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テレワークのプロに聞く、生産性を上げる7つのルール【越川慎司×倉重公太朗】第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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テレワークには、働き手の作業効率をあげて、企業の生産性を向上させるという狙いがあります。しかし、緊急事態宣言により、急遽リモートワークを導入せざるを得なかった企業も多かったと思います。見切り発車でテレワークの導入に踏みきったことによる準備不足が、さまざまな問題を生んでいるケースもあったようです。テレワークの効果を最大限に引き出し、有効活用するためのノウハウを越川慎司さんに教えてもらいました。

<ポイント>

・「テレワーク寂しい問題」をどう解決する?

・締め切り効果を利用して生産性を上げる

・オンライン会議で印象を良くするには?

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■「孤立」を感じるとテレワークの生産性が落ちる

倉重:先ほどの7つのルールの中に、「業務の見せる化を浸透」というのがありますね。これは業務プロセスを分かるようにするという話でしょうか。

越川:はい。自分から見せていくというパターンですね。

倉重:「情報の透明性」というのは、情報開示をできる限りしましょうということですか。

越川:そうです。メールよりもチャットがいいです。

倉重:意思決定過程なども含めて見せるということですね。「感情共有」というのは?

越川:テレワークの時に生産性が落ちる理由は、「孤立化」なのです。

倉重:「テレワーク寂しい問題」ですか。

越川:そうです。「テレワーク疲れ」の原因は3つです。まず、目です。視覚が一番疲れます。次は腰です。ずっと座っていますからね。こういった肉体的な疲労を解決するために、適度な運動を入れます。そして3つ目は精神的な疲労で、孤立化の問題です。テクノロジーが進んでいるので1人で仕事ができる反面、あっという間に夜遅くなってしまったり、優秀な人に仕事が集中してしまったりします。その人の長時間労働がどんどん重くなって、うつ病になってしまう方も結構多くいるのです。

倉重:1人で苦しんでしまって誰も気付かないということですか。

越川:そうです。あとは「自分が世の中の役に立っていない」など、卑屈な気持ちも孤立化から生まれると思います。

倉重:その辺は周囲が気づいてあげることも大切ですね。そういうことを言えるような関係性という意味では、心理的安全性と関連しています。

越川:そうです。ですから、朝一番に「テレワークを始めます」とチャットなどでみんなに伝えます。終わった後に「予定どおりこの資料ができました」「明日オンライン提案します」という報告を1、2行入れるのですが、その時に「感情共有を入れてください」と言っています。

倉重:具体的にはどういうことですか。

越川:感情共有というのは、「今日楽しかった」「寂しかった」ということです。テレワークで寂しくなるのは当然のことで、悪い事ではありません。「みんなに会いたいな」「寂しいな」「みんなと楽しく飲みに行きたいな」ということを一言入れると、「俺もそうだよ」「いいね、確かに」という感情共有が広がっていきます。

倉重:それを言ってもいいと上司がマネジメントするということですね。

越川:そうです。愚痴ではなくて、感情共有というのはすごく重要な事なので、僕はメールではなくチャットのほうがいいと思っています。

倉重:チャットはすぐに流れますから、言いやすいですものね。

越川:「いいね」という絵文字やスタンプも感情共有になります。あれをテレワークでもメンバー同士でやりましょうと話しています。

倉重:ファン要素というのは、どうやって入れるのですか。

越川:ファン要素は、やはり目が疲れるので、目の疲れを取るというのがポイントです。視覚でリラックスさせる、楽しませることを考えています。私たちは圧倒的に目を使っていて、1~2秒間に4,000億ビットぐらいの情報が目に飛び込んでくるのです。ですから、目を疲れさせないために、飼っているペットを友情出演させたり、いろいろなアバターを出したりすることが流行っています。ずっとアバターだと議論に集中できませんが、最初の2~3分くらいをアバターにするのです。

倉重:うちの事務所でも定例テレビ会議をしています。パートナー弁護士がよく新日本プロレスのスーパーストロング・マシーンという選手のマスクをかぶっているのですが、それはそれでアリということですね。

越川:はい。目を楽しませるということは、すごく重要です。ペットやお子さんをはじめの2分くらい出演させてしまうのは悪い事ではありません。そういうところで和んだりします。

倉重:「子どもを映してはいけない」「声を入れてはいけない」と思ってしまうと疲れてしまいますものね。

越川:お子さんがいる時のテレワークと、いない時のテレワークはまったく環境が違います。きちんとチームとしても理解するという意味でも、最初の2分ぐらいはそういった時間が必要です。少し口角が上がる、笑顔が広がるチームメンバーの空気をつくったほうがいいのかなと思います。

倉重:そこで「見せても大丈夫だな」と思ってもらえれば、仕事もしやすいですね。

■みんなでオンラインフィットネスをする

越川:他にもファン要素として皆さんにおすすめしているのは、オンラインフィットネスです。これは会員制の有料サービスを使う必要もなくて、YouTubeでラジオ体操やフィットネス、ヨガなどの動画を共有しながら、みんなで体を動かします。

倉重:1人ではなくて、みんなでするということですね。

越川:はい。例えば「金曜日の午後3時からはオンラインフィットネスです。15分間、体を動かしましょう」といって予定を入れてしまいます。ストレッチでもダンスでも何でもいいです。少し体を動かして、みんなで和むというのは、ファン要素としてはすごくおすすめです。

倉重:あえてルーティンで、「毎週、何曜日の何時はこれだ」という予定を入れてしまうということですね。

越川:そうです。もともと予定を入れておけば、休憩時間でありリラックスタイムになっていきますので。

倉重:私もYouTubeを見ながら「超ラジオ体操」などをしています。

越川:うちもラジオ体操を試しに第2までしてみたら、意外とハードでした。そういう共通の体験があると、またチームの絆が強まると思います。

倉重:みんなでやるという発想がありませんでした。

越川:意外と面白いですよ。実は株式会社キャスターというオンラインアシスタントサービスの会社の事業責任者もしているのです。そこでは700人以上がテレワークで、オンラインフィットネスを習慣化しているのです。

倉重:コロナ太りもあるし、メンタルにも影響しますから運動は大切です。あと、視界に緑が入るといいそうですね。

越川:そうです。目が疲れるので緑がすごく安らぎを与えます。オンライン会議にかぶりついてしまうと目が疲れてしまうので、たまに遠くを見たり、少し歩いたりすることは必要だと思います。

■テレワークでオン・オフを上手に切り替えるには?

倉重:「テレワークでは仕事のオン・オフの切り替えが難しい」とおっしゃる方もいますが、越川さんはどうされていますか。

越川:一番大切なのは、だらだら仕事するのを避けることです。特に日本人は「締め切り」という心理的効果がすごく効く傾向があります。締め切り効果というのは、いわば夏休みの最終日に一番宿題がはかどるという傾向です。曜日で言うと、週末に向けて仕事を終えなくてはいけないから、金曜日は一番効率が高くなります。そういった意味では締め切りを決めるのはポイントですね。僕の場合は必ずキッチンタイマーをデスクに置いています。

「ポモドーロ・テクニック」という時間管理術があって、25分1セットが標準ですが、僕は45分1セットにしています。執筆やチャットも45分を1セットにしているのです。

倉重:45分仕事して休憩を挟むような感じですか。

越川:45分の会議はクライアント企業にも勧めています。打合せが少し延びてしまっても、5分~10分程度ですし、トイレに行ったりコーヒーを飲んだりできるので、精神的な余裕もあります。僕は今年10冊のビジネス書を出版するのですが45分に1回は休憩をとり、15分休んで45分執筆しているのです。結果的には3時間ぶっ通しでやるよりも、1.6~1.7倍ぐらいの文字数が書けています。

倉重:そこはアプリなどよりも、今お示しいただいたようなタイマーのほうがいいですか。

越川:iPhoneのタイマーなどを使っても構わないのですが、見た目で「あと3分の1」とわかったほうがよいので、キッチンタイマーで残りの分数が見えるようにしています。

倉重:どこのキッチンタイマーをお使いですか。

越川: GROWFASTのものをAmazonで購入しました。このように15分たつと音が鳴ります。100円ショップのキッチンタイマーもおすすめです。冷蔵庫に貼っている方が多いと思いますが、あれをデスクの横に置いて、45分1セットにすると効率がすごく高まるのです。

倉重:だらだらしているうちに集中力が落ちて、寝落ちということも防げそうですね。

越川:やはり締め切りを決めるという意味では「18時には必ず仕事を切り上げる」「45分でこの作業を終える」といった定量的な目標があったほうが山を登りやすいのではないかと思います。

■オンライン会議で気をつけたほうがいいデバイスは?

倉重:ちなみにテレワークのコツという意味ではいかがですか。うまくいくコツをぜひ、お願いします。

越川:オンライン会議は今後も続くと思うので、一番気をつけてもらいたいのはデバイスですね。皆さんカメラに凝る方が多くて、僕も一眼レフカメラで撮っています。

倉重:一眼ですか。

越川:そうです。一眼をスイッチャーでつないで、背景をオートフォーカスでぼかしています。ご自宅に一眼レフカメラがある方は、ウェブカメラにHDMIで変換して出すのも一つの方法としては面白いと思います。ただ、カメラよりも圧倒的に皆さんに投資をしてほしいのはマイクです。

倉重:マイク?

越川:はい。パソコン内蔵のマイクを使っている方が結構多いので、そこは少し避けていただきたいですね。

倉重:いいマイクだと、まったく違いますよね。

越川:iPhoneの場合は、実は2万円のマイクよりも、純正の白い有線マイクの音質のほうがきれいです。芸能人の方々がリモート出演する時にiPhoneのマイクが使われているのは一番相性がいいからです。パソコンの場合は内蔵のマイクは避けたほうがいいですね。雑音が入りますので、外付けを使ったほうがいいでしょう。ヘッドセットもすごくいいのですが、一日中付けていると疲れてしまうので、声が出せる状態であればマイクを外付けにしたほうがいいかなと思います。

僕もコンデンサ付きのマイクを使っています。おすすめは、マランツのUSB接続タイプのマイクUmpireが最強です。6,000円ぐらいで買えます。

倉重:マランツは非常に音がいいですよね。

越川:いいマイクは何が違うかというと、まずコンデンサという機能がついていますので声がきれいに聞こえます。このマイクは単指向性といって、向いている方向の音しか拾いません。

倉重:雑音を拾わないということですね。

越川:そうです。今僕は一生懸命、強い音でキーボートをたたいているのですが、おそらく聞こえないですよね。

倉重:まったく聞こえないです。

越川:単指向性なので、僕の口の方向の音しか拾いません。コンデンサ付きの単指向性のマイクを最大で1万円ぐらいで用意していただくと、すごくクリアに聞こえます。設置する場所もすごく重要です。パソコンのキーボードと口の間にマイクを置くと、キーボードの音が聞こえません。おそらく今、宅配業者が来ても、ピンポンの音を拾わないと思います。ウェブカメラよりもマイクに力を入れたほうが、結果的には相手に伝わるのではないかと思います。

倉重:音を出すものは何か特別なものがありますか。

越川:ご家族がいるならば、やはりヘッドホンやイヤホンを付けたほうがいいのですが、音を出していいのであれば、耳をあけていたほうが疲れません。今はパソコンの外付けの2,000円ぐらいのスピーカーを使っています。自分が聞こえればいいだけなのでスピーカーはそれほどこだわらなくても大丈夫かと思います。

もしカメラにこだわるのであれば、ウェブカメラのいいものを買うのではなくて、設置場所を気にしたほうがいいですね。とくにノートパソコンは、内蔵のカメラを使うと、目線が下になってしまいます。ノートパソコン用のスタンドを使っていただいて、自分の目線よりも上にカメラを設置するとすごく印象がいいです。

倉重:印象がまったく違いますよね。

越川:この部屋も、照明を使っているだけで特別なものは一切使っていないのですが。

倉重:とても明るいですが、ライティングしているわけではないのですね。

さすがに一眼だと明るいです。

越川:部屋の照明などに力を入れる方もいらっしゃいます。それはそれでいいと思うのですが、素敵な女性でも下を向いて話してしまうと、暗い印象になって、目もとのクマも目立ってしまいますから、カメラに向けて話したほうがいいです。また声は相手にすごく伝わりますので、音質が高いものを選ばれるのがいいのかなと思います。

倉重:さすがですね。マイクはいい感じでしたし、一眼まで使われているとはびっくりしました。本当にテレカン・リテラシーを皆さんに上げていっていただけると、効率もよくなりますよね。

越川:3カ月間、嫌々オンライン会議をした方も多いと思うので、ぜひその学びを生かして、次はどうしたら効率的に回るのかを考えていただきたいです。

(つづく)

対談協力:越川慎司(こしかわ しんじ)

株式会社クロスリバー 社長

株式会社キャスター事業責任者

通信会社、ITベンチャーの起業を経て、2005年にマイクロソフトに入社。業務執行役員としてPowerPointやTeamsなどの事業責任者等を歴任。2017年に株式会社クロスリバーを設立、メンバー全員が週休3日・リモートワーク・複業で、600社以上の働き方改革を支援。これまで10冊出版、最新刊は『働く時間は短くして、最高の成果を出し続ける方法』

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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