【産業医×弁護士】「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」をどうする?【上村紀夫×倉重公太朗】第1回

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今回のゲストは株式会社エリクシアの代表取締役、上村紀夫さん。エリクシアは、「医療」「心理」「経営」の組み合わせで組織活性を向上させる希少なコンサルティングファームです。複数のアプローチを組み合わせることで、解決が難しい人事課題へのソリューションを提示しています。そんな上村さんに、会社の人事でよくある悩みと原因について聞きました。

<ポイント>

・外科医からコンサルタントを目指した理由

・人手不足や不安がまん延している原因とは?

・「自社に足りないもの」を探すことがファーストステップ

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■「幸せの最大公約数」を探る

倉重:本日は、産業医かつコンサルタントという、かなり変わった肩書をお持ちの上村紀夫さんにお越しいただいています。

まず、簡単に自己紹介をお願いしてもいいでしょうか。

上村:はい、ありがとうございます。上村と申します。

株式会社エリクシアという会社を2009年に立ち上げて、今年で12年目になりました。

会社や従業員にとっての「幸せの最大公約数」を探っている会社です。

現在非常勤も含めて15名の産業医を雇用させていただいており、コンサルタントも在籍しています。

倉重:産業医を軸としてがっちりと会社に入り込んで、組織を良くすることをされているのですね。

上村:そうです。

私の会社には3つの軸があります。

1つ目は産業医。2つ目は、離職や組織活性です。

今回の本にも書いていますが、従業員の意識調査を行い、ストレスチェックから入るケースもあります。

3つ目は研修です。

「楽しくなければ研修ではない」と思っています。

コンサルの経歴としては、おそらくビジネススクールに在籍していたときが一番多かったと思います。

学校や友人経由で、「組織のマーケティング部門の風通しが悪い。どうやったら改善できるか」とか、「新規ビジネスを日本に持っていくための障害は何か」といった案件が舞い込み、コンサルさせていただきました。

倉重:なるほど。お医者さんかつコンサルかつMBAですから、三冠王のような感じですけれども。どういう順番で取っていったのですか?

上村:まず大学は医学部を出て、心臓外科医として就職しました。

5年程度ですので、外科医としてのキャリアは全然大したことはありません。

倉重:なぜコンサルになろうと思ったのですか。

上村:「自分にしかできない医療をやりたい」と思ったのが一番の理由です。

僕が以前留学していたのは、アメリカ・ミネソタ州にあるメイヨークリニックというところです。

石油王が自家用ジェットで通院するような、世界でも有数の病院でした。

倉重:それはすごいですね。

上村:人口数万人の小さな田舎町に、お付の人を100人くらい連れた患者が来て、手術を受けていきます。

設備も大変充実していました。

「こういうところで働きたい」という人は、おそらく日本人も含めてたくさんいるはずです。

でも、仮に自分一人がいなくなったとしても、社会に何の影響もないでしょう。

そう思ったときに、「自分にしかできないことをやりたい」という気持ちが芽生えました。

倉重:それで、キャリアチェンジしようとお考えになったのですね。

上村:そうです。

留学していたときに、仲良くしていたアメリカの先生に相談したら「ビジネススクールもいいのではないか」というアドバイスをいただきました。

そこがスタートです。

倉重:実際に学校に行ったら、また価値観も変わりますよね。

上村:かなり変わります。

私が留学していたロンドンビジネススクールのMBAコースは、今すごく大きくなっていますが、当時は300人程度の規模でした。

さまざまな国籍や業界の人から多様な価値観や言語を学ぶことができたのがよかったと思います。

その後、外資系コンサルティングファームで学ばせていただき、起業の準備に取り掛かりました。

倉重:起業するときは産業医をベースにしようというお考えはあったのですか?

上村:実は、学生時代は精神科にあまり良い印象を持っていなかったのです。

メンタルの問題を多く取り扱う可能性が高くなる産業医のことは、少し敬遠していました。

倉重:そこから考えが変わる出来事があったのですね。

上村:はい。心臓外科をしていたときに、働き盛りの人が救急車で運ばれてきて、手術をすることがたびたびあったのです。

「なぜこれほどの状態になるまで放置しておいたのか」と疑問でした。

あるとき、「医療的な措置が必要になる前に患者に会える医師はほとんどいない」と気づいたのです。

倉重:医者は、病気でつらい状態になった患者と、病院で会うのが普通ですよね。

上村:そうです。

「病気になる前に会える医師」の姿を想像しているうちに、学生時代に経験した産業医のことを思い出したのです。

2005~2006年当時は、病院で働きづらくなった先生が、検診とバーター契約で産業医を引き受けているケースが多く、熱意をもって取り組まれる先生はあまりいませんでした。

倉重:積極的な意義は何もないわけですね。

上村:そうです。私はこの産業医という役割をどうしたら社会で生かせるかと考え、「経営の話から入れば、もっと違う価値が出せるのではないか」と思ったのです。

倉重:やはり発想が私と似ていると思います。

私も弁護士でありながら、紛争を抱える手前で良くしたいと思って活動しています。

上村:そうですよね。

予防をするためには、問題をきちんと解決できなければいけません。

そこは、価値として大切にしているところです。

■人手不足や不安がまん延している原因は?

倉重:最近出版された、『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』の本についても教えてください。

これまで、コンサルタントとしても産業医としても、病んでいる組織をたくさん見てこられました。

その中で、人手不足や不安、不公平がまん延している原因を「マイナス感情の蓄積」と整理したことが新しいところだと思います。

このあたりを、少しご説明をいただけますか?

上村:人はある程度、目的を持って働いていることが多いと思います。

「生活のためにお金が欲しい」という考え方だけではなく、多様な価値観が生まれました。

社会とのつながりを持ちたい方や、有名になるために働く方もいらっしゃいます。

そのニーズを会社が提供できているとは限りません。

なぜなら、人それぞれ働く目的が異なるからです。

倉重:労働価値が違うのですね。

上村:そうです。

そこにずれが発生し、マイナス感情を生み出す原因となります。

倉重:なるほど。分析的な視点がさすがだと思いました。

「時代や価値観は変わっている」と多くの人がおっしゃいます。

上村さんのご指摘は、社会が変わるマクロの視点と、個人が変わるミクロの視点の2つに着目されていて、「なるほど」と思いました。

上村:ちゃんと読んでいただいてありがたいです。

倉重:いえいえ。ご著書には「1on1をしたら手間が増えた」「時短だと言って現場に押し付けたら、不満が広がった」あるいは「マイクロマネジメントをやりすぎて窮屈だった」ということが書かれていました。

本当に現場でよくある話です。

経営者は「いいことをしよう」と思っているのに、どうして失敗するのでしょうか。

上村:想像力が少し乏しく、従業員が何を求めているかについて、間違った想定をしてしまっているケースが多いようです。

まったく何も考えず、「周りの会社がしているから」と真似するケースもよくありません。

例えば「リモートワークがいいと言われているから」と何も考えずに導入してしまうと失敗の原因になりがちです。

倉重:そういうことを、「プラスの施策」と表現されていました。

プラスの効果は、プレゼントと一緒で限定的なのですよね。

上村:そうです。長く続かないところがあると思います。

■自分の会社に欠けているものを探す

倉重:まずはマイナスの改善が先であり、「順番を間違えてはいけない」というお話もありました。

マイナスのあり方も、数パターンあるのですよね。

上村:そうです。1つは心身のコンディションが悪くなり、つらくなってしまうケース。

他には働きにくい環境や働きがいがないというケースなど、6例ほど紹介させていただきました。

倉重:心身のコンディションが崩れたら、そもそも働けなくなってしまいますから、これが大前提だと思います。

働きやすいけれども、働きがいがまったくない会社は「ぬるま湯系組織」と言われています。

自分の会社に欠けているものを見つけることが、ファーストステップですか?

上村:やはり目的意識を持って探さなければいけないと思います。

会社の中にいながら、「うちは働きがいが足りていない」という発想にはなかなか至りません。

まず「辞める人はなぜこれほど多いのか」「なぜこれほどやる気がないのか」という疑問からスタートするようにしています。

倉重:何のためにやるかの話ですね。

上村:そうです。

スタート時点と組織活性の部分を連動させないと意味がないのです。

多くの産業医の先生は、本当につぶれる寸前の人しか見ていません。

けれども、メンタルヘルスや離職、やる気の低下などは全部連動しています。

離職とメンタルヘルスを別々に考えること自体がナンセンスです。

会社として起こっている事象を解決するためには、問題をきちんと分析することが欠かせません。

倉重:表面に現れているメンタルヘルスの問題や、離職率だけを見て改善しようと思っても、対処法を間違えてしまうということですね。

上村:そうです。

例えば、「頭が痛い」と救急に来た方に、鎮痛薬を出すのは対処療法であって、根本治療ではありません。

けれども、意外とそれをしている会社がすごく多いのです。

頭痛の原因はくも膜下出血かもしれないし、気圧の変化によるものかもしれません

さまざまな理由がある中で、本当に危険なものかどうかを確認する必要があるのです。

それをチェックするための手段はたくさんあります。

倉重:そこにどうやって気づいたらいいのでしょうか。

上村:やはり現場の声がすごく大事だと思います。

どのようなことが言われているのか、きちんと生の声を拾ってください。

他人から聞いた現場の声も大切です。

「管理職―部下」という、いわゆるラインの関係性で聞くと、どうしてもバイアスがかかってしまいます。

それよりも、他人から客観的に「こういうことを思っている従業員が多い」と聞いたほうがいいのです。

あとはやはりデータです。

そのあたりを組み合わせながら、実際に、アナログとデジタルの両面からデータを取らないといけません。

倉重:勘ではなく、きちんと専門家を入れてデータの分析をするということですね。

上村:そうです。

きちんと予習されているのは、初めてなので、どうしたらいいか分からなくなってきました(笑)。

倉重:個人的には、いろいろなマイナス感情の発生メカニズムがありますが、労働時間削減によるものが、今一番多いのではないかと思っています。

働き方改革関連法の施行によって、4月から上限規制が全面適用になるわけです。

上限をつけることによって、やる気のある人の意欲を奪ってしまう問題は多いと思っています。

まさに同じ話が書いてありましたね。

 

上村:法律の話になってしまうかもしれませんが、自分で働き方を選べたらいいと思います。完全に選べなくなってしまうと、やはり限界があるかもしれません。

上限規制は、「みんな労働時間を長くしたくないはずだ」という前提があっての話ですよね。

倉重:「有給を取るのは素晴らしいことだ」というのもそうですね。

上村:そうです。

だから前提自体に、想像力が少しずれているところがあるかもしれません。

倉重:例えばシンガポールでは年収800万円を超えた人には規制を外すような考え方もあります。

フリーランスになる人が増えてくると、さらに関係がなくなるのではないでしょうか。

前にタニタさんと対談させてもらったのですが、社員の1割以上をフリーランスにしていました。

会社の制度を利用してフリーランスになる方は、労働時間は関係なく、自分の好きなことをやりたい方がほとんどです。

上村:そうです。

自分できちんと責任を持つことも含めて、働き方はずいぶんと変わっていくはずです。

(つづく)

【対談協力:上村 紀夫 (うえむら のりお)】

名古屋市立大学医学部 卒業。

循環器を専門とし、国内外の病院勤務後にロンドン大学ロンドンビジネススクールへMBA留学。帰国後、戦略コンサルティングファームを経て、株式会社エリクシアを設立。

<資格>

医師、日本医師会認定産業医、経営学修士(MBA)

<書籍>

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?