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新型コロナの療養期間が短縮 なぜ「5日間」なのか? 現在の療養期間のまとめ

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

新型コロナが5月8日に「5類感染症」へ移行した後、これまで発症後7日間としていた療養期間について、インフルエンザと同じ「5日間」に改められることとなりました。これによって、国際標準と足並みをそろえる形となります。

新型コロナの療養期間のまとめ

最初に新型コロナの療養期間のまとめを提示します(図1)。新型コロナが「5類感染症」になる5月8日からこれが適用されます。

図1. 新型コロナの療養期間(厚労省4月14日通知をもとに筆者作成)
図1. 新型コロナの療養期間(厚労省4月14日通知をもとに筆者作成)

新型コロナは発症翌日から5日間の外出自粛が推奨される」という通知が発出されました。発症日を0日目として、5日間は療養してくださいということです。6日目の療養解除となります。これはインフルエンザと同じ療養期間です。

ポイントは、症状軽快後24時間は外出自粛が望ましいこと、発症後10日間はウイルス排出の可能性があるため、マスク着用やハイリスク者との接触を控えることです。

学校保健安全法への適用はまだですが、文部科学省からも「発症翌日から5日間かつ症状軽快後1日」の出席停止期間を定める意向が発表されています。

インフルエンザの療養期間は、「症状」ではなく「解熱」の有無で規定され、「解熱後2日間(幼児は3日間)」の療養になる、という点で新型コロナと少し差異があります。

「5類感染症」に移行すると、そもそも療養期間を遵守することに法的根拠がなくなるため、お願いを呼びかけるという形にとどまります。とはいえ、インフルエンザに関しては、事業所でも学校保健安全法に準ずる形が多いため、社会でもこれを意識することが求められます。

なぜ「5日間」なのか?

「最初から新型コロナの療養期間は5日間でよかったのではないか」と思う方もいらっしゃるでしょう。ウイルスが変異を繰り返し、その後新たに示されたデータも加味して、このような改定にいたっています。

アルファ株やデルタ株の頃のように肺毒性が強く、ワクチンが十分に接種されていなかった時期では、このような議論はできなかったと思います。

初期のオミクロン株BA.1に感染した人の鼻咽頭ぬぐい液277検体のウイルス力価をみた報告がアドバイザリーボードに提出されました(1)。発症後7日時点で幾何平均ウイルス力価が検出限界値を下回り、この後この値を上回ることはありませんでした(図2)。

図2. オミクロン系統感染者鼻咽頭検体中の感染性ウイルスの定量(第120回 [令和5年4月5日] 新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードより引用)
図2. オミクロン系統感染者鼻咽頭検体中の感染性ウイルスの定量(第120回 [令和5年4月5日] 新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードより引用)

グラフに示されるように、発症後5日時点でガクンとウイルス力価が落ちています。5日間療養のあともし6日目解除となっても、検出限界値近くであることから、医学的には感染を広げるような水準ではないだろうと考えられます。

また、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)(2)をはじめとした諸外国の推奨も、「発症後5日間の療養」が多いです。ですから、国際水準に合わせるという意味で、「5日間」というのは妥当な落としどころと考えられるわけです。

しかし、6日目からいきなり感染リスクがなくなるわけではないので、この判断は厳密なものではなく「目安」として考えてください。

感染後のマスク着用

療養解除となっても、発症後10日間が経過するまではマスク着用や高齢者などのハイリスク者との接触を控えていただく必要があります。

発症から10日間経過した時点でも、感染性のあるウイルスを排出する患者さんは全体の約4%いることが分かっています。

このわずかな感染リスクを、社会全体で抱えていくことになります。

家族が発症した場合の濃厚接触者は?

家族が新型コロナになったとしても、5月8日以降、「濃厚接触者」として法律に基づく外出自粛が求められることはありません。

とはいえ、家族が発症した後は、約7日間にわたって発症するリスクがあるため、体調にご注意いただき、マスクを着用するなど感染対策を講じる必要があります。

まとめ

新型コロナの療養期間は5月8日の「5類感染症」移行時から、「5日間」に短縮されます。諸外国の推奨に合わせた形となっており、わずかな感染のリスクを社会で抱えるとしても、総和として悪影響が出るほどのリスクではないと考えられています。

しかし、5日間が経過すれば感染リスクがゼロになるというクリアカットなものではありません。

マスク着用や手洗い・アルコール消毒などを併用しつつ、「5類感染症」となった新型コロナに順応していく必要があるでしょう()。

表. 5類感染症移行によって変わること(筆者作成)
表. 5類感染症移行によって変わること(筆者作成)

(参考資料)

(1) オミクロン系統感染者鼻咽頭検体中の感染性ウイルスの定量(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001084525.pdf

(2) Isolation and Precautions for People with COVID-19(URL:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/your-health/isolation.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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