これからのキャリアを生き抜くには越境学習が必要だ~石山恒貴×倉重公太朗~第2回

倉重:では、「PEDAL」(躍進行動を取る人の5つの要素。1 仕事を意味づける、2 まずやってみる、3 学びを活かす、4 自ら人と関わる、5 年下とうまくやる。)の要素について詳しくお伺いしたいのですが、まず「仕事を意味づける」ということの簡単なご解説を。

石山:仕事を意味づけるとは、ジョブクラフティングともいわれたりします。ジョブクラフティングという考え方とは何かというと、働く人が主体的に、自分の意味によって自らの職務を変更していくとか。

倉重:クラフトとは創造するということですね。

石山:そうです。創造していくということです。これは、実は新しい考えです。特に欧米でも、職務というものは会社が設計して与えるものだと。上司が設計して与えるものだと。会社や上司が設計するものだから、なるべく本人のやる気が出るように、自律的な職務を設計しましょうという考え方でした。

つまり、今までは、職務というものは、トップダウンで設計されるものでした。でも、ジョブクラフティングは、本人が自らボトムアップで仕事をクラフトできるということです。

 一番分かりやすい例が、ディズニーランドのカストーディアルといわれています。ディズニーランドのカストーディアルとは、ディズニーランドのパークで働くキャストといわれる方々の中でも、パークの清掃を担当する人です。このカストーディアルの自分の仕事の意味付けがパークをきれいにするということだと、清掃業務が中心になります。でも、自分の仕事の意味付けを、パークに来るゲストのハピネスの追求だとすると、お掃除をしながら地面に水でミッキーの絵を描き始めます。ということで、意味付けによって仕事が変わっていくということが、一番の典型例なのです。ちなみに、地面に水でミッキーの絵を描くのは、日本のディズニーランドから始まっているらしいです。

倉重:そうなのですか。日本的なこだわりが反映されているのですね。

石山:そういう意味付けで仕事を創造したと思います。

倉重:その点は、会社からこの仕事はこういう意味だと与えられるのか、それは自分の中で探すのだという。ご著書の中にも、自分で探索しない限り仕事の本当の意味は見えてこないとお書きになっています。

石山:まさに核心のご質問です。これは両方だと思います。つまり、組織や社会の中の自分の仕事の意味というものがなければ、やはり意味付けはできません。けれども、それが組織や社会の意味だけで、自分のやりたいことというか、自分の価値観に沿った意味付けがないと、やはり意味付けられません。自分の価値観ややりたいことも分かった上で、組織や社会が今求めているとか必要なことも理解して、そこを接続するということが究極の仕事の意味付けだと思います。

倉重:勝手に何か意味を見いだすのではなくて、会社は例えば理念やフィロソフィーを従業員に伝えていって、その枠の中で自分はどのような意味があるのだろうと個人で考えるのかなと理解しました。

石山:まさしくおっしゃるとおりです。ですから、2つ必要なことがあります。まず、1つ目の組織や社会の役割の理解についてです。実は同じ本の中で、役職定年になるとどのようなことが起きますかという話を調査でやっています。最初われわれは、やはり役職定年になって給料が下げられることがショックなのかなということで、そういう話がたくさん出てくると思っていました。

 しかし、皆さんが一番変わったと認識していることは、役職定年になって情報から切り離されるということなのです。つまり、急に会議に呼ばれなくなったとか、急に上司から情報が下りてこなくなったとか。今までだったら毎日100通も200通もメールが来て、もう勘弁してくれとか、全部チェックできるわけがないと言っていたものが、役職定年になると1週間後にメールが50通になり、2週間後に30通になり、1カ月たつと5通になったりするのです。結構インタビューをすると、じわじわ下がっていく感じがたまらないという話があります。

 やはりそうやって情報から切り離されてしまうと、いくら会社のことをよく知っているベテラン社員の人でも、今、会社がリアルタイムで何を求めているのか、意味の接続ができなくなってしまいます。ここが一つ問題なのかなということがあります。

倉重:そのとき会社はどうしたらいいのでしょうか。

石山:この躍進行動をどう促進するか。われわれはエンジン・ブレーキ、あるいは阻害要因をブレーキと言っていますが、実は今回、エンジンのほうでは、ミドル・シニアや例えば役職定年といっても特別扱いせず、普通に接してもらって、情報交換が多い職場がいいということが出てきています。ですので、別に役職定年になったから急に情報から切断するということは、非常に変な話です。部下がいなくなったから情報がなくなるということもおかしな話です。普通にみんなと同じように情報を流せばいいだけだと思います。

倉重:多分それは、役職定年になる前も、何か具体的に実務をやっていたというわけではないのでしょうが、部長だから取りあえずCCに入れておくかというようなことで。

石山:そうです。

倉重:それがなくなるということですよね。

石山:そうなのです。むしろ本当に何も構えずに職場で同じ対応をすることができるはずです。例えば、今回年下上司と年上上司の行動も見ていますが、やはり年下上司のほうが年上上司よりも、エンジン的なマネジメントを10%以上やれていないということが出ています。要するに、少し遠慮して話せないのではないのかという気がしています。

倉重:気を遣ってしまうわけですね。

石山:そうです。変に気を遣ってしまって、床の間の上に上げてしまって、結果的に情報を切断してしまうわけです。

倉重:周りの人も相談しづらくなりますし。

石山:相談しづらくなりますし。普通に接するということが非常に大事なのではないかと思います。

倉重:あと、仕事の意味という意味では、外の視点も必要だとお書きになられていると思います。これは、まさに越境すべしという話ですか?

石山:そうですね。会社は今これを求めていると。でも、会社がこれを求めているというのは、会社が社会と切断されてそれをやっているはずがなくて、社会で求めているから、社会の変化があるからそれを求めています。となると、今、外で何が起こっているかを知る。やはり先ほどの越境のようなことが大事かなということです。

倉重:いいですね。ありがとうございます。

 では、次の「まずやってみる」に行きたいと思います。これは、私も仲良くしている外資系の人事の人も同じことをおっしゃっています。外資は仕事がはっきりと決められている中でも、やはり誰の仕事か分からない仕事もあります。そういうことを取りあえずやっておきましょうかということが、すごく周りの信頼を得るのに大事だと。ジョブクディスクリプションのある会社でもそうなのだという話をされていて、そういうものなのかと思った記憶があります。まずやってみるというのはどういう趣旨ですか。

石山:確かに、今、倉重さんがおっしゃったようなことも、人の仕事に越境していくという意味もあるかもしれません。いろいろなところに首を突っ込むということがすごく大事なことだと思います。まずやってみるということが何で大事かというと、過剰適応のような問題があると思います。つまり、長い間その仕事を、同じところでずっとそれをやってしまっていると、そこのことが何でももう分かるように見えてしまいます。そうすると、誰かが、例えばもっと若手の人が新しくこのようなことをやりましょうと言っても、それは前にやって駄目だったからとか、それをやると何とか部の何とかさんが絶対反対するからもうやらないほうがいいよとか、そういうできない理由が、過剰適応してどんどん出てきます。

 やはり今は、まずやってみて、失敗してもいいからいろいろ挑戦するとイノベーションが起きるというようなこともありますよね。例えば、サントリーさんは「やってみなはれ」ということを言ったりしますが、サントリーさんは膨大な失敗の試作品があって、とがったいい飲み物、ヒット商品ができるということがあります。

倉重:クラフトボスができる前にはさまざまな失敗がありました。

石山:変なアイデアをいろいろ試してみて、初めてそこに行き着いたりするので、失敗しなければいけないと思います。例えば、Amazonも、われわれは世界で一番失敗できる会社であるというようなことを言っています。まずやってみて、試して失敗するというようなことができないといけません。ところが、できない理由がたくさん言えてしまうようになることが問題なのです。

倉重:過剰適応ですね。それは変化を拒むということも自然としてしまうのかもしれませんね。

石山:そうですね。人間は変化が怖いところがかなりありますから。

倉重:それは、同じ仕事を十何年とか、同じ部署にずっといるとなると、誰かが悪いとかではなくて、誰もがそうなってしまう現象ですよね。

石山:多かれ少なかれそうです。人事異動をすればいいという話かもしれませんが、人事異動したとしても結局は同じ会社なわけで、同じ枠組みだと、人事異動をしてもやはりあそこはこうだよねという共通性があったりして、多かれ少なかれそこでどうしても過剰適応は発生するのかなと思います。ですので、常にそれが起こっているということを気に掛けてやってみないといけません。

倉重:自分で意識することが重要ということですね。

石山:そうですね。この本を出した後に、いろいろな企業にお邪魔してワークショップをやって、自己チェックをしてもらっています。お話を伺っていると、結構業種で違うのかなとか職種で違うのかなと、同じ会社の中でもおっしゃることがあります。例えば、同じ営業でも、お客さまの業界でまずやってみる的なことがどんどんやれている営業と、職種によって、特に非常に慎重さが求められたりする職種だと、やってみなくなるという風土もあります。その辺りも意識しながら、仮にそういう職種であってもやってみたほうがいいのかなとか。

倉重:NASAのお話(※)もありましたけれども、命に関わることだからこそ言ってみろという話ですよね。

※NASAでは、会議室中に「安全ではないと感じたら声を上げろ」といったポスターがたくさん貼ってあった。ところがある日、エンジニアがコロンビア号の断熱材がはがれ落ちてエンジンを直撃している映像を見て、そのことを同僚とか直属の上司に知らせたら、なぜかスルーされてしまって、その後上位上司にも言わなかったので、コロンビア号の事故が避けられなかった。なぜ言わなかったかというと、当時のNASAは、一介のエンジニアが上位上司に物を言うなんてありえない、“心理的安全性”のない職場だったからという話

石山:そうなのです。命に関わることだからこそ、失敗しそうなことなどはどんどん言ってみたり、試してみたりということが大事だと思います。

倉重:ただ、失敗したら評価が下がるとか、ミスがあると許されないという文化の会社、つまり減点法のような評価をやっていたら、そういうものはまず生まれてこないでしょうね。

石山:そうですね。

倉重:イノベーションが起きるにはどうすればいいかというような話でも、必ずそういう。この間松浦民恵さんと対談したときも同じような話になりました。人事評価項目で、ミスは見ないほうがいいのではないかという話です。

石山:やはり加点していかないと、なかなか挑戦するということに報酬が出ません。

倉重:十何年もやっていると慣れてくるということは私も実感しています。前の弁護士事務所に13年ほど居たのですが、部下もいて、大体どんな案件が来てもどう処理すれば良いかの見通しがついて、こういう方向でやっておいておと、ある程度はその範囲内でできてしまうところがあります。

それはそのやり方が悪いという意味ではなくて、自分の中での伸びしろというか、あまり頭を使っていないという感覚がありました。それで、環境を変えようということもあって、自分の事務所を始めました。

石山:それはすごく大事です。そこで自ら変えられるということは、すごいことだと思います。

倉重:今の話は本当に、何となく思っていたことを言語化していただいた感じです。

石山:そこでそれに踏み切れるというのは、本当はなかなかその一歩は出ないと思います。

倉重:最初のペダルは重いです。

石山:そうですよね。

倉重:さすがに最初は私も不安でした。

石山:回せている状態になってしまうと、どのような案件が来ても、必ず60点か70点は取れるやり方が身に付いていますから。

倉重:そうです。非常に楽なのです。ですから、やはりあまり成長しないということが、自分の中では大きかったです。誰しもがこのような経験をするのだろうと思います。

石山:そうだと思います。ですから、結局成長し続けられる人は、その状態に自分が陥ってしまったときに、自分で何か手を打てるのかということが分岐点になります。

倉重:まずは、こういうことを意識するということが大事ですね。ずっと慣れていることも良くないです。

石山:そうですね。

倉重:こういうことは言われてみないと分からないものだと思いました。弁護士業界でも、サラリーマンでもきっと同じように思っている人がいるだろうと思います。

(次回へ続く)

【対談協力】石山恒貴(いしやまのぶたか)

法政大学大学院政策創造研究科 教授・研究科長

一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境的学習、キャリア形成、人的資源管理等が研究領域。人材育成学会理事

主な著書:『越境的学習のメカニズム』福村出版、2018年 、『パラレルキャリアを始めよう!』ダイヤモンド社、2015年、『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』(パーソル総研と共著)ダイヤモンド社、2018年