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日本型雇用の限界と再生への道【柿沢未途×倉重公太朗】最終回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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AIの進化により、人間のやる仕事の49%がロボットに代替されるという時代が目の前まで迫っています。すでに工場生産の現場では、熟練の職人技ですらどんどん産業用ロボットに置き換えられていっています。そんな「機械化経済」はますます加速していくことでしょう。これまでの成功体験や常識にとらわれていては、時代の変化に乗り遅れるかもしれません。今後の社会を見据えて、一人ひとりは何を意識していけばいいのでしょうか?

<ポイント>

・外国から高度な人材を受け入れるには?

・「寄らば大樹の陰」というメンタリティーから変えていく

・人生には失敗も成功もない。これまでの人生はこれからが決める

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■日本はスイスをめざすべき

倉重:やはりグローバルに見たときの視点というのはすごく大事だと思います。実際に、例えば香港の話があったときに、高度人材を受け入れたらいいのではないかという議論もありました。

柿沢:私は、日本はスイスみたいな国を目指せばいいのではないかと思っています。

倉重:本に書かれていましたね。

柿沢:はい。独自の文化と伝統があって、それが世界から評価もされていて、なおかつ、国としては外国人を取り込みながら社会統合がきちんととれているところです。地方分権も進んでいて、決して一極集中ではありません。公用語も4つある国です。永世中立国と言っているぐらいですので、平和愛好的ではあるけれども、徴兵制もしていて、戦えば負けることはありません。金融立国で、近くの欧米のみならず、恐らく中東や発展途上国からも富裕層とかの資産の逃避先になって、それを運用して利益を得ている国でもあります。同じように「資産を逃避させよう」あるいは「身内を住まわせよう」というときに、日本が一番の選択肢になるのが良いと思うのです。

 中国の人を積極的に雇用している会社さんでは、女性のすごくいい人材が日本に留学してくるそうです。なぜかと言うと、日本の地方の親御さんと似たような心境で、やはり東京にまでは娘は出せないけれども、仙台までならいいということがありますよね。

倉重:感覚としてありますね。

柿沢:「アメリカやヨーロッパまで出してしまうと心配だけれども、同じアジアだし、日本なら留学くらいはいい」ということで、優秀な女性の人材が日本に留学して来るのです。そのまま就職して、会社の中で国際結婚するということがよくあります。

倉重:おそらく優秀なのでしょうね。

柿沢:みんな真面目で優秀なのです。

倉重:日本人とは何かという話で、やはり日本語を話して、日本の文化が分かって、日本のことが好きだったら、これはもう日本人のチームとして迎え入れてあげてもいいかなと思いますよね。

柿沢:そのとおりです。一番大事なのは、やはり日本語です。言葉の通じない人たちが集住するコミュニティーができると、周囲の日本人とうまくやっていくのは難しいと思います。「ゴミ出しの仕方が駄目だ」と言っても、言葉が通じなくて、書いているゴミ出しのルールも読めなかったら、どうしようもありません。

倉重:コミュニケーションが取れないですね。

柿沢:それは非常に不幸なディスコミュニケーションによるものです。日本語でコミュニケーションできれば、「ゴミ出しはこうしてほしい」ということも伝えられます。ですから、基礎的な日本語の習得を、政府が外国人の居住者に対して一定程度まで保証することが、結果的には日本にとってもプラスになると思います。やはり言葉が大事です。

倉重:だから日本語が鍵ということですね。

柿沢:本当にそう思います。

倉重:私のお客さんでも、外国人に日本語を教える学校があります。このコロナで一気に学生さんが来なくなってしまったので、オンライン授業に舵を切っています。なかなか大変で業界的に存続が危ぶまれているらしいのですが、日本語を教えることは国として戦略的に促進していって欲しいですね。

柿沢:全くそうだと思っています。やはりそういう意味ではアメリカはすごいです。

倉重:英語を世界語にするというのはね。

柿沢:アメリカでは、移民、難民の人たちに公的プログラムとして基礎的な英語を習得させているのです。ESL(English as Second Language)と言います。私自身も中学生のときにアメリカで1年ホームステイさせていただいたときに、そのプログラムを受けましたからよく分かります。ターバン巻いてる人など、いろいろな国の出身の英語が分からない人と一緒に授業を受けました。それを公的プログラムとして提供しています。

倉重:それは日本の進むべきヒントになりますね。

■「ここから逃げられない」というメンタリティーを変える

倉重:今後の日本がどうなるかという大きな視点の話と今度は真逆で、働く人たちもいろいろな不安を抱えています。「来月は会社がピンチだ」という明確な不安がある人もいれば、「会社は大丈夫だけれども何となく不安」という人など、いろいろな思いを抱えています。終身雇用という世の中ではなくなってくる大局観はありますが、ミクロで考えたときに、今後どのような意識で働いていけばいいでしょうか。

柿沢:人の置かれている状況も、また持っているスキルや経験もそれぞれですから、一律で答えることはできません。「AIロボットで人間の仕事の49%は置き換わる」ということが当たり前のように言われています。長時間労働してもまともなアウトプットを出せない人は、時間給で給料を支払っても、会社にとってあまりプラスの貢献とは言い難い時代になっている中で、労働時間と報酬、収入が切り離されていくかもしれません。大抵の作業はAIロボットがそれなりにでき、工場の生産労働も「クリーンで安全な環境でものづくりをしています」と、人がいないのが売りになるような時代です。

 そういうときに全ての人が働いて、それなりの収入を得ることを続けていけるのだろうかということに非常に興味があるのです。師匠の海老原嗣生さんは、「AIロボットが人間の仕事を代替する時代なんて来ません」ということを言うのですが、倉重さんはどう思いますか?

倉重:代替されるものはあっても、それは馬から自動車になったのと同じ話で、AIを使った別の仕事が出てくるだけだと思っています。それをちゃんと使える、そこに移行できるような人であれば大丈夫ではないでしょうか。でも今までの仕事の在り方に固執する人は危ないと思います。仕事の在り様は変わるはずです。人でなくてはできない仕事というのは絶対に残りますが、パソコンを使うようになって、大きく仕事のやり方が変わったのと同じようなことがまた起こると思います。その変化に適応することが大事です。

柿沢:質問をそっくり返すようですが、変化に適応する必要がある人に対して、例えば「今自分の雇用が不安です」と悩みを打ち明けられたときは、何をすべきだと話しますか?

倉重:「自分が何者か」ということが一番の鍵になってくるのではないかと思います。何が好きなのか。何がしたいか。どのようになりたいのか。ここをきちんと自分に問いかけることが大事だと思います。おっしゃったように一人ひとり違うので、自分の好きなもの、得意なもの、やりたいもの、なりたい姿を考えるということが大事です。本来はそれに沿った教育プログラムや社会保障があると本当にいいなと思います。そういう意味では一社、一つの仕事に固執するよりは、いろいろな仕事を試してみて自分の適職を見つけるのが良いのではないでしょうか。

柿沢:考えてみると、第三次産業がどんどん膨らんで、農業、工業からサービス業にシフトをしてきたのは、やはり「人間が人間を心地よくする」ための仕事が増えてきたからです。例えばLINEスタンプを作って稼いでいる人を見て、昔の人は「それは仕事なの?」と思うかもしれません。しかし人を気持ちよくしたり、興奮させたり、感動させたりすることに、みんなが投げ銭的にお金を払う世の中になっているのです。地下アイドルのフォローワーになって一生懸命CDを買っている人もいます。「これもれっきとした仕事だ」と考えると、何かを人に対して価値を提供できる人でないと、これからは生きていけない可能性があります。単純に何かを組み立てる作業をしているだけだと、うまくいかないかもしれません。

 それと人間のメンタルは、対人関係でやられる場合が多いのです。人を心地よくするニーズはすごく高まっています。その一方で対人関係そのものが心の病の大きな要因になっているのです。そこをうまくバランスしていくことが大切です。

倉重:日本の場合は雇用の流動性が低いので、今入っている会社の人間関係で問題があると、すごく病んでしまうのです。私は弁護士会で外国の労働省に意見交換に行っているのですが、タイの労働省に行ったときに、「なぜ日本人はKaroshi(過労死は英語で通じます)のような状況になるのですか?」と聞かれました。ハラスメントを受けたり長時間労働をさせたりしたら、タイの労働者だとしたら誰一人黙っていません。みんなすぐ文句を言って辞めてしまいます。そして隣の工場に就職するのです。そのように流動化した社会であれば、何か嫌なことがあればすぐに辞めることができます。辞められたら会社も困るので、どんどん労働条件を良くしていくという循環が生まれます。私は日本もそういうふうに変わっていったらいいと思っています。

柿沢:最初の話に戻るのですが、一つの集団に所属して、そこから離れられない、逃げられない、離脱できないというメンタリティーそのものをフリーにしないといけないのでしょうね。「寄らば大樹の陰」という言葉がありますが、「中高一貫校の私立に入れば大丈夫」「就職ランキング上位の大企業に入れば大丈夫」という全く信用ならない神話にどっぷり漬かって、そこから離れたら負け組だと思っているメンタリティーを変えなければいけません。嫌だったら辞めればいいのです。変な話、教室のような閉鎖的な空間で人生に絶望して、自ら命を絶ってしまうという悲劇が続出していることとも無縁ではないと思います。

倉重:全くそのとおりです。いい大学に行って、いい企業に行けば、人生幸せだという時代では決してありません。しかし、このように思っている親御さんの世代がまだ多いので、今の大学生も苦労しています。そういう意味で、今の若い人に向けてのアドバイスを伺いたいと思います。今大学生もすごく不安ではないですか。若い世代に語り掛けるとしたら、どのように語りますか?

柿沢:これには決まった答えを持っています。特に就職活動でいい企業に入れる、入れないという話があるじゃないですか。だけれども、就職活動に成功も失敗もありません。結果として中小企業にしか入れなかったとしても、新卒は1人か2人しか採用されない会社であるがゆえに大切にされて、大企業の新米だと経験させてもらえないような仕事を任されたり、社長のそばに置いてもらったりして、いろいろな人と会える可能性があります。そういうことで経験の幅を広げて、30代中盤ぐらいになると、大企業でくすぶっている人よりも幅の広い人材になっていることもあり得るのです。逆に大企業に入っても、変な上司の下で飼い殺しにされてしまって、そこから逃げられないと思ってメンタルを病んでしまう場合もあります。そういうときに「失敗だ」と思いつめないでほしいのです。それも通過点であり、巡り巡って失敗だと思ったものが、「むしろあれがよかったのだな」と思えることはいっぱいあります。自分自身もそうでした。

倉重:現在を起点に、そこから自分にできる最善の行動をとって、その結果としてキャリアというものがついてくるということですね。そういうことは後から振り返ってみて思うのですよね。

柿沢:そうです。私は世の中では考えられないような、本当にみっともない不祥事が転機になって、国会議員になってしまったわけです。「私を見なさい」ということが言えます。私が禅寺で修行していたときに出会った、「これからがこれまでを決める」という言葉があります。得意げになって調子に乗っていたために、失敗して、転落して、気が付いたら牢屋に入ってしまったという人もいるわけです。一方で、「ああ、もう人生が終わった」と言われた人でも、どん底で味わった挫折感をバネにして、心を入れ替えて頑張ったことで、次に起業した会社がすごく伸びることもあります。

 だから「これまでの人生の良し悪しはこれからの生き方が決める」というのは、結構いい言葉だと思います。

倉重:いいですね。過去に起こった事実というのは変わらないけれども、その意味付けは変えられるという話だと思います。

柿沢:そのとおりです。哲学で言うと、これを構造構成主義の考え方と言うらしいです。災害もそうです。私は防災士の国会議員として災害の支援活動をしているのですが、災害があったからこそ出会えた人もたくさんいます。例えば、東京から支援に来た人と現地の人が結び付いて、新しい農業をソーシャルベンチャーにすることもあるのです。ですから、どんな出来事も生かしようだということです。

倉重:そうすると、このコロナ禍もどのように生かしていくのかという話ですね。

柿沢:全くそのとおりだと思います。そういう意味では、コロナが早めに収束して、全部元どおりになって、「結局何も変わらなかったね」ということも起こり得ます。震災後は「災後の社会が来るのだ」ということが論壇で盛んに言われていましたが、結局はあまり変わりませんでした。

 アフターコロナについて、ヤフーの安宅和人さんやライフネットの創業者の出口治明さんなど、いろいろな方が「社会がこう変わる」と本を出していますが、結局ふたを開けてみたら、割と早く収束してしまったので、何も変わりませんでしたという可能性もあるわけです。

倉重:「結局満員電車に乗って、毎日出社しています」という会社もありますよね。

柿沢:今回はいい意味で変化を起こせたらいいなと思います。

倉重:本当ですね。あっという間に時間がたってしまいました。あとはこれからの活動を含めて、夢というものをお伺いしたいのですが。

柿沢:夢ですか。私は、もともと日本はエリートが優秀で立派になったという国ではないと思っています。どちらかと言うと、一人ひとりのレベルが高い国なのです。幕末、明治維新、自由民権運動の時代の歴史を見ると、農村部の名主さんの子どもにも、ものすごい読書家がいたのです。ヨーロッパやアメリカから書籍を取り寄せて熟読し、あっという間にみんなで「民主主義とはなんぞや」「議会とはなんぞや」ということを議論するようになりました。みんなで「日本の国の憲法はこうあるべきではないか」と車座で議論したことから、五日市憲法や、植木枝盛の憲法の草案が生まれています。本当に一人ひとりのレベルが高い国だと思っています。

だからこそ、「上がこう言っているからこうしよう」というメンタリティーを変えて、一人ひとりが自分の考えと責任で行動していけば、もっとイノベーションが働くと思っています。そのように日本の社会を変えていくというのが、私の夢です。

倉重:いいですね。本当に柿沢さんみたいな政治家の人が増えてくれると、世の中が変わるのではないかと思います。

柿沢:最近は「NHKをぶっ壊す」とか、こういうほうが受けますから。僕はまだエグみが足りないのではないかと思います(笑)。

倉重:(笑)。やはり本気で日本の未来を考えるような政治家が増えていってほしいと思います。ちょうどお時間になりました。本当に今日は1時間もお付き合いいただきまして、貴重なお時間をありがとうございます。

柿沢:どうもありがとうございます。

(おわり)

対談協力:柿沢未途(かきざわ みと)

■昭和46年(1971年)1月21日生まれ

 江東区立数矢小、麻布中・高、東京大学法学部 卒業

■NHK記者として長野冬季オリンピック・パラリンピックを取材

■都議2期、衆院4期連続当選

■初当選以来、所属政党の政調会長や幹事長を歴任

■文藝春秋「日本を元気にする125人」に選ばれる

■国会質問ナンバーワン議員として知られ、2020年6月までの国会質問回数は334回

■NPO法人による国会質問評価で★★★3ツ星議員を4回受賞

■政治団体「新エネルギー運動」代表として、RE:100(自然エネルギー100%)の日本をつくるために政策提言中

■防災士の国会議員としても知られ、3.11の震災をはじめ被災地に数多く足を運んでいる

■禅寺修行で自らを見つめ直し、「本来無一物」を座右の銘とする

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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