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インフルエンザと新型コロナの同時流行に注意を 重複感染「フルロナ」について

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

日本では2シーズン連続でインフルエンザが流行しなかったことから、「今年もおそらく大丈夫」と予想している人が多いと思います。しかし、流行するかどうか予測することはなかなか難しく、予防できる感染症はしっかり予防しておくことが重要と考えられます。

インフルエンザと新型コロナの同時流行に注意を

基本的対処方針分科会の尾身茂会長は先日、今年はインフルエンザと新型コロナの同時流行に注意するよう明言しています。

南半球のオーストラリアでは2022年に入って、この2年間流行が抑えられていたインフルエンザがついに大流行にいたっています(図1)(1)。

日本でもこういった現象が起こる可能性は十分考えられるため注意が必要です。

図1. オーストラリアのインフルエンザ動向(参考資料1より引用)
図1. オーストラリアのインフルエンザ動向(参考資料1より引用)

「フルロナ」とは

インフルエンザと新型コロナの重複感染のことを「フルロナ」と呼びます。いやあ、とても発音しにくいですね。「フルコビッド」と呼ぶべきという研究グループもありますが、呼称は個人的には何でも構いません。

イギリスの研究によると、呼吸器系ウイルスの検査がおこなれた約7000人の新型コロナ感染者のうち、インフルエンザに重複感染していた割合は約3%とされています(2)。頻度が高いわけではありませんが、合併しうるということです。

この研究では、インフルエンザウイルス以外にも、RSウイルスの重複感染、アデノウイルスの重複感染も同程度みられており、インフルエンザだけが重複感染するわけではないということに注意が必要です。

大人よりも子どものほうが医学的に問題になるかもしれません。大人と比べて子どものほうがインフルエンザの重複感染率が約7倍高かったという報告もあります(3)。

重複感染は重症化リスクを高める

インフルエンザと新型コロナが重複感染した場合、新型コロナ単独と比べると、人工呼吸器を必要とするリスクが4.14倍、院内で死亡するリスクが2.35倍上昇することが分かっています(図2)(3)。RSウイルス、アデノウイルスではこのような有害性は観察されませんでした。

図2. インフルエンザと新型コロナの重複感染によるリスク(参考資料3をもとに筆者作成)
図2. インフルエンザと新型コロナの重複感染によるリスク(参考資料3をもとに筆者作成)

動物実験では、A型インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスに重複感染させると、より重度の体重減少や肺炎の悪化がみられたと報告されています(4-6)。これは、A型インフルエンザウイルスが、新型コロナウイルスの侵入門戸となるACE2受容体の発現を助長するからではないかと考えられています(図3)(7)。

図3. A型インフルエンザウイルスが新型コロナウイルスの重症化に与える影響(参考資料7より引用)
図3. A型インフルエンザウイルスが新型コロナウイルスの重症化に与える影響(参考資料7より引用)

そのため、どちらの中和抗体も増加させるワクチンを接種することが重要です。

ワクチンの同時接種が了承

7月22日に開催された第33回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会では、インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの同時接種が了承されました。

同時に接種しても、インフルエンザ抗体価、新型コロナウイルス抗体価のいずれも低下は観察されず、免疫干渉はないと判断されたためです。

インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンを同時接種する場合、新型コロナワクチンを打った後、その場で反対側の腕にインフルワクチンを打つことになります。なお、インフルエンザ以外のワクチンとの同時接種については、13日以上の間隔をあける必要があります(図4)(8)。

図4. インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの同時接種(参考資料8より引用)
図4. インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの同時接種(参考資料8より引用)

まとめ

オーストラリアのインフルエンザ動向を見ていると、今年はインフルエンザと新型コロナの同時流行に注意が必要と考えられます。新型コロナが相対的に弱毒化してきたとはいえ重症化リスクが上昇する重複感染は、できれば避けたいものです。

インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの流通経路が違い、接種券の兼ね合いもあって、タイミングよく同時接種できる人ばかりではないかもしれません。

とはいえ、厚生労働省は今シーズンのインフルエンザのワクチンは、過去最多の供給量と発表しています。たとえ同時に接種できなくても、接種できるタイミングで両方接種しておくことが重要と考えます。

(参考)

(1) 第98回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年9月7日)資料3-2-①(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000987064.pdf

(2) Swets MC, et al. Lancet. 2022;399:1463‐1464.

(3) Dao TL, et al. J Clin Virol Plus. 2021; 1: 100036.

(4) Bai L, et al. Cell Res. 2021;31:395-403.

(5) Zhang AJ, et al. Clin Infect Dis. 2021;72(12):e978-e992.

(6) Kinoshita T, et al. Sci Rep. 2021;11(1):21259.

(7) Su S, et al. Cell Res. 2021;31(5):491-492.

(8) 第33回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会.【資料1】新型コロナワクチンの接種について(2022年7月22日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000968057.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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