【産業医×弁護士】「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」をどうする?【上村紀夫×倉重公太朗】最終回

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経営者や人事担当者、マネージャー、チームリーダーの多くが、「人」にまつわる問題に悩まされています。コロナショックが起こったことにより、今までの働き方に関する常識や価値観も変わりました。そんな中で、より良い組織を目指すにはどうすれば良いのでしょうか。また、個人として何を指標に働けば良いのでしょうか。そのヒントを伺いました。

<ポイント>

・メンタルが強い人が経験していること

・会社のマイナスに取り組む勇気を持つ

・自分は何を求めて仕事をするのか

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■安全な環境で、人間関係の理不尽さに触れる

上村:もろ刃のような人材を採用すべきなのか、やめるべきなのかという問題もあります。

ポストにもよると思うのです。

普通の人を採用できるポストに、もろ刃タイプの人を持ってきたら、高リスク低リターンです。

逆になかなか採用しづらいポストに、とがった感じが必要ということもあります。

「失敗してもいい」という覚悟でとがった人を採用するのはありです。

そのあたりの強弱ができている会社は素晴らしいと思います。

倉重:戦略的に分かってしているのかの話ですね。

上村:そこで博打を打つか、打たないかです。

打つこと自体はNGではありませんが、「このポジションに博打は必要なのか」は考えなければいけません。

倉重:そもそも、博打だと分かっていないケースもあるでしょう。

リスキーダイスを振っていることに、まったく気付かない人もいます。

上村:そういう人の一部は、入社後2~3週間で、「メンタルに関して面談をしてください」ということになります。

倉重:入社してすぐにメンタルダウンする人は結構増えてきた印象があるのですけれども。

上村:「この会社は自分には合わない」と思ったときの従業員側の感知のスピードが早くなっている気がします。

昔からミスマッチはありましたが、そこに対する許容がなくなってきていると感じます。

先ほどのバケツで言うと、サイズがどんどん小さくなっているのは間違いないと思っています。

原因は教育団体、特に学校だと思うのです。

倉重:どうしたらいいのですか。

上村:僕は、「理不尽経験」を上手に積ませることが大事だと思っているのです。

倉重:過保護に育ててはいけないと。

上村:過剰防衛にはまっている人は、たいていの場合学歴が良く、成功体験が続いた結果、プライドが高くて失敗を受け入れられなくなっているのです。

ある程度、理不尽なことは社会にたくさんありますよね。

昔から「体育会系はメンタルが強い」と言われる理由の一つは、部活を通して理不尽な経験を積み重ねてきたからです。

倉重:確かに。私は大学で応援団をしていたのです。

そこはもう理不尽の極みで、バンバン怒られていました。

試合に負けて怒られたときには、「ミスしたのは俺ではない」と思っていました。

上村:それはすごいです。

倉重:あと、私は高校に1年間行っていない時期もあるのです。

そういう意味では、理不尽な経験を沢山してきました。

上村:だから、メンタルが強いのです。

それを経験しない方が増えてきています。

社会全体の流れとして、「いじめを含めて、教育の現場から理不尽を排除しよう」という動きが出てきています。それはすごく大切なことだと思います。その一方で、社会は理不尽の固まりではないですか。

倉重:何の理不尽経験もなく社会に出ることはむしろリスクだということですね。

では、自分の子どもにはどう教えたらいいでしょうか。

今ちょうど小学生なのです。

上村:その答えになるかどうかは分からないのですけれども、僕が「メンタルが強いな」と思う方は、学生時代に運動をされていた方や、華道、茶道をしている方です。

あそこも、上下関係が強くて、理不尽の固まりなので。

倉重:なるほど。

お菓子を目の前に出されて「食べるな」と言われるのは、確かに理不尽です。

上村:(笑) そういう意味では、安全な環境で、人間関係の理不尽さに触れておくほうがいいと思うのです。

学校の先生たちが及び腰になってしまっている部分もあるので、難しいと思うのですけれども。

それが社会に出たときに、柔軟性を保ったり、ストレス耐性をキープしたりすることにつながると思います。

倉重:確かにそうですね。

労働法的視点で見ても、学校教育は昔と変わらず、「いい大学に行って、いい会社に入ること」がいいことだとされています。

それを信じて社会の一員になったら、「終身雇用なんてありません」と経団連の人が言っているのを聞いて、「これからどうすればいいのか」と途方にくれるわけです。

働くことについて、若いうちから考える必要があります。

そのためには「親世代が変わらなければいけない」というのは、最近すごく思います。

上村:教育には、学校教育と家庭教育がありますよね。

家庭でも理不尽を排除すると、子どもの世界から理不尽がなくなってしまいます。

倉重:私も娘についつい甘くしてしまって怒られるのですけれども。

ときどき理不尽になったほうがいいのですね。

上村:理不尽なことを経験させるのも、やはり大事かと思います。

倉重:「安全な理不尽」というのは、いいワードですね。 

最後のほうになってきましたけれども、「マイナスを取り除く」という話をお願いいたします。

上村:今人事系でトレンドなのは、エンゲージメントや、「きらきら系話」です。

社内でも言っていますが、きらきら系は、いい会社がさらに良くなるにはいいと思います。

けれども、その割合は5%もないはずです。

多くの会社がマイナスを抱えている中で、きらきら系の話をしてしまうと、多分現実との乖離(かいり)が生まれます。

倉重:「表面だけきらきらして、何をしているのですか」と怒られます。

上村:そこの部分に多くの隔たりがあります。

課題が明確な分、マイナスの排除のほうが取り組みやすいと思います。

それに目をつぶって、盲目的に「あの会社がしているから真似してみよう」というかたちできらきら系を導入すると、皆がしらけるパターンになります。

もっと足元を見て、マイナスのところに取り組む勇気を持ってほしいのです。

倉重:そのマイナスは、当然、企業によって変わってくるし、社員一人ひとりよっても、違ってきます。

だから会社は社員の心に関心を持つということですね。

まさにそのとおりだと思いました。

■これから社会に出る若者へのメッセージ

倉重:最後のほうになってきましたけれども、お伺いしたいのは、あとは2点です。

社会そのものや価値観が多様化している今、社会人を出てすぐの若い人たちはどうしたらいいと思いますか。

上村:まず自分が「何を求めて労働をするのか」を整理したほうがいいかもしれません。

自分がどうありたいのかという姿を思い描きます。

また、自分はこの仕事を通して何を得たいのかという「労働価値」を明確にしたほうがいいと思います。

倉重:労働価値は、14個あるということでいいですか。

上村:14個のものは、戦前かあるものを、たまたま例として出しただけのものです。

倉重:一応選択肢ということで、14個の価値を列挙します。

1能力活用、2達成、3美的追及、4愛他性、5自立性、6創造性、7経済的報酬、8ライフスタイル、9身体的活動、10社会的評価、11冒険性、12社会的交流性、13多様性、14環境。

これを戦前に考えた人はすごいですね。

「美的追及」が入っていることが、すごいと思いました。

僕にまったくない発想なので。

上村:僕もありません。

見た瞬間にすごいと思いました。

倉重:やはり普遍的なものに、変わらない価値はあるかもしれません。

上村:そういうものを整理したほうがいいですね。

あとは、理不尽なことを理不尽だと怒るのではなく、その経験も生きると思ってほしいのです。

倉重:そうですね。死なない限りはいろいろなことをまずやってみろと。

では、本当に最後ですけれども、上村さん自身の夢をお伺いしたいと思います。

上村:弊社のミッションにもつながるのですが、人の問題で足を引っ張られている会社が、すごく多いのです。

その足かせを解除してあげて、もっと会社がプラスのことを考えられるような社会にしたいと思います。

それを解消することによって、皆がハッピーに働けるようになったら、もっと、もっと日本も良くなると思うのです。

人の問題の足かせを外すことをテーマにしていきたいと思っています。

倉重:素晴らしいです。

これからの働く環境を変えるというのが、私の思いですから、ぜひ、お互い頑張りましょう。

上村:頑張りましょう。

■どうやって職場環境を変えていけばいいのか

倉重:ではご質問コーナーです。

傍聴の田代先生はいかがでしょうか。

田代:

どれも私が日ごろ考えていることと同じでした。

とくに、マイナスを取り除くときは順番を間違えたらダメと、私も非常に思っています。

いわゆる定性要因を間違っている会社は比較的多いのです。

私が今お手伝いをしているホテル業界なんて、まさにそうです。

ブラックな部分を見て見ぬふりをして、キラキラ系のことばかりしています。

倉重:スタッフが疲弊しているところから変えないと、人事制度の前にこちらが潰れてしまうということですね。

上村:本当におっしゃるとおりです。

田代:あいさつの話もそうです。

あいさつは、すごく簡単に思えても、できない会社がたくさんあります。

一度はできても、しばらくするとまた戻ってしまうので、継続性がすごく大事だと思っています。

どうやって定着させるかという視点も大切です。

倉重:ありがとうございます。

せっかくですから内村さんも補足をお願いいたします。

内村:私もコンサルティングで、あいさつなどの施策をご提案させていただいています。役員や管理職の方から「普段言っていないのにどうしたら言えるのか」ということを聞かれました。

「そこは、照れくさくても気合で乗り切りましょう」と言っています。

当たり前のことができない人がいるのです。

倉重:相手がブスっとした感じでも、毎日「おはようございます」と言うだけで、相手の反応は変わってきますものね。

上村:全然変わります。

倉重:本当に実感します。感じが悪い売店のおばさんに、毎日あいさつをしたらだんだん対応が良くなるように、こちらから声を掛けることが大事です。

上村:間違いなく、そうです。

田代:名前を付けてあいさつするのは、すごくいいです。

上村:そうです。名前を間違うと少しショックがあるのですけれども。

倉重:それは平謝りするしかないです。

あと、ヤギさんから最後、質問はありますか。

ヤギ:大変勉強になりました。

最近バズったツイートを見ていただきたいのですけれども。

倉重:読み上げますね。

「新卒でヤバいのは、入社した時点で『いかに叱られずに仕事をこなせるか』を基準にしている子。こういう子は、理不尽に叱られすぎて、すでに壊れているので、普通に使えるようにする前に『失敗しても大丈夫』などいろいろ修正してあげないといけない」ということですね。

心理的安全性が、まったくない人ですね。

ヤギ:これは多くの人が共感したからリツーイトされているはずですが、僕は「若干違うかな」と思ったのです。

むしろ、理不尽な経験が少なすぎた結果、失敗が怖くなってしまっているのではないかと思います。

ここから変えるのは、難しいということですよね。

上村:そういうことです。

理不尽なんて、怖くて未知の世界になっているのです。

ヤギ:すでにこうなってしまっている子が今の社会は増えてきているのかなと思いながら聞いていました。

上村:おっしゃるとおりです。

ヤギ:実はこれ、おとといバズったツイートです。

これは皆の解釈が間違っているということですよね。

上村:そうです。

今本当に教育の現場から理不尽が消えています。

ヤギ:どんどん理不尽なものを排除していく流れになっているので、それはそれで怖いという気がします。

倉重:あとは、就活の動機付けの第1位が、「親を安心させたい」ということなのです。

調査では40%の人がそういうふうに答えています。

そうなると、選ぶ企業は「親でも知っていること」が基準になるので、大企業や、銀行がいまだに人気になるのです。

上村:恐ろしい話です。

倉重:キャリア事業などで学生さんにアンケートすると、本当にそういう結果が出るので驚きます。

「理不尽にあったことがない」というのと、「親のために自分の人生を生きる」ということはすごくリンクしますよね。

上村:そうなのです。やはりある程度、皆さんの理不尽に対する許容量を上げないと、この社会がもたなくなってきます。

倉重:「安全な理不尽教育」はすごく良いテーマです。

今思えば、応援団も悪くありませんね。

上村:応援団は僕のイメージではすごく怖いものだったのです。

駅ですれ違ったら、大声であいさつしなければいけないのですよね。

倉重:そうです。「ちわっ」とあいさつしなければいけません。

田代:今、中学高校の部活もかなり下火になっていますよね。

上村:昔で言うところの「お山の大将」もいなくなりました。

その代わりモンスターペアレントがたくさんいるので。

倉重:ある程度、上下関係の理不尽さが必要な面もあると。

上村:そう思います。

倉重:いやぁ、非常に勉強になりました。どうもありがとうございました。

(おわり)

【対談協力:上村 紀夫 (うえむら のりお)】

名古屋市立大学医学部 卒業。

循環器を専門とし、国内外の病院勤務後にロンドン大学ロンドンビジネススクールへMBA留学。帰国後、戦略コンサルティングファームを経て、株式会社エリクシアを設立。

<資格>

医師、日本医師会認定産業医、経営学修士(MBA)

<書籍>

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?