脚本家・矢島弘一の仕事論「そこに愛はあるか」~矢島弘一×倉重公太朗対談~最終回

倉重:さて、最終回は矢島さんのこれからの夢をお伺いしたいと思います。

矢島:そういえば質問項目に書いてありましたね。いや、俺は本当にないのです。

倉重:ないのですか? 

矢島:僕は本当にないです。あまり夢というものを持たないのです。

倉重:例えば小学校の時など、夢はなかったですか?

矢島:プロ野球でしょうか。

倉重:ヤクルトのですか。

矢島:大人になってからは、本当に格好いい言い方をすると、僕は夢を見るのが好きではありません。全部を実現したいので、夢にはしないのです。

倉重:では目標と聞いたほうがいいでしょうか。

矢島:そうですね。目標なら、自分が監督した映画の第1作は賞を取りたいと思います。

倉重:監督なのですね。

矢島:もちろんです。あとは、演劇の世界でも有名な賞があるのです。僕はテレビの賞は取れたので、映画と演劇の賞を取りたいというのがあります。特に演劇に関しては、僕は演劇を始めて、そちらで賞を取ろうと思っていました。向田を取った年も、演劇の賞を狙っていたら向田が舞い込んだので、予想外だったのです。ですから、どうしても演劇の賞を取りたい、取ると思っています。

倉重:いつまでに、ですか? 

矢島:50歳までに、ですね。

倉重:あと6年ですか。

矢島:6年です。

倉重:本当にいけそうですね。

矢島:それは絶対に成し遂げたいです。

倉重:本当にやりそうです。

矢島:やりますよ。

倉重:では、その際にはパッとパーティーを……

矢島:やってくださいよ。

倉重:そうですね。それは人を集めます。

矢島:それは取りたいです。

倉重:今の話を聞くと、どうしても業界の若い人に向けてのメッセージを頂きたいと思いました。俳優さんや、続けようか迷っている人などへも含めて、メッセージはないでしょうか。

矢島:一つは、将来を考えなさいよということです。

倉重:なるほど(笑)。

矢島:きちんと踏ん切りを付けなさいという反面、諦めてはいけないよというところもあります。本当にこれは難しいのです。

倉重:どのようにバランスを取ったらいいのか、区切ればいいのだろうかと思いますね。

矢島:少なからずプロ意識は持てということでしょうか。一回舞台に立つにしても、それは3,000円や4,000円のチケットを頂いているわけで、そういったことを考えていないやつらが多過ぎるのです。

倉重:そうなのですか? 

矢島:多いです。演者も含めて脚本家・演出家と、そういったやつが多過ぎます。

倉重:それは意外です。

矢島:そうですか?けれども、何本か見に行っていて面白くないと思うものもあるでしょう? 

倉重:確かにつまらないものもありますね。

矢島:あるではないですか。そういったものを見て「何だよ」と思うでしょう? 

倉重:思います。ただ、それは自分の価値観と合わないだけなのかと思いました。

矢島:それならいいのですが、そうとは思えない作品が世の中には多過ぎるのです。特に演劇関係に関してはそうです。誰でもお金があればどこの劇場でもできますから。そういうものを見たときに「いや、だから演劇からお客さん離れちゃうんだよ」と悔しい思いをするのです。だって、映画の2倍か3倍、下手をすれば4倍もするでしょう。

倉重:値段的には確かにそうですね。

矢島:何か非常に悔しいですよね。本当にやめてくれと思います。

倉重:一人一人がプロになれと。

矢島:そうですね。本当にそのように思っていますかと。お金だけならいいけれども、交通費がかかって、その日の自分の時間を使って来てくれています。時間ももらっているわけです。その中でこんなものを見せて、本当にこれをなぜやったのかと思います。

倉重:そこまで思うやつもあるのですね。

矢島:もう腐るほどあるでしょう。それは僕も思われているかもしれませんし、分かりませんが、もちろんそれを思われないだろうと思って当然覚悟を決めてやっています。

倉重:それは、おそらく稽古のときの態度なり取り組み方で……

矢島:そもそも最初の段階で、この作品をやる上での取り組みが間違っているのでしょうね。

倉重:何でこれをやっているのかという話ですね。

矢島:それが価値観だけなら別にいいのです。商品でも、なぜこの商品を売ったのというものもあるでしょう。

倉重:一定のレベルにすら行っていないものがあるのですね。

矢島:ある意味で「こんな誰も使わないようなものを4,000円で売れますか」ということです。

倉重:よく企画が通ったなというような。

矢島:そうです。会社でいえば、1個4,000円のものなど企画を通さないのです。

倉重:それは駄目だと。確かにそうですね。

矢島:しかも2時間で、物も残らないのですよ。

倉重:何も残りませんね。

矢島:不快しかないわけです。

倉重:おいしいものを食べるわけでもありません。

矢島:そういうことです。思い出しましたが、最初の頃に友達を呼んだら、「3,500円ならいいもの食べられるし」と言われたことがあります。そもそも、そのとおりなのです。

倉重:そういうことですよね。

矢島:そのとおりで、悔しかったです。

倉重:高級カツカレーが食べられますね。

矢島:食べられます。本当にそうです。

倉重:それと比べても後悔がないような、「来てよかったな」と。

矢島:そう思わせる気持ちがあるかと。

倉重:そこまでの覚悟ができているかと。

矢島:はい。

倉重:これも本当にどのような仕事でもそうです。どういった仕事でも対価をもらってやっている以上は、それに見合った働きをしているかと。しかも多分劇団の場合はチケット代だけでは賄えない場合も多いでしょうし、その額以上のものを提供できているかと。

矢島:それを思えば、プロ意識を持ってほしいと思います。

倉重:その前提も、やはり愛はあるかということですね。

矢島:本当にそうです。

倉重:やる側もそうですよね。これはもうタイトルは決まりましたね。「愛はあるか」ですか。

矢島:いいのでしょうか。

倉重:では、あとはせっかく観覧の方がいらっしゃいますので、最後の最後にぜひ矢島さんに直接ご意見・ご質問をぶつけてください。

クボ:質問ですか。いいですか。クボです。ありがとうございます。

矢島:ありがとうございます。よろしくおねがいします。

クボ:では、取りあえず。直感力は大事だと思いますか? 

矢島:大事ではないでしょうか。

クボ:大事ですか。それを身に付けるためや鍛えるために、何かされていることはありますか? 

矢島:直感力を身に付けるために、ですか。

クボ:例えば、話のテーマやねたなどを考えるときに、どのように思考力や発想力を鍛えているのか、結構気になっています。それは直感力とはずれてしまうかもしれませんが、そういった頭の使い方では何か意識されているでしょうか。

矢島:仕事をする上での直感力でいえば、大事にしているのは浮かばなくても向き合うことです。目の前に座って、ずっと仕事をしているふりというのでしょうか。

一同:(笑)。

クボ:先ほども、期限をはっきりと決めてとにかく書くと言っていましたね。

矢島:当然、10時間座っている時間があっても、パソコンで文字を打っているのは多分せいぜい1時間から2時間で、絶対に8時間は止まっているのです。

倉重:そういうものなのですね。

矢島:だって、10時間書き続けたら何百枚になります。どれだけ優秀かという話でしょう。1行やったら消して、「これは違うな」という感じです。ですから、その待っている間に直感するのだと思います。僕的には、何もしないときに「あ、浮かんだ」ということはあまりありません。

倉重:待っているのですか。

矢島:はい。

クボ:降りてくる。

矢島:多分、自分の感じでいえば、ずっと「何だろうな……」といって、「ああ、そうか!」という感じではないでしょうか。

倉重:そのように降ってくる前提で、いろいろなインプットで意識していることはあるでしょうか。

矢島:インプットで意識も当然。僕の作品作りは、人間づくりなのです。人をつくっているので、人の生い立ちを全部つくります。

倉重:その出演者の、登場人物のですか。

矢島:そうです。ですから、例えば倉重公太朗なら、なぜお父さんとお母さんが公太朗と付けたのか、お父さんとお母さんの職業は何か、きょうだい構成があって、家から近くの学校に通ったのか越境だったのか、その間で誰に恋をしたのかなど……。

倉重:そこまで考えるのですか? 

矢島:そういったものがあって、将来出会う人が決まってくると思うのです。

クボ:なるほど。

矢島:僕は、構成よりも、まずはキャラクターの人物をつくっていくところからせりふが生まれてきます。人間はそもそも、今日こうして会うときには「矢島さんとこのような話をしよう」、クボさんが来たときに「質問があればこういうことを聞きたい」、「こういう人はどのようなことを考えているのだろう」と、やはりみんな予習というか何となく考えています。

飲み会でも、ふらっと行くけれども、今日どういった人と会うかによって、何となくそのときの道筋を決めてきているはずです。

倉重:ありますね。

クボ:このようなテーマになるだろうか、と。

矢島:ですから舞台やドラマでも、そのシチュエーションになったとき、その登場人物が来て、その生い立ちがあれば、必ずこのような会話になる、ということが何となく浮かびます。

倉重:それが、勝手に動き出すというやつですか。

矢島:ゾーンに入ったときは、勝手に会話をしてくれるのです。自分が考えていないことでも、こういうせりふが出た、気付いたらこのせりふを言っていた、ということはたくさんあるかもしれません。

倉重:あるではないですかとおっしゃっていましたが、多分みんなはないです(笑)。それは矢島さんの感覚で、そのようなことはできませんよ。

矢島:何となく、今日こうしてこの人と会うときに何となく、ありませんか?

倉重:リアルで知っている人であればあるかもしれません。

クボ:人がお好きなのでしょうね。

矢島:大好きです。

クボ:会話をお聞きしていて、やはり人がすごくお好きで、愛もそうですし、そうなのだろうと思いました。

矢島:直感力を鍛えると意識していることはあまりないかもしれないです。

クボ:分かりました。2つ目ですが、健康管理で気を付けていることはありますか。

矢島:本当に健康は大事です。

クボ:大事ですね。

矢島:気を付けていることは、今はとにかく歩くことです。

クボ:歩いているのですか。

矢島:歩いています。電車に乗らないでここの駅の間は歩こう、と。

倉重:一駅歩こうと。

矢島:万歩計も入れているので、1日最低でも8,000歩といった感じでやっています。あとは、それが健康なのかは分かりませんが、ストレスはためないようにというのがあって、好きなものを食べようとは思っています。なので、太ってしまうのですけれども。

クボ:全然、鍛えていそうな感じです。

倉重:めちゃくちゃ鍛えていますよね。

矢島:先ほども言ったように、元々がスポーツクラブのトレーナーをやっていましたので。けれども、駄目ですね。

クボ:それでは駄目ですか。あとは先ほどの、自分のやりたいことを今は一つに絞られていると思いますが、矢島さんご自身も自分のキャリアをだんだんと絞られていったと思います。どうなのでしょう、最終的に絞る必要はあると思いますか。

矢島:できるのであれば絞らなくてもいいと思います。

クボ:絞らなくてもいいですか。

矢島:僕はとにかく数字が大嫌いで、数字を見たくないのです。元々算数が大嫌いで、それこそ僕は私立の中高に行けたのですが、本当に頭が悪過ぎて大学にも行けませんでした。

倉重:大学付属なのに。

矢島:付属だったのに行けないくらい、僕は勉強が嫌いです。数字を追うことやそろばんをはじくということが、本当に大嫌いなのです。ですから、これはもうやめなくてはいけない、やはり得意な人に任せたほうがいいと思ったのです。

クボ:みんな、若い時には自分で何でも頑張ろうと思う気がするのですが、それを手放せたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

矢島:いや、無理……。今でも僕はこの後の人生は断捨離だと思っています。これからはやはり必要な人としかあまり付き合いたくありません。必要な人とは利益があるということではなくて、自分が大切だと思う人と一生付き合っていきたいと思っています。利用もしたくないし、されたくもないのです。

倉重:話を聞いていて、僕の両親は税理士なのですが、公太朗は公認会計士になれと言われてその名前を付けられたのです。けれども全く親の税理士事務所は継がずに弁護士をやっています。先ほど公太朗の名前の由来はと言われた時から考えていたのですが、その中で結果的に適職に巡り合うというのは、立場は全く違いますが、僕も数字は大嫌いなので会計士は無理だと思ってやっていたので、勝手にすごく似たものを感じています。すみません、ただの感想です。

矢島:いえ、ありがとうございます。

倉重:では、復業で小説家をされているヤギさん、どうぞ。

ヤギ:本当にいろいろと勉強になりました。

矢島:いや、本当に勘弁してくださいよ。

一同:(笑)。

ヤギ:その計画どおりに進めることがいかに難しいかというのを本当に実感していています。

倉重:やはり締め切りがありますものね。

ヤギ:書きたくてもなかなか出てこないときでも、その中で向き合うという話を頂きましたが、行き詰まったときの気分転換というと、先ほどおっしゃった、例えば夜にビールを飲んでリラックスするなどの切り替えが重要になってくるのでしょうか。

矢島:そうですね。あまりそれほど深いことを考えないのです。夜もビールを飲みながらでも当然本のことは考えています。ただ、それは苦痛ではありません。ビールを飲んで考えている自分も好きですし、あまり苦痛になっていないのです。せりふが出ないことも苦痛にはなっていません。

倉重:そうなのですか? 

矢島:苦痛ではありますが、苦痛ではないのでしょう。

倉重:スーパーマンのようですね。

矢島:いや、苦痛は苦痛なのですが、苦痛ではないのです。

倉重:出てこないといって悩むようなイメージがあります。

矢島:苦痛なのだけれども、何か苦痛ではないのです。

倉重:困難に立ち向かっている感じがもう、わくわくしてしまうのですか? 

矢島:そうなのでしょうね。

倉重:やはりスーパーマンですね。アイデアが出てこないとどうですか? 

ヤギ:僕は本当に苦しむタイプです。

矢島:僕は小説も依頼をもらったことはあるのですが絶対に書けません。

倉重:違いますか。

矢島:絶対に無理です。ですから、小説家はすごいです。あのように細かい描写を……

ヤギ:描写があれなのですよね。

矢島:全部想像させなくてはいけないでしょう。

倉重:舞台とはまた違いますね。

ヤギ:それでいうと、インプットの話が先ほど少しありました。作品のインプットでいうと、例えばドラマなどは今すごく激動で、若い人などは皆さんスマホで、Huluを見たり、サブスクが入ってきたりしている中で、海外の作品を追い掛けることもされますか。

矢島:海外は見ますね。

ヤギ:はやっているものは、やはりひと通り1作目は見るという感じでしょうか。

矢島:お恥ずかしい話、日本のドラマはあまり見ておらず、本当にさくっと見るぐらいで、海外のドラマをたくさん見ています。あと映画は、自分が見たいというよりはアンテナを張っています。ですから、Twitterなり何なり、評判が少し上がっているものは「これは聞いたことがないな」と思えば調べて見始めるなど、常にアンテナは張っていますね。

ヤギ:先ほどバランス感覚とおっしゃっていましたが、本当に今のドラマにはすごくそれが求められているのだろうと実感しています。

矢島:これからはどうなのでしょう。けれども、日本のドラマの傾向はあまりよくないです。

倉重:テレビに関しては。

矢島:傾向的に本当によくないと思います。今はもう時間に追われていて、ちょうどそれは働き方改革のせいでもあるのです。

倉重:何時にテレビの前にいるというのがもう無理なのでしょうね。

矢島:それもありますし。

倉重:制作のほうですか。

矢島:制作のほうが、やはり働き方改革で、みんなかつかつで働いているので早く終わらなくてはいけません。そればかりなのです。直すことを追求できません。

倉重:そういった意味では、NetflixやAmazonなどで矢島さんがやりたいドラマをとことん時間をかけてやってほしいです。

矢島:そうなのです。『全裸監督』などは、もはやその典型なのです。確か、本当はもっと早く出したかったはずなのです。

倉重:5年ぐらいかかったようですね。

矢島:延びたというか、脚本のできが悪かったからみんなでつくり直していたのです。悪かったというよりは、もっとああしたい・こうしたいというものがあったから、あれぐらいになったのでしょう。

倉重:ぜひ矢島さんもああいったものをやってほしいです。

矢島:やりたいです。やりますよ。

倉重:楽しみですね。では、ここで終了にしたいと思います。どうも今日は長時間ありがとうございました。

矢島:お疲れさまでした。ありがとうございました。しゃべってしまいましたね。

【対談協力】

矢島弘一(やじま こういち)

劇団東京マハロ主宰・脚本家・演出家

2006年11月劇団「東京マハロ」旗揚げ。

「毒島ゆり子のせきらら日記」で全話の脚本を務め、第35回向田邦子賞を受賞。

関係者から“女性の気持ちを描ける男性劇作家”として注目を集めている。

これまで劇団公演にて描いてきた作品には、不妊治療や震災直後の被災地、いじめ問題に性同一性障害など現代社会が目を背けてはならないテーマが多く、さらにはコメディ作品にもチャレンジして脚本の幅を広げている。

テレビ初作品となったNHK Eテレ「ふるカフェ系ハルさんの休日」は現在も脚本を手掛けているほか、2017年5月スタートのNTV深夜ドラマ「残酷な観客たち」では、第1話、第2話の監督も務めた。

同年秋にはTBS金曜ドラマ「コウノドリ~命についてのすべてのこと~」の脚本も担当。