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コロナ時代にキャリアをどう作るか【森本千賀子×倉重公太朗】最終回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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会社でキャリアアップを図るにしても、転職を成功させるにしても、副業を始めるにしても、自分の価値を高めることは大きなテーマの一つになります。森本千賀子さんは、新人時代からセルフブランディングを意識して行動してきたそうです。入社した日に、配属先のマネジャーから「リクルートの看板で仕事するな」と言われ、自分の「ブランドづくり」が始まったそうです。withコロナ時代に、セルフブランドを高めてパフォーマンスを上げるにはどうすれば良いのでしょうか。

<ポイント>

・ピンチを逆手にとってチャンスに変える

・ニューノーマルは自分でつくるもの

・キャリア教育で働き方が最適化された世の中を目指す

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■2020年は、一生語られる年になる

倉重:今年の就職組もいろいろと不安だと思うのです。研修もやってくれませんし、どのような会社なのかよく分からないまま入社した若い方にアドバイスをお願いします。

森本:逆に言うと、この2020年というのは、多分一生語られる年になると思います。

倉重:コロナ入社ですね。

森本:リーマンショックも、同じように語られていますから。今年就職した新入社員も、前例のない中で、人事がすったもんだしている混乱期に入ってきています。逆に言うと、私はこれもチャンスだと思っています。例えば「人事がきちんと研修しなかったのに、こんなに成長した」という実績を作ることもできますよね。嘆いていても誰もハッピーになりません。

倉重:さすがのポジティブシンキングです。

森本:そこを逆手に取るしかありません。私も、入社当時は女性の総合職が1人だけで、さみしい思いもしたのですけれども、逆にそれを力に変えて全社でMVPを取りました。前提や外的環境に嘆いていても誰もハッピーになりませんし、環境は変わりません。だとしたら、自分の中で最善を尽くし、新しい常識をつくってください。「ニューノーマルは自分でつくるものだ」と思っています。コロナで一気にルールが変わったので、先輩も、上司もありません。営業スタイルそのものが、もう変わってしまったわけですから。

倉重:世界に大いなるリセットがされました。

森本:これは私が実証しています。実は30年近く前、私がリクルートの子会社へ入社したタイミングで、大きくビジネスモデルが変わったのです。だから私はラッキーでした。新入社員でありながらMVPが取れたのは、マネタイズモデルがガラッと成功報酬型に変わったからです。先輩たちは過去のスタイルをなかなか変えられませんでした。

倉重:リセットされるのは、見方を変えればチャンスということですね。

森本:そうなのです。そういう意味でいいますと、先入観がない分、新しい価値を見いだせます。私はそういうタイミングだと思っています。

倉重:腐らずに前を見て、「今だからこそ圧倒的な成果を出してやる」と決意するのですね。

森本:そうです。「こういう状況の中でもここまで育った」という成果を出せると、通常時に成果を出すよりも評価されると思います。

倉重:確かにそうですね。お時間も迫ってきましたので、最後にモリチさんの夢を聞いて、私からの質問は以上とさせていただきます。

森本:たくさんあります。何よりもまずは、うちの息子たちが立派な男になること。それと、今まで30年間、命を使ってきた仕事が人と組織のマッチングです。私自身、転職紹介を入社以来ずっと続けてきましたが、社会人になってから自分にとって人生を懸けてやる仕事を見つけるのはなかなか難しいと思っています。できれば小学校や中学校、高校、大学などの学生時代に、もっと自分の将来のキャリアを考える機会をもってほしいです。世の中にはたくさん職業があり、その中のどれでも選ぶことができます。

倉重:それはどのようにしたらいいのですか?

森本:キャリア教育です。サッカー選手や警察官という日常の中で目に見える中での選択肢ではなくて、いろいろな職業が世の中にはあることをまず知ってほしいと思います。キッザニアどころの話ではなくて、リアルな会社へ行ったり、会社員が小学校に来たりして会話してほしいのです。

倉重:ファミリーデーとは違った、リアルな職場見学ですね。

森本:実は2~3年前、ある小学校でキャリア教育の授業をしました。そのときに何をしたかといいますと、ペットボトルの飲料を皆さんの前に出して、「これを手にするまでの間に、どのような人たちが、どのような会社で、どういうことをしながらここにまで行き着いたかを想像して、グループで話し合ってください」というワークをしてもらったのです。

そうしたら、地下を掘って水を掘削して運んだり、ろ過してペットボトルに詰めたり、トラックで運んでコンビニエンスストアに並べたりという答えが出てきました。利口なチームは、それを宣伝する人やパッケージを考える人など、みんなが手にするまで、いろいろな会社の人たちが関わっていることを想像してくれるわけです。「それを日々の生活の中でも考えてください」と言っています。

例えば鉛筆にしても、毎日食べるご飯にしても、どういう人が関わっているのかを想像しながら日々生活してほしいと言うと、みんな素直にしてくれるのです。1カ月後にレポートを書いて送ってくれたのですが、すごく職業の選択肢が増えていました。

まず生活を通して、いろいろな人たちが関わって自分たちの生活は成り立っていることへの感謝の気持ちと、職業への関心を持つ機会を増やしてほしいと思います。

倉重:経理や法務は、なかなか出てくるのは難しそうですね。

森本:そうですね。でも法律を作る人やそれを守らせる人が必要だったりしますから。キャリア教育で全国行脚して、そういうことを教えてみたいです。

倉重:子どもの頃にモリチさんに会ったら、人生観が変わるでしょうね。

森本:そうやって知ってもらうだけでも違うと思っています。

倉重:そういう世の中にどんどんなってほしいです。あとは親も一緒に変わらなければいけませんね。

森本:そうです。今私は、大学生向けのキャリアセミナーは親御さん同伴にしています。大学のキャリアセンター長には、「講演にはできれば親御さんにも来てもらってください」と頼んでいます。

倉重:むしろ親に聞かせるのですか。

森本:親に聞かせます。親の価値観は何十年も前のものなのです。いくら子どもたちが「あれをしたい」「これをしたい」と言っても、「大手上場会社へ行きなさい」などと言ってしまいます。そういう意味では、親御さんへの啓蒙(けいもう)活動も大事です。

倉重:それはとてもいいですね。モリチさんに言われたら、そういうものかと親も思うはずです。

森本:私の主張を押し付けたいわけではなく、事実を知ってほしいのです。働くことが最適化された世の中になるといいと思っています。それで皆さんにハッピーになっていただきたいです。

倉重:今はオンラインで全国をつなげますから、とても楽しみです。期待しています。

それでは、視聴者の皆さんからいくつか質問をいただきます。では、Aさんどうぞ。

A:おつかれさまでした。倉重さんに機会をもらって毎月参加していますけれども、モリチのブレない話というのはすごくよかったです。

森本:ありがとうございます。

A:久しぶりに聞きましたが、全然ブレていません。「最初が大事」ということをまさに実践していて、すごいと思っています。

森本:ありがとうございます。お恥ずかしい限りです。

A:素晴らしいと思います。Zoomで150件の面談をやってみたのは平日だけですか。

森本:正直なところ、週末もどこへも行けなかったので、土日もずっとしていました。「とことんやってみよう」ということで、振り切ったのです。

A:成長曲線をもう一回上げるという話で、たくさんの人に伝えたいですけれども、なかなかできませんよね。どこからその原動力がわきましたか。150件やってみようと。それまでZoomは1回しか経験していなかったのでしょう?

森本:Zoomは、最初3月22日にやったきりで、機能がたくさんあるので、覚え切れなかったのです。4月8日に焦って設定を覚えました。翌日になって、カメラをこちらに向ける方法がどうしても分からなくて、一日中そのままにしていました。

A:すごいと思います。

森本:取りあえず一回やってみようというのは皆さん思うはずですが、「とことんやってみる」ということが大事と思っています。「ここまでは皆やっていないだろう」と思うぐらいのところまでやってみたときに、見えるものがあります。そうすると、自分が言うことに説得力が生まれると思っています。

B:ありがとうございました。

倉重:では、Bさん、いかがでしょうか。

B:産業医のBです。私も結構フットワークは軽いほうなのですけれども、改めてもっと行動しようと思いました。この時期に体調を崩して「コロナうつ」といわれる方が増えています。そういう方々に、モリチさんでしたら、どういうアドバイスをされますか?

森本:その人自身と、周辺の方々へのアドバイスの両方があります。本人へのアドバイスでいいますと、私も朝から夜までずっと画面に向かいながら150件の面談をしたときには、気が狂いそうになりました。やはり動かないとダメですよね。外の空気に触れる、これは絶対です。家の中にずっといるのではなくて、とにかく外に出て、汗をかく。散歩でいいのですが、気分転換は必要だと思っています。できれば自然にも触れてほしいですね。近くの公園でもいいと思います。

それと、自分にとって何でも話せる家族やお友達、メンターとのつながりをきちんと持っておくこと。自分の変化に気付いてくれる第三者と、Zoomでも対面でもいいので定期的に接触する時間を仕事以外で持つことは、絶対的に大事だと思います。

あと、比較的食生活や就寝時間が乱れてしまっていることが多いので、しっかり決まった時間に食事を取ったり就寝することも大切です。

倉重:周りの方へのアドバイスはいかがですか。

森本:その人を認めてあげること。「あなたが必要だよ」「私たちにとってあなたがすごく大切な存在だよ」と伝えることです。ご両親だったり、ご兄弟姉妹だったり、友達だったり、少し気に掛かるようなしぐさや言葉が出てきたら、そこを察知してメッセンジャーなどで投げ掛けます。

倉重:テレワークだと「自分は役割を果たせているのか」と、不安に思ってしまう人もいるようです。

森本:誰との会話もなければ、自分の中の変化が見えませんので、その両方が必要です。

B:ありがとうございます。

倉重:ではCさん。

C:ありがとうございます。小屋松と申します。モリチさんにすごく聞きたかったのですけれども、「モリチさんのようにパフォーマンスを上げたい」という人は絶対にたくさんいると思うのです。そういう人に対してどういうアドバイスをされますか。ご自身の経験を踏まえて、人間としてのパフォーマンスを上げるのに有効なアドバイスを2~3点ほど教えていただきたいと思います。

森本:大事にしているのは、本質的なことですが、やはり目的です。例えば、私は毎朝すごく早起きしています。「私もやってみよう」と思って挑戦してくださる方もいらっしゃるのですが、早起きをすることが目的になってしまうと長続きしません。何のために早起きするか。例えば、私は朝時間をヨガをしてより健康な体になったり、自分自身のメンタリティーのバランスを保つことで、子供たちへの接し方をケアすることが目的です。早起きすることはあくまでも手段です。早起きをした分の時間を何のために使うか。その時間によって自分がどういうふうに変わるのかまで、きちんと考えられているかどうかです。

パフォーマンスを上げること、例えば一番になることやMVPを取ることを目的化しがちですが、それは目的ではなく手段だと思っています。それを取ったら、みんなから信頼されるようになったり、面白そうな仕事が回ってきたりという目的をきちんと考えられているか、よく問い掛けています。

あと、私はよく山登りに例えるのですが、「どの山の頂上の景色を見たいか」というレベル設定も大切です。パフォーマンスを上げるにしても、高尾山レベルでいいのか、富士山でいいのか、エベレストだとしたら、「あした行ってみよう」と思って行けるような山ではありません。相当ハードにトレーニングをしていかなければならないので、自分が目指すパフォーマンスの頂上はどこにあるのかによって、努力のレベルが変わってきます。その覚悟です。

倉重:高い山を目指すということですか。

森本:「どの山の頂上から景色を見たいか」ということです。山を登っている最中にも、「この道で合っているのかな」と迷ったり、葛藤したりします。そういうときに、自分自身に問い掛けたり、反すうしたりしているだけでは堂々巡りになってしまうので、壁打ちできるメンターを持つことをおすすめしています。私もそういうときにサジェストしてくださるメンターがいるおかげで、進んでいく道により確信が持てたり、方向修正したりできています。自分に正しいことも悪いことも示してくださるメンターを置いておくことが大事かなと思います。

C:ありがとうございます。

倉重:Cさんはどれをしてみようと思いますか?

C:2番目です。どのレベルまで上げるか、いったん考えてみようと思います。

森本:全部やってみてください。

小屋松:はい。

倉重:お時間をだいぶ超過してしまいましたけれども、質問まで丁寧に答えていただいて、ありがとうございました。

(おわり)

対談協力:森本千賀子(もりもと ちかこ)

1970年生まれ。獨協大学外国語学部英語学科卒。

1993年リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。転職エージェントとして、大手からベンチャーまで幅広い企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援サポート全般を手がけ、主に経営幹部・管理職クラスを求めるさまざまな企業ニーズに応じて人材コーディネートに携わる。約3万名超の転職希望者と接点を持ち、約2000名超の転職に携わる。

約1000名を超える経営者のよき相談役として公私を通じてリレーションを深める。累計売上実績は歴代トップ。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、全社MVP/グッドプラクティス賞/新規事業提案優秀賞など受賞歴は30回超。

プライベートでは家族との時間を大事にする「妻」「母」の顔 も持ち、「ビジネスパーソン」としての充実も含め“トライアングルハッピー=パラレルキャリア”を大事にする。

2017年3月には株式会社morich設立、代表取締役として就任。

転職・中途採用支援ではカバーしきれない企業の課題解決に向けたソリューションを提案し、エグゼクティブ層の採用支援、外部パートナー企業とのアライアンス推進などのミッションを遂行し、活動領域も広げている。

また、ソーシャルインベストメントパートナーズ(SIP)理事、放課後NPOアフタースクール理事、その他社外取締役や顧問など「複業=パラレルキャリア」を意識した多様な働き方を自ら体現。

3rd Placeとして外部ミッションにも積極的に推進するなど、多方面に活躍の場を広げている。

本業(転職エージェント)を軸にオールラウンダーエージェントとしてTV、雑誌、新聞など各メディアを賑わしその傍ら全国の経営者や人事、自治体、教育機関など講演・セミナーで日々登壇している現代のスーパーウーマン。現在、2男の母。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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