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アフターコロナ時代にフリーランスの働き方はどう変わる?【平田麻莉×倉重公太朗】第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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フリーランスは、企業に雇われている人よりセーフティーネットが弱いとされています。国民健康保険は、病気で働けない時の傷病手当金は原則支給されません。労働者には認められる休業手当や、労災保険の休業補償 、失業給付もないのです。そんな中、コロナの感染拡大が起こり、仕事の契約が打ち切られるケースが多発。フリーランス協会は給付型支援を提言し、政府は収入が前年同月比で50%以上減った個人事業主に最大100万円を支給する支援策を打ち出しました。この持続化給付金ができるまでの経緯や、問題点とは?

<ポイント>

・フリーランスは「対等な立場」として保護すべき

・持続化給付金の支援から漏れてしまっている人は?

・協会は「労働組合」とどう違うのか

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■プラットフォーム時代の就労者をどう保護するか

倉重:私の所属する第一東京弁護士会でも、「プラットフォーム時代の就労者をどう保護するか」という提言を出しました。その際に参考にしたのは、早稲田の鎌田先生の論文です。業務委託型就業者の就業実態を、「専門特殊型」「自営型」「業務委託型」「フランチャイズ型」「テレワーク型」「デジタルプラットフォーム型」の6類型に整理をしているのですが、平田さんの認識と比べていかがですか。

平田:フリーランス協会では「広義のフリーランス」を定義していますが、そこにフランチャイズの方は入りません。

「広義のフリーランス」の定義は、「特定の組織や団体に専従しない独立した形態で、自分自身のスキルや知見を提供して対価を得る方」となっています。

要は、売り物は自分自身なのです。

フランチャイズの方は、プロダクトやサービスなどが売りものになっています。

それはパパ・ママ商店、個人商店の方も同じです。農業の方は野菜が売り物ですし、保険のセールスレディーも保険というサービスを売っています。

フリーランスは自分の名前で、スキルや知見、専門性などを売っている点が少し違います。

倉重:今のお話に出ているフリーランスの中には、Uber Eatsなどの就労者は入ってこないのでしょうか。

平田:Uber Eatsの場合はグレーです。プラットフォームサイドの理論としては当然、自営業者、フリーランスだと思うのです。そこはもう「ビジネスモデル上、織り込み済みだ」というのがプラットフォームサイドの言い分なのですが、どういう訳かワーカー側はそう思っていない場合が多いです。

倉重:労働組合を組織していますからね。

平田:そこのミスコミュニケーションがどうして生じているのかは、私自身もすごく関心があります。

他にも家事代行やベビーシッター、民泊などのシェアサービスがあります。そこを利用する人たちは自営業者という自覚がある程度あって、「プラットフォーマーはプラットフォームを提供しているだけ」というコンセンサスがあるように見えるのです。

なぜUber Eatsだけが違うのだろうというのは、いつも疑問ですが、仮説が1個あり得るとすれば、値決めをされていることだと思います。

倉重:ベビーシッターなどは値決めや、交渉ができるのですか。

平田:ベビーシッターやクラウドソーシングでは自分で価格を決めています。先ほどの定義で言うと、独立した自営業者と準従属労働者の違いは、自律しているか従属的かというところです。

法律の専門の倉重さんのほうがお詳しいと思いますけれども、従属性というのは、人的な従属性と経済的な従属性があって、指揮命令がなければ自律しているかというと、必ずしもそうではありません。

フリーランス当事者の感覚として、「値決めができない」と自分で裁量権を持っているとは言いづらいのは理解できます。

取引先や働く場所、仕事内容、時間、取引価格も全部決められるというのが自律した自営業者の在り方だと思います。

テレビ制作業界や出版業界のように、業務委託契約だけれども、毎日オフィスに出社して、社員のような扱いで拘束されることになると、「自律した自営業者」とは言えないと思います。

倉重:新国立劇場で毎日歌わなくてはいけないオペラ歌手も、労組法上は労働者扱いですからね。自律した人であっても、1人で値決め交渉をしたり、福利厚生や全ての経営責任を負ったりするよりは、フリーランス協会のような団体があったほうがいいと思います。組合とは違うのですよね?

平田:「組合」とは違うかなと思っています。組合は労働者の権利や労働法のコンセプトの中で「守られるべき」という立場があるように思います。

労働法自体の前提として、使用者である企業と労働者が対等ではなく、労働者が弱者だから保護が必要という趣旨の法律です。

フリーランス協会としては、「誰もが自律的な働き方を築ける世の中へ」というビジョンを掲げています。自律が大前提なので、弱者としての保護が必要だとは思っていないのです。

もちろん公正・透明な取引上あるまじき行為は許されないので、競争法や契約法などの整備は必要ですが。

倉重:あくまでも「対等な当事者として」ということですか。

平田:おっしゃるとおりです。発注主と対等なパートナーシップを築くことがとても大事だと思っているので、そこのスタンスは労働組合とは少し違うかもしれません。

■フリーランス緊急対策のエアポケット

倉重:コロナの影響が長期化していく中で、フリーランス保護の緊急対策もありました。もし現状の問題点があれば教えていただきたいです。

平田:われわれが出した緊急要請については、政府高官の方や、安倍首相や各大臣の前でもお話をさせていただきました。本当に真摯(しんし)に耳を傾けていただいて、政権全体でなりふり構わず救っていくという強い意志を感じました。

それだけの対策も出していただいていますが、やはりどうしても漏れてしまっている方がいます。

まさに昨日(※5月22日)も、経産大臣の会見で、「雑所得と給与所得者で持続化給付金の対象にならない方の支援策を別途打ち出す」ということが言われました。

そういう問題は、フリーランスの定義や、事業者と労働者の線引きが曖昧であることから生じたものです。

例えば、協会にも「持続化給付金をなぜもらえないのか」という問い合わせがくるのですが、よく話をうかがうと、非常勤や日雇い労働者の方だったりします。

正論で言えば、その方々は非正規雇用者なので、訴える先は雇い主であって、「そこで休業手当をもらってください」というのが原理原則です。

ただ、本人たちは労働者なのか事業者なのかご自身の認識が曖昧だったりして、企業側もあえてそこを明確にするコミュニケーションをしていないケースがあります。

倉重:日雇い労働者だけれども、自分がフリーランスだという意識が高い方もいらっしゃると。どういう業種の方が多いですか。

平田:フィットネスジムのインストラクターや専門学校の非常勤講師、いくつかの病院を非常勤で掛け持ちしているお医者などです。そういう方たちはいわゆる非正規雇用です。

契約上は雇用になりますけれども、企業側はその人たちの休業補償をするだけの責任を持っていません。非正規雇用者向けの現金給付がないのです。

であれば、「持続化給付金が欲しい」という発想になるわけです。

倉重:完全にエアポケットになってしまっているのですね。

平田:そうです。そこがきちんと整理されていないこと自体が問題だと思います。次のリスク、次のコロナというものに備えて実態をしっかり捕捉していくこと。労働者と事業者の定義を整理していくことがすごく重要だと、これまで以上に感じました。

倉重:そもそもフリーランスとは何だという定義が大事ですね。

平田:そうです。持続化給付金も、最初は「個人事業主全員に一律給付すればいいのではないか」と言っている方がけっこういたのです。でも、個人事業主は適当な紙切れを1枚出せば、誰でも簡単になれます。実質何も稼働していない人がごまんといますし、それを一律給付にしたら、完全なフリーライドが横行してしまいます。

労働者と事業者の整理をしっかりとして、それぞれできちんと実態を捕捉していけば、今後、緊急時にセーフティーネットを構築する際も、より制度設計がしやすいかと思います。

倉重:今回、まさに持続化給付金でも雇用調整助成金でも救われない人たちの存在が、ある種浮き彫りになってきています。

今後のリスクに備えて、そこをきちんと整理していかなければいけないという話ですね。

あとは、持続化給付金の現行制度に関しては、これ以上注文を付けるところはありませんか?

平田:持続化給付金自体は、自分が提言していたから、若干ひいき目もあるかもしれないですけれども、かなり画期的だと思っているのです。なぜかというと、いくつか理由があります。

1つは、そもそもこれほどの予算規模であらゆる事業者に現金給付をするというのは、これまで考えられなかったことです。

東日本大震災やリーマン・ショックのときでもなかった、日本史上初の事業支援の給付を実現したこと自体が画期的です。金額規模としても、事業者向けの救済措置を出しているドイツやイギリスやカナダと比べても大きいです。

イギリスでは、「過去3年間確定申告をしていること」というルールがあるのですが、日本はもともと過去1年だけでも良かったところ、昨日の大臣会見で、今年3月までの新規創業者であれば良いというような、かなり緩い設計になりました。

倉重:今年4月以降に開業した人が対象外なのですね。

平田:持続化給付金狙いで開業した人のフリーライドを防ぐためでしょうね。それでも他の国に比べたら対象が全然広いのです。

基本的にこれまでの日本政府は、補助金にしろ助成金にしろ、かなり入り口で厳しく、細かく審査をして通った一部の人に出すようにしていたので、支給までの時間もすごくかかっていました。

今回はヨーロッパ方式というか、ノールックとまではもちろんいかないですけれども、シンプルな申告で、取りあえずばーっと出して、後追いで不正受給のチェックをするようにしています。

倉重:確かに雇用調整助成金に比べればずいぶん簡単という話ですね。

平田:そういう方法自体が、中小企業庁の人いわく初めてということでしたので、いろいろとチャレンジして、1日も早く、1人でも多くの人を救うことを優先して制度設計をされていると感じました。

倉重:私も最近、知り合いの方が「持続化給付金が振り込まれた」と投稿しているのをFacebookで見て、早いんだなと思いました。雇用調整助成金が振り込まれたというのは、まだあまり聞かないですね。

平田:雇用調整助成金は既存の制度なので、スピード重視で新規に設計した制度よりも時間がかかってしまうのでしょうね。ゼロイチで新しく設計したものがスピーディーに支給できたのは、やはり関係者の相当な尽力があってのことなので、「すごく頑張ってくれた」と感謝しています。

倉重: 例えば雇用保険のほうだと、基本的に雇用保険を払っている人が雇用調整助成金の対象で、週の所定労働時間が20時間未満の方には緊急雇用安定助成金を使えるようにするという、2つの軸でやっています。

「持続化給付金の対象にならない人の救済はどうしよう」という話はきているのですか。

平田:それはけっこうきています。前年同月比の売上減少が50%に満たない方などですね。残念ながら持続化給付金が難しい方には、別の救済措置があります。例えば社会福祉協議会がやっている、休業者や失業者向けの緊急小口資金の特例措置などです。

倉重:事業者向けのものですか?

平田:いいえ、それは事業者に限らず生活困窮者全般向けです。

最大月額20万×4カ月で80万円もらえるという形です。もともと平時からある生活困窮者向けの貸付制度なので、一応貸付けにはなっているのですが、コロナ対応で返済時にも困窮している方は返済免除になるという特例も出ています。

倉重:それは知らなかったです。

平田:この特例は実質的には給付措置なのです。3月10日時点で出ていますけれども、もともとこの特例は東日本大震災やリーマン・ショックのときも使われた実績がある救済措置でした。そのときよりも要件を緩く、フリーランスでさえあれば、特例対象になるようにしてもらったのは今回が初めてです。それもあまり知られていません。

担当者とずっとやりとりしていますが、本当に「救える人は全部救う」という、かなり強い意志を厚労省も持っています。「社協の窓口で断られてしまった」というクレームが協会にきて、それを伝えるとすぐにQ&Aを修正して、即日周知してくれたりもしました。

倉重:協会としてはこういうときに、すごく存在意義がありますね。

やはり1人で言っても、なかなか動きませんから。

平田:生活が困窮してカードローンを使ったり、消費者金融に行ったりするよりは断然いいです。無利子ですので、ぜひ使っていただきたいと思います。

倉重:まさにギルドとしての存在意義がこういうところにあるのだなと、何となく腹落ちしてきました。やはり権利獲得や、労働条件維持向上のような、労働組合法上の目的と全く別の存在意義がありますね。基本的には対等なパートナーだけれども、今回のコロナ危機のような、個人ではどうしようもないことが起こったときに、団結して国を動かしていくということですね。

平田:フリーランス協会は、「全体最適」をすごく重視しています。働き手だけの立場で主義主張を言っても、全体最適として整合性がなければ通るものも通らないと思うからです。

倉重:「自分たちがもらえれば、他の労働者はどうでもいい」ということではありませんよね。

平田:そうです。今回のコロナでも、フリーランスはもちろん、それ以外の業界でも、大変な方がたくさんいる中で、どうバランスをとっていくのかは常に考えました。

フリーランス一人ひとりの小さな声を集めて、客観的なエビデンスやデータを添えて、政府やメディア、社会に届けていくのが協会の役割ではないかと思っています。

倉重:それが今回まさに結実しましたし、これからも必要なことがきっとあると思います。

(つづく)

対談協力:平田麻莉(ひらた まり)

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事

慶應義塾大学総合政策学部在学中の2004年にPR会社ビルコムの創業期に参画。Fortune 500企業からベンチャーまで、国内外50社以上において広報の戦略・企画・実働を担い、戦略的PR手法の体系化に尽力。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。同大学ビジネス・スクール委員長室で広報・国際連携を担いつつ、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程で学生と職員の二足の草鞋を履く。出産を機に退学、専業主婦を体験。

現在はフリーランスでPRプランニングや出版プロデュースを行う。2017年1月にプロボノの社会活動としてプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。 政府検討会の委員・有識者経験多数。

日本ビジネススクール・ケース・コンペティション(JBCC)発起人、初代実行委員長。パワーママプロジェクト「ワーママ・オブ・ザ・イヤー2015」、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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