経営者・働く人がコロナ時代を生き抜くために意識すべき3つのこと【吉村慎吾×倉重公太朗】第3回

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約30年前、吉村慎吾さんは外資系の公認会計士事務所に入りました。そこでは「なんでも自己責任で、人に頼らず自分で勉強する。どんな困難も工夫で乗り越えてなんとかする」ということを求められたそうです。キャリアの自己責任原則が徹底している外資系で鍛えられたことで、吉村さんは自責指向、貢献指向、個人事業主マインドを持ったビジネスパーソンに育ち、その後大活躍しました。コロナショックにより働く環境が激変している今こそ、自分のキャリアに責任を持ち、道を切り開いていかなければなりません。

<ポイント>

・人材育成は、「手助けしすぎないこと」が重要

・人が一番成長するのは環境を変えた時

・コロナ禍の今、求められる人事

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■本当に愛があれば簡単には手伝わない

倉重:「新入社員研修をテレワーク行うのが難しい」と悩んでいる企業が多いですけれども、その点はいかがですか。

吉村:全くそれは思わないですね。物理的に会えないだけでやることは一緒です。1対1で育てるのであれば、山本五十六の言っていた「やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ」です。基本的に愛ある厳しさがあれば、人はついて来ますから。

倉重:今、ワークハピネスでも新入社員研修はされていますか。

吉村:しています。オンラインでも内容は一緒で、さらに厳しくなっています。まず自力で競争させるのです。同じテーマを与えられても、環境に文句を言わずに成し遂げてきた子と成し遂げられなかった子がいます。それは主体的な行動の差だということを理解させるのです。「環境が悪いからできなかった」と言っていた子も、だんだんと「環境は自分で整えるものだ」「自分でつかみ取れるのだ」ということに気づきます。

倉重:今は環境が悪いからというのは、まさに他責傾向ですよね。上司としては、そういう部下にしてしまってはいけないですよね。

吉村:それは本当に悲劇です。永続する会社などないので、その会社が倒産したときに放り出されて野垂れ死にしてしまいます。

倉重:また吉村さんのYouTubeの話で恐縮ですが、渡り鳥とおじいさんの話がすごくいいなと思いましたのでぜひご紹介をお願いします。

吉村:IBMの入社オリエンテーションの話ですね。「渡り鳥は毎年湖にきていました。おじいさんが餌をくれました。おじいさんと渡り鳥は冬の期間、いつも素晴らしい時間を過ごしていたのです。翌年も渡り鳥は湖にきましたが、おじいさんは現れず、渡り鳥は全滅しました。おじいさんはその年の秋に亡くなっていたのです。IBMはこのような悲劇を生み出すことはしません。皆さんを厳しく育てあげます」というようなことが書いてありました。いわゆる、「魚はあげません、魚の釣り方を教えます」ということです。実際にIBMの若者は、かつてはメインフレームの立ち上げを1人でやらされたりしてました。

倉重:一見、すごく厳しいことを任されるのですね。

吉村:非常に厳しいです。1人で大変な思いをして、納期の前は3日3晩寝ないでやろうとするけれども、メインフレームが立ち上がりません。「クライアントに迷惑をかけてしまう、どうしよう」と、絶望の淵でパニックに陥っている若者の前にいきなり先輩が現れて、設定済みのメインフレームをすっと渡して、「これを使え」と言うのです。そうすると若者は、泣き崩れます。そこで先輩が一言、「何を学んだ?」と聞くのです。

倉重:なるほど。そこまできちんと見ているわけですから、根気が要りますよね。

吉村:本当に愛があれば簡単に手伝いませんよね。

倉重:全部、手取り足取りやってあげることが愛ではないということですね。

吉村:僕がクーパース&ライブランド(現PwC)に入った時もそうでした。英語もできないのにいきなり外資の証券会社に連れていかれて、最初に出された先輩からの指示が、「吉村さんはPaulに、Equity Cycleを聞いて、Flow Chartにして」だったんですよ。もう、Paulが外人の名前だろうなということしか分かりません。Equity Cycleを辞書で引いていたら先輩がきて、「ここはあなたの学校じゃないから辞書はしまってくれるかな。外資系に来るのが分かっていたら、家で勉強してきて」と、怒られたのです。夕方になっても仕事が終わらないから、「僕だけ残らせてください」と頼んだら、「君のマネジメント力不足でみんなが迷惑している。明日以降、取り返して」と言われました。

倉重:顔面蒼白(そうはく)になりますね。

吉村:もう絶体絶命のピンチです。先輩に質問すると、「それを教えるのは簡単だけど、君のためにならないから教えない」と、すごく意地悪なことを言われました。

倉重:どうしたのですか。

吉村:結局自力で、徹夜で死ぬほど勉強して乗り越えました。

倉重:今の管理職の方は、「あまり厳しくしたらパワハラだと言われるのではないか」とか、「面倒くさいから途中で手伝ってさっさと終わらせよう」という考え方もあります。このようにしたら人が育たないということですか。

吉村:そうです。僕の体験は30年ぐらい前の話ですが、おかげさまで個人事業主マインドが育って何があっても絶対に環境のせいにも政府のせいにもしません。政府からの補助も大嫌いです。一方で同期の大学時代の友達はみんなリストラの対象になっています。だからどちらが優しかったのかと思います。

倉重:大きなスパンで見たら、何が大事か、変わってきますからね。

吉村:「小善は大悪に似たり 大善は非情に似たり」という言葉がありますが、小善は実は大悪人なのです。僕を育ててくれた先輩たちは、非情に見える、鬼のような人たちだけれども、大善なんですよね。

倉重:鬼のようだけれども、「これはあなたの役に立つことだから」という愛が大事だと思います。それをどう示したらいいのでしょうか。

吉村:愛は大事です。ただ、PwCの先輩たちには愛があったと思いますがそれ以上に「これを乗り越えられないようなら、この会社では無理だから、すぐに他のところに行ったほうがいい」というカルチャーが強かったように思います。「そんな甘い会社ではないから」ということを教えてくれました。その中でも、すごく愛のあるパートナーもいたのです。

倉重:どういうときに愛を感じましたか。

吉村:結局愛というのは、使ってくれた時間だと思います。僕がすごくお世話になったパートナーは、僕がJASDAQの上場審査官に手を挙げたときに、彼のもとに呼ばれて怒られたんです。PwCではバカにするときに「先生」と呼ぶのですが、「先生さ、証券取引法、知っているの?」と聞かれました。今の金融商品取引法ですが、わかりません。「IPOって何の略か、知っている?」と質問されても答えられませんでした。「上場も証券取引法も知らない人が、JASDAQの上場審査官に行ったら大迷惑だよ」と怒られました。「すみません」と謝ったら、「一緒に勉強しよう」と言って、出向までの2カ月間、土曜日の朝から晩まで8週間、勉強に付き合ってくれたのです。有価証券取引法を解説する800ページの本と、株式上場マニュアル800ページの本をプレゼントされて、「毎週200ページずつ僕に講義をして」と言われました。仕事をしながら金曜日に徹夜でレジュメを作成して、「そもそも証券取引法とは」と、そのパートナーに講義をするわけです。

倉重:講義をするのが一番勉強になりますよね。

吉村:そうしたら何が起きたかというと、「とんでもない新人がやってきた」と出向先でヒーローになりました。新人なのに「この法律を変えてもらってこい」と言われて、いきなり大蔵省の証券局に乗り込んだのです。キャリア官僚をつかまえて、「そもそも証券取引法とは何のためにあるのでしょう?」と議論をふっかけました。「それは投資家保護だよ」と言わせておいて、「ですよね。その投資家保護という精神にのっとったら、この通達はいかがですか?」と突っ込むのです。「10年前には投資家保護になっていたけれども、今は逆に投資家を保護しないルールですよね」と言ったら、「確かに……」ということで法律が変わりました。

倉重:そのパートナーの方は、よくそこまで勉強に付き合ってくれましたね。

吉村:その方は吉田松陰を大変尊敬していて「若者の心に火を着けたい」が口癖で見返りを求めないのです。彼に着火してもらい、今日の私があります。大恩人です。エスプールの社外役員にもなっていただきました。

倉重:それだけ恩のある方ですから。

■変わり続けるチャンスは積極的につかむ

倉重:今ちょうど観覧の中に若い20代の働いている若者がいます。そういう方々に向けて、若いときはどうしていけばいいかアドバイスをいただけますか。

吉村:とにかく変わり続けるために、異なる経験ができるチャンスを積極的につかみ取っていくことです。人間、何が一番成長するかというと環境が変わることなのです。今若者が海外に留学したら、突然成長できます。

倉重:全ての環境が変わりますからね。

吉村:出会う人、見聞きすることが全部変わります。ですから、毎日何を見聞きするか、どういう人と付き合うかで、価値観や認知力が広がり、それまで気にならなかった社会問題や課題が見えてくるのです。私が公認会計士になったとき、同期には100人ぐらいいました。みんなは公認会計士として出世していくレールに乗ろうとしていましたが、私だけは、直感で「絶対この群れから飛び出すべきだ」と思いました。「みんなとは違う体験をしてやる」と思って、あらゆる出向のチャンスに、「はい」と手を挙げました。マレーシアでも何でもいいと、よく分からないものでも手を挙げていたら、上場の審査官になったわけです。

倉重:最初から上場審査官になろうとは思っていなかったのですね。

吉村:全く思っていません。スティーブ・ジョブズの言ったConnecting The Dotsではないですが、あらかじめドットを計画することはできません。直感に従って飛び出していけば、振り返ったときに点が線でつながって、「これが俺のやるべきことなんだ」と気づくのです。

倉重:「今していることはドットになるでしょうか?」という質問には意味がないということですね。

吉村:そうです。信じてドットを増やしに行くことです。環境を変えるのが一番成長につながるので、定期的に環境を変えるように努力します。そしてある時、振り返ったらドットが線でつながって、人生の意味が見えてきます。

倉重:いいですね。人生の意味や、何のために働くかという話はすごく大事です。個人的には、働き方改革法により労働時間の上限や有給休暇の取得義務を設けたことの一面だけが強調されているのが非常に良くないと思っています。それは、働くのはつまらないこと、悪いことというような価値観を広めているように感じられるからです。日本社会としてこのままではまずいのではないかと思っています。なので、この対談は「働くのは楽しい」ということを伝えたいと思って始めたのですが、その辺はいかがですか。

吉村:おっしゃるとおりだと思いますが、やはり働き過ぎの人がいることも事実です。理不尽に働かされていると、やはりバーンアウトします。逆に言うと、使命感を帯びていたらアウシュビッツの強制収容所でも生きながらえるわけです。だから、意義を感じていることに熱中するというのが大事です。訳も分からず働いていると、燃え尽きていきます。

■人事はどうあるべきか

倉重:動画でもおっしゃっていましたが、人事のあり方も変わっています。経営に関しては、まずフォローミーでやるという話がありましたが、人事はどうあるべきでしょうか。

吉村:僕が一番まずいと思ったのは、コロナで外出規制がかかっている時に調査を行って、人事に「来期の採用をどうしますか」と聞いたら、ほとんどの会社が「例年どおり」と答えたことです。「どれだけズレているんだ?」と思いました。たぶんその会社の経営者が見たら、「どうなっているんだ、うちの人事は」とずっこけると思います。それが「経営感覚がない」ということです。人事なのに指示待ち族になっています。「だって上から人数を減らせという指示が来ていないもん」という感じです。これだと全くキャリアにならない人事になってしまいます。

ジャック・ウェルチの時代に人事は進化しました。ジャック・ウェルチが示した人事の役割には3つあります。1つ目がHRビジネスパートナー。経営戦略を理解して、それを遂行するのに必要な人材と組織を用意する仕事。2つ目が評価や給料支払いのような人事事務。3つ目がチェンジエージェントです。戦略を転換するときのチェンジマネジメントがしっかりできることが求められます。

倉重:まさに今ではないですか。

吉村:はい。今から求められる人事は、オーガニゼーショナルデベロップメントです。組織開発を理解し、それをうまく転換していくチェンジマネジメントの知識が欠かせません。

倉重:チェンジマネジメントとは、例えばどういうことをするのですか。

吉村:組織が変わっていく条件は3つあります。1つ目が危機感です。今皆さんの部屋の温度がすごく上昇していったら、洋服を脱ぎますよね。寒くなってきたら着ます。快適なときに変化は起きません。人の変化を起こすのは不快感なのです。ですから、危機感や不快感を高めると、分子が揺れ始めます。

倉重:まずは動かすと。

吉村:はい。2つ目に、魅力的なビジョンです。こちらの方向に移行できたら、この痛みがなくなる、この不快感から脱出できるというのが2つ目。そして3つ目が、「私は変われる」という有能感です。

倉重:それは人事の人が持っているということですか。

吉村:それをうまく組織に醸成していくということです。これは動物実験もあります。犬を2チーム用意して両方のチームに電気刺激を与えます。そうするとビリビリするから、犬は走るわけです。ばたばた走ってボタンを押したらドアが開いて逃げられたというチームと、ばたばたしても絶対にドアが開かなかったチームに分けました。開かなかったほうの犬はどうなるかというと、横たわってびくん、びくんとなっていきます。

倉重:諦めてしまうわけですね。

吉村:もう諦めてしまいます。これを学習性無力症といいます。それから2つのチームの犬を一緒にして、逃げられた犬を見せると、ばたばたし始めるのです。

倉重:意味があることに気づけるのですね。

吉村:そうです。だから、一部のエースチームをつくって、新しいビジョンで成功した姿を早く見せることが大切です。

倉重:「彼らが変わったのだから、みんな変われるぞ」ということを見せられる組織を編成するということですね。

吉村:そうです。IBMが、ルイス・ガースナーが来て変革した時、10数万人の大リストラをしました。そのときルイス・ガースナーは、「IBMはインターナショナル・ビジネス・マシーンズというハード屋ではありません。IBMはサービス業、ソリューションビジネスなのです」という宣言をしました。

倉重:完全にアイデンティティーが変わったのですね。

吉村:実際にソリューションビジネスで利益を上げているチームがいたので、そこをテコ入れして、全世界に「こういう稼ぎ方がある」と大宣伝をしていきました。そういう成功チームがあれば、他の人たちも、「サービス業でいいのだ」と思ってどんどん変わっていきます。メインフレームというハードを売る会社から、ソリューションカンパニーになっていったのです。

倉重:なるほど。そこにもチェンジエージェントという力がありそうですね。

吉村:10数万人の大リストラというのはすごく不快感が高まりますよね。魅力的なビジョンを示しても、最初は「そんなことができるのかな」と疑ってしまいます。ところが、ある1チームが小さな成功を体験すると、だんだんみんなの間に有能感が高まってきます。そこで重要になってくるのがやはり教育です。スキルチェンジが必要だから教育をしなければいけません。今、手売りの証券会社は、戦略転換が必須命題です。株屋からコンサルタントに変わらなければいけません。

倉重:確かに。お客さまの財産状況をヒアリングして、コンサルティングしないといけないですね。

吉村:株を買うだけだったらネット証券でいいわけですから。「資産コンサルタント、ファイナンシャルプランナーになるのであれば採用と教育を根本的に変えましょう」と私は言っています。証券会社の人たちは、株を買ってもらうというスタンスなので顧客にぺこぺこ頭を下げがちでコンサルタント的な態度が取れません。

倉重:求められるスキルが全然違いますね。

吉村:トレーニングによってコンサルタントとしてのふるまいを身につけなければ変われないのですが、そこに投資をしていません。「ビジョンは資産コンサルタントになることです」「お客さまの信頼を培って、預かり資産で評価します」と言っていますが、いつまでたっても全くそれが進まないのです。本気で採用やトレーニングを変えていないからです。何より、成功したロールモデルのチームをつくることができていません。

(つづく)

対談協力:吉村 慎吾(よしむら しんご)

株式会社ワークハピネス 代表取締役会長

https://www.telework.workhappiness.co.jp/?fbclid=IwAR2FCIMYrPGQMzvOpN7rRj6ZbxcIaauIfWDvvVdEvBKwyWk8yZL3tboaOj8

プライスウォーターハウスクーパースにて世界初の日米同時株式上場を手がける。

株式会社エスプール(東証1部上場)を創業

その後、老舗ホテルのV字再生、水耕栽培農園を活用した障がい者雇用支援サービスなど、数々の常識を覆すイノベーションを成功させる。

現在経営するワークハピネスは、3年前からフルフレックス、リモートワークをはじめとした数々の新しい働き方や制度を実証。

2020年4月には自社のオフィスを捨て、全ての管理職を撤廃。

フルリモート、フルフレックスに加え、フルフラット、No オフィスな組織で新しい経営のあり方や働き方を自社でも模索し、実践を繰り返している。

自社の成功や失敗の体験を生かし、大企業の働き方改革や事業変革で多くの実績を持つ。

イノベーションに関する著書多数。多くの企業で次世代幹部育成の課題図書となっている。