結局、アクリル板は感染予防に効果的なのか?
「テーブル間は1メートル以上の間隔をあけるか、アクリル板等で区切る」という対応をしている自治体が多かったことから、アクリル板の設置を続けている飲食店はまだ多く、自治体ではこうした感染防止対策をおこなっている飲食店を認証店などに認定しています。果たしてアクリル板には意味があるのでしょうか?
アクリル板はいまだ飲食店の感染予防の主役
スーパーコンピューター富岳の試算によると、頭くらいの高さがあれば対面からの飛沫は防げるというデータが当初あり(1)、新型コロナが流行してから飲食店ではアクリル板を見かけることが当たり前になりました。
日本感染症学会は2021年8月6日の時点で「食事時にアクリル板を見ると、時に水滴が付いている。もしこの水滴がCOVID-19に感染した人の口から出たものだとすれば水滴の中にはウイルスが含まれていることになる」というコメントを出しています(2)。
飲食店の実際の運用としては、東京都では「事業者向け東京都感染拡大防止ガイドブック」の中で、アクリル板の設置を推奨しています(3,4)(図1)。
大阪府では「感染防止認証ゴールドステッカー認証基準」として、アクリル板を使用したパーティションが条件として提示されています(図2)(5)。
アクリル板を設置する場合、メリットだけでなくデメリットを天秤にかけなければいけないと個人的に考えています。
アクリル板のデメリット
たとえば頻繁にアクリル板を拭き上げられないフードコートでは、汚染に注意が必要です。誰がどう見ても汚れが残っているアクリル板を放置している店舗もちらほらあり、認証を得るためにアクリル板を設置することが形骸化しているところもあります。
■参考記事:気を付けたいフードコートでの新型コロナ感染リスク(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210817-00253648)
知り合い同士で飲食店に来店しても、アクリル板が撤去できないと会話が聞きづらいことが多く、普段より大声で喋るためにかえって飛沫が飛ぶという本末転倒な事態も起こりえます。
また、アクリル板を設置することで店舗内の換気が効率的におこなわれない可能性もあります。換気が不十分な室内環境では、感染予防のために設置したビニールシートやアクリル板のパーティションにより室内気の滞留が起こるという研究結果が示されています(7)。この研究は床面積180平方メートルのオフィスでおこなった実験で、熱流体シミュレーションを用いると、エアロゾルの動きがパーティションによってむしろ滞留することが観察されています。
まとめ
飛沫やエアロゾルを防ぐという観点からは、アクリル板の設置はもっともらしい対策に思われますが、実はこの遮蔽が飲食店における感染を減らすというエビデンスははっきりと示されていません。これは、スーパーのレジなどにおけるビニールカーテンも同様です。
大きな声を出さないといけない環境で、面と向かってそれを聞いているような場面ではアクリル板はあってもよさそうだというデータはありますが(6)、飲食店でルーチンにアクリル板を設置する根拠はモヤっとしています。
お世辞にもキレイとは言えないアクリル板を見ると、感染予防どころかむしろ不衛生なのでは感じることもあります。もう少し科学的な議論を進めていく必要がありそうです。
(参考資料)
(1) 飛沫やエアロゾルの飛散の様子を可視化し有効な感染対策を提案 ~「富岳」による新型コロナウイルス対策その1(URL:https://www.r-ccs.riken.jp/highlights/pickup2/)
(2) 一般社団法人日本環境感染学会. 一般市民の皆様へ~かからないために、かかった時のために~(URL:https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_tameni_210806.pdf)
(3) 東京都:事業者向け東京都感染拡大防止ガイドブック〈レストラン、料理店等編〉(URL:https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/008/459/0625-25.pdf)
(4) 東京都:事業者向け東京都感染拡大防止ガイドブック〈居酒屋編〉(URL:https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/008/459/0625-26.pdf)
(5) 大阪府:感染防止認証ゴールドステッカー認証基準(URL:https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/41130/00000000/1013ninsyoukizyun.pdf)
(6) Mirzaie M, et al. J Hazard Mater. 2021 Oct 15;420:126587
(7) Ishigaki Y, et al. medRxiv DOI: 10.1101/2021.05.22.21257321.(査読前論文)