【濱口桂一郎×倉重公太朗】「労働法の未来」第3回(新時代の集団的労使関係のあり方)

倉重:次は集団的労使関係からの 視点になりますけれども、トヨタの労組が、ベアの要求額を非開示にするみたいなニュースが出ていました。そういうものを見た時に、今まで集団的労使関係の役割というのは、一律に労働条件をより良くするとい役割をずっと担ってきたわけですけれども、やはりその存在意義というもの自体が変わらざるを得ないんだろうとあらためて思っております。

それでは、これからの時代に何が労働組合の存在意義かというのを考えると、まさに今おっしゃられた、労使委員会でも、特別多数労組でも、どちらでもいいのですが、この会社の労使関係自体はどうあるべきか、というのを決めていく存在であるべきなのだろうということを、ちょうど今日考えていました。

まさに今お話した「同一労働、同一賃金」がそれに打倒する場面です。それで、今、完全なるブラックボックスであるのが、社内で非正規も含めた形での意思決定、集約ができました、ということになれば、そこに法的判定性を与えてあげてもいいのではないかというのは、労働政策として非常にまっとうな議論だと思います。

どうしてそれをやってくれないのかなと思います。

濱口:もう5年前になりますけれども、JILPTが、東大の荒木先生を座長に、集団的労使関係についての研究会の報告を出しています。その中で、新たな、特に、さまざまな雇用形態を集約するような、ある種の従業員代表みたいなものを提起しています。労働組合に行った時に、しゃべるのは、「あなた方が、ちゃんと先んじて、非正規を全部入れて、「俺たちが非正規も含めた代表なのだ」、「だから俺たちの言うことを聞け」という風に、むしろ積極的にやっていくべきでしょうと申し上げています。

倉重:現状の政策は、やはり労働組合に任せたのでは、何も変わらないから、政府がやるぞと。何かばかにされているように、むしろ、労働組合は怒ったほうがいいのではないですかというふうに、組合の方々に申し上げています。

濱口:昨日もまた、労働組合基礎調査が発表されました。数は1,000万人を超えました。ですけれども、組織率は17.0%で、どんどん下がる一方です。一部の組合は一生懸命、非正規などを入れて、気を吐いていますが、全体としてはどんどん下がる一方です。その意味で、私はこれはいい機会だと思うのです。企業側が何が合理的か不合理か分からないという状況下で、「いや、ちゃんと組合が話をつけたから大丈夫だぞ」と、「その大丈夫な組合というのは非正規を入れた組合だぞ」というふうにすれば、これは企業側にとっても、法的安定性が得られるし、組合にとっても、それを利用して、組合を拡大できるのです。いい話ではないですか。

倉重:いいですよね。企業にとっても、労働組合にとっても、Win-Winですよね。

濱口:Win-Winなのです。

倉重:本当に、平成18年以前に議論されていたところですけれども、不利益変更にも当然応用が利く話ですよね。

濱口:応用といいますか、元々そちらで出た話です。

倉重:そうですね。

濱口:例えば今回で言うと、「注」の第2パラグラフに出ている、定年後再雇用の話は、やはり特殊性があるのです。その人は、60歳までは正社員だったわけです。ということは、その労働条件をどうするか。その正社員だった人が、60歳以降どれぐらい賃金が下がれば、それを合理的とし、あるいは非合理とするのか、それこそ自分たちの話なのです。それを排除してしまうようなやり方は、やはりおかしいです。集団的労使関係は、うまく使えば、使い道はたくさんあるのです。

倉重:そうですね。ちなみに、定年後の再雇用に関しては、指針案の「注2」のところで、長澤運輸事件の最高裁判決を受けて、少し修正されました。長澤事件の引用といいますか、要約を書いた後に、「したがって、定年後、再雇用であることのみをもって、ただちに不合理ではないと認められるものである」とあり、何か少しまとめ方がおかしいのではないかと思います。

そうですね。あの長澤の最高裁判決は、結構すごいことを言っていると思いました。特に家族手当や、住宅手当でしたでしょうか。そもそもの生活保障や福利厚生の必要性が、正社員と違うと言っているので、そこは大胆です。かなり高年齢者という特殊性を、最大限考慮していると思います。

それが良いのだったら、多分大半の差はオッケーなのだろうと思います。皆勤手当は分かりやすい手当なのであれですけれども、説明がつかない怪しい手当以外は、大半違っていいと言っているぐらいに読めるのではないでしょうか。あんなに福利厚生の必要性が違うというのは結構な言い方で、最高裁は思い切ったと思いました。

濱口:とにかく、あまり使い物にならないように、使い物にならないように作ったガイドラインです。

倉重:そうなると、今後ますます弁護士の役割も広がります、笑。

濱口:結局、弁護士や、あるいはもっと現場近くの社労士がもっともらしい顔で「私が言うようにすれば大丈夫です」と言ったところで、全然そんな保証はないのです。

倉重:どうしようもないです。少なくとも同一労働同一賃金の問題はまだまだ法律の分野の問題であって、単純に賃金制度の設計だけで対応できる問題ではないと思っています。

(第4回へつづく)

【対談協力 濱口桂一郎氏】

1958年生れ

1983年 東京大学法学部卒業、労働省入省

2003年 東京大学客員教授

2005年 政策研究大学院大学教授

2008年 労働政策研究・研修機構統括研究員

2017年 労働政策研究・研修機構研究所長