるし、成績もずっと上位なので内申も取れるのです。余裕を持って公立トップの高校を狙えます。

倉重:そういう選択肢もあるのですね。

安浪:だから、中学受験は飲み込まれるのではなく利用するという視点を持って欲しいですね。

倉重:最近、うちの子供も過去問を解くようになって、私も見てみると、働き方改革や労働基準法について答えさせる問題があってすごいと思いました。労働法の専門家の私から見ても、「こんなものを出すのだな」と思ったほど、すごく難しくなっています。

 そのような中で、子どもがやりたいと思って続けるのはいいと思うのですが、最初は親が仕向けざるを得ないところもありますよね。何のためにやらせるのだろうといろいろ迷っている親御さんはいませんか?

安浪:よくいろいろな所で言うのですが、腹を決めてスタートする家庭はまだいいのですが、関東はお稽古事の一環として、何となく始める家庭が多いです。

倉重:割と軽い気持ちで?

安浪:そうです。「家にずっといるとゲームばかりするから、週に2日だけでも塾に行かせたほうがいいかな」といった考えです。やはり塾も3、4年生の間はハードなことは言いません。「家庭は何もしなくていいです」「楽しいですよ」と言いますよね。実際に3年や4年の内容はまだまだぬるいので、勉強をしなくても塾に楽しく通えます。そこで親が、「これはイケるのではないか」と油断します。ところが5、6年になると一気に難しくなってくるわけです。でも、一回そのレールに乗ってしまうと、降りるという選択肢を取れなくなります。

倉重:確かに一回上を狙うと、「もうそこに行くと言ったじゃないか。一回目標にしたのだからそう簡単に諦めるな」ということになります。

安浪:やはり4年生や5年生では、中学受験のシビアさはわかりません。6年生の今頃になってやっとわかると思います。特に有名塾のSAPIXなどを選ぶご家庭は、「ここに入れておけば難関校のどこかに引っ掛かるのではないか」という幻想を抱いてしまうみたいですね。

倉重:私も最初は本当にそう思っていました。

安浪:でも、勉強しないと点は取れないので、在籍しているだけでは無理です。

倉重:先生がよく本にも書かれているように、「中学受験を通じてどう育ってほしいか」「どういう価値観を持ってほしいか」ということが本質的に大事なのだろうと、頭では分かっているのです。分かっているのですが、やはりわが子になると難しいです。

安浪:それと、「本質だけ身に付けばいい」というのは、ある意味逃げでもあります。ここ一番という勝負どころで戦うことを経て成長しますから。入試という期限があって、合格、不合格という黒と白しかない大勝負に挑むことにも、中学受験の価値はあります。

倉重:私も、小学校受験する子が多い幼稚園に行っていたのですが、やはり小学校受験だと親の力が大きすぎると思ったのです。

安浪:あれは完全に親の受験ですから。

倉重:それで良い大学といわれている所に入るのも違うと思いまして。もちろん中学受験も親の経済力や家庭状況が関係しますが、それでも本人が「やらない」と言ったらさすがに難しいので、親子二人三脚でいける中学受験がいいかなと個人的には思いました。

安浪:小学校受験は親の受験なので、親で決まります。しかし中学受験は、地頭が良くて能力がある子が受かるわけではないのです。勉強が得意でもやらないと、当たり前ですが伸びません。

倉重:地頭がなくても積み重ねがないとダメですよね。

安浪:積み重ねるという努力や、家庭のサポートがないと、どんなに地頭が良くても受からないのです。時々最難関に合格した家庭の体験記に、「親は手を出さず、何も言いませんでした」というのがあるのですが、あんな万に一つの例えを読んでも何の参考にもなりません。

倉重:そんなのは超天才だけですよね。

安浪:そういう子はもう大人顔負けです。

倉重:うちの子も塾ですごく大量のプリントと宿題を毎週持って帰ってきて、整理するだけでも「子どもの処理能力を超えている」と思います。ごくまれな天才以外は、親が手を貸してあげないと無理だと思いました。

安浪:有名な佐藤ママのところは4人とも東大の理三に行っていますが、あそこは100パーセント親が手を出しています。理三に合格する子ですら親が手を出さないと無理だということです。

倉重:確かにそうです。中学受験であればなおさらですよね。

安浪:そうです。ただ、中学受験は親が手を出し過ぎることによって問題が生じることが多いのです。親も子どもも「頭では分かっていても、気持ちが付いていかない」というところが中学受験は大きいです。

■塾はどのように選ぶべきか

倉重:毎月偏差値という形で結果が通知化されるので、「これだけやったのに」という気持ちに私もなりますから、これは大変だと思います。そんな中で、今はコロナという状況も加わって、塾ごとに教え方に差が出てきているのではないでしょうか。そんな中で、親はどのように塾を選べばいいのでしょうか。

安浪:ちょうど今の時期に低学年の親から「どこの塾がいいですか」という問い合わせがすごく増えます。オンラインで相談会をしましたが、結論から言うと運です。結局、いい先生に出会えるかどうかがすべてなので。子どもが算数を好きになるのは、算数の先生が好きだからです。でも、先生を選んで塾を選ぶということはやはり難しいです。

倉重:そのクラスに入れるかどうかは分からないですからね。

安浪:それと、評判を聞いてその塾を選んでも、先生が別の所に転勤になることもあります。

倉重:辞めてしまうこともあるでしょうし。

安浪:ですから、塾を選ぶ時に基準は、大手の場合だとテキストとカリキュラム、テストの頻度です。そういったものを利用するという考えでいないと、「塾が何でもやってくれる」と思ったらダメです。

倉重:「塾は利用し通せ」と書いてありましたね。

安浪:もう利用するしかないです。あと、基本的にこの業界はハズレの先生も一定数います。家庭教師はもっとそうです。勉強はそこそこできるが社会にうまく順応できない、コミュニケーションがうまくいかないという人が流れつくことの多い業界なので。例えば民間の企業で働いた上で、何らかの思い入れがあってこの業界に入ったり、いろいろなキャリアを経験したりしている方はすごく視野が広いのだけれども、開成、東大出身で「問題を解くのが好き」という人の中には、コミュ障のような先生も多いわけです。

倉重:「あなた会社に入ったら働けないでしょう」という人ですね。

安浪:塾や家庭教師の先生には、そういう人がそれなりの割合でいます。だから、塾に行って一人でも好きな先生や信頼できる先生、味方と思える先生が見つかったらラッキーです。

倉重:そうしたら本当に運ですね。

安浪:でも、運なんかに翻弄(ほんろう)されたくなければ、家庭である程度きちんと立たなくてはいけません。

倉重:どこに行かせるかではなく、まず自分たちがどう立つかということですね。

安浪:本当にそれに尽きます。やはり塾のほうが当然上手(うわて)ですから飲み込まれます。

倉重:情報量の格差が圧倒的ですからね。ちなみに弁護士業界も今の話と似たような状況があります。確かに東大を出て司法試験に受かったけどもコミュ障という弁護士は業界にいるなと話を聞いていて思いました。普通の会社に行ったらまず無理だよという人はいます。私も含めてですが(笑)。

(つづく)

対談協力:安浪 京子(やすなみ きょうこ)

株式会社アートオブエデュケーション代表取締役、算数教育家、中学受験専門カウンセラー。

神戸大学発達科学部にて教育について学ぶ。関西、関東の中学受験専門大手進学塾にて算数講師を担当、生徒アンケートでは100%の支持率を誇る。プロ家庭教師歴約20年。

中学受験算数プロ家庭教師として、算数指導だけでなく、中学受験、算数、メンタルサポートなどに関するセミナーの定期開催、特に家庭で算数力をつける独自のメソッドは多数の親子から指示を得ている。

中学受験や算数に関する著書、連載、コラムなど多数。「きょうこ先生」として、朝日小学生新聞、AERAwithKids、プレジデントファミリー、日経DUALなどで様々な悩みに答えている他、教育業界における女性起業家としてビジネス誌にも多数取り上げられている。