新型コロナより人が死んだ「結核」 日本史上初の「低まん延国」入りへ
3月24日は世界結核デーです。「最近微熱と咳が続くんです、新型コロナが心配です」と言って来院した患者さん。胸部X線写真で肺炎のようなカゲがありましたが、新型コロナのPCR検査は陰性でした。もしかして、と調べた喀痰の中から大量の結核菌が見つかった・・・。
呼吸器内科ではこのようなことを時折経験します。新型コロナ以外にも、注意しなければならない感染症はたくさんあり、特にもともと二類感染症として位置付けられている結核は、放置されるとどんどん周囲に感染を広げてしまうことから、決して見逃されてはいけません。
結核は1950年までは死因のトップ
結核は、HIV感染症、マラリアとならんで「世界三大感染症」の1つとして位置づけられています。世界三大感染症対策は国連における持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)にも位置付けられています。
1950年以前の日本の結核患者数は年間60万人以上、死亡者数も年間10万人以上と言われており、国民の大半が結核に感染した経験があるほどの国民病でした。国が滅びるのではないかということで「亡国病」という別名もついていました。
結核は、当時の死因のトップであり、現在の新型コロナがかわいく見えるくらい感染者数も致死率も高かったのです。1950年頃からストレプトマイシンなどが使われるまでは、日光を浴びて外気に当たり安静にするなどの治療法しかなく(写真)、日本各地で多くの結核患者さんが亡くなっていきました。
正岡子規、樋口一葉、瀧廉太郎、石川啄木など、結核で亡くなった著名な日本人はたくさんいます。
さて、世界三大感染症である結核、HIV感染症、マラリアは現在もなお多くの患者さんが亡くなっている感染症であり、世界的にもこれらを根絶させることを目標としています。
具体的には「2030年までに、HIV感染症、結核、マラリアおよび顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症およびその他の感染症に対処する」というSDGsに沿って、「世界結核終息戦略」をかかげて世界的に結核の根絶に取り組んでいます。
死者数をグラフにすると各感染症の特徴がよく分かると思います(図1)。
ちなみに、新型コロナはわずか2年で500万人以上が亡くなっており、年単位で世界に居座り続けると、完全に世界四大感染症になってしまいます。
日本もようやく結核「低まん延国入り」
他の先進国の多くが低まん延国の水準である結核罹患率が10万人あたり10人を下回っているのに対し、これまで日本はそれ以上の中まん延の状態が続いていました。
しかし、結核研究所疫学情報センターの統計によると、2022年9月の年報で初めて10万人あたり10人を下回ることは確定的となっています。おそらく、日本史上はじめて「低まん延国入り」を果たすことになります(図2)。
コロナ禍で結核の診断数が減っただけ?
しかし、本当に結核対策がすすんでこの罹患率が達成されたのかどうかは議論の余地があります。その理由は、世界的に受診控え・健診控えが進んでおり、本来発見されるべきだった結核が見つかっていないだけではないかという見解があるからです(1)。
また、新型コロナの冷や水もあり、根絶に向けた達成速度が遅いことから、このままでは100年経っても結核は世界からなくならないという予想もあります。
新型コロナとどう区別する?
罹患率は10万人あたり9人なのでものすごくまれな感染症のように感じるかもしれませんが、実は大きな病院なら複数の患者さんが通院しているレベルの数字です(菌の排出が減れば外来通院可能)。
呼吸器内科の世界には「患者さんを診たら結核を疑え」という格言が長らく存在します。特に、咳、痰、発熱など、呼吸器感染症らしい症状があれば、新型コロナはもちろんですが、結核も頭に入れておく必要があります。
新型コロナとは違って、2週間以上症状が続くことが一般的なので、「風邪症状が長引いている」というときは、医療機関を早めに受診するようお願いします(図3)。
(参考)
(1) WHOが警鐘 コロナ禍で増加に転じた結核死者数(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20211020-00263908)
(2) 厚生労働省. 啓発ポスター「結核は、過去の病じゃありません。」(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/index.html)