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不織布マスクで黄砂やPM2.5を防げる? この時期のコロナ対策、換気のポイントは

倉原優呼吸器内科医
新型コロナ対策の換気で黄砂が入る(筆者作成:素材は看護roo!、いらすとや)

黄砂とは、中国内陸部のタクラマカン砂漠やゴビ砂漠などの乾燥地域で、風により巻き上げられた鉱物の粒子が偏西風に乗って日本に飛来する現象のことです。2.5μm(1µmは1mmの1000分の1)以下のように細かく砕かれた物質(PM2.5)も含み、健康被害をもたらすことが知られています。私たちが普段着用しているマスクは黄砂に効果があるでしょうか? また、黄砂が多い日は、新型コロナ対策の換気をどうすればよいでしょうか?

黄砂と微小粒子状物質(PM2.5)

黄砂は毎年3月から5月にかけて多くなります。黄砂の発生源であるタクラマカン砂漠やゴビ砂漠などでは、雪解けの後に露出した地面が極度に乾燥し、十分に植物が生えていないことから、黄砂が舞いやすくなります。ここに偏西風が吹くと日本に黄砂が飛来します(図1)。

図1. 黄砂の発生・輸送機構(出典:環境省ホームページ[https://www.env.go.jp/air/dss/kousa_what/kousa_what.html])
図1. 黄砂の発生・輸送機構(出典:環境省ホームページ[https://www.env.go.jp/air/dss/kousa_what/kousa_what.html])

黄砂は特定の物質で構成されているわけではなく、土壌に含まれるいろいろな鉱物が含まれています。ゆえに、黄砂の大きさはまちまちなのですが、平均すると約4µmです(図2)。通常の砂は20μm以上のことが多いので、かなり細かく砕かれた「粉」になって飛来することが分かります。

図2. いろいろな物質の大きさ(筆者作成:素材はイラストACから使用)
図2. いろいろな物質の大きさ(筆者作成:素材はイラストACから使用)

微小粒子状物質(PM2.5)とは、大気中に浮遊する小さな粒子のうち、粒子の大きさが2.5µm以下の非常に小さな粒子のことです。髪の毛の太さの約30分の1ですから、目に見えません。PM2.5は大きさで規定した用語なので、特定の物質で構成されているわけではありません。黄砂の中には、一部2.5μm以下の粒子も含まれているため、PM₂.₅の測定値も上昇することがあります。

粒子が小さいと、肺の奥に入り込んで、喘息や気管支炎を起こすこともあります。1~5µmあたりが最も肺に沈着しやすく、それ以上だと上気道に捕捉され、それ以下だと呼気中に吐き出されやすくなります。

黄砂は呼吸器系・循環器系に悪影響

湿度が低くカラっと晴れた天気に黄砂が飛来しやすく、また花粉症の時期と重複するため、耳鼻咽喉科や呼吸器科には多くの患者さんが受診されます(1)。PM₂.₅の影響も加わると、どれがどのくらいの割合で悪さをしているのかはっきりしませんが(2)、喘息(ぜんそく)などのアレルギー疾患を持っている人は、黄砂が多いときは外出を控えるなどの工夫が必要です。

黄砂の飛来は、特に小児喘息の悪化を招くことがよく知られています。学童児において、黄砂飛来後に、呼吸器系の救急受診や入院が増えることが示されています(3,4,6)。また、心筋梗塞などの循環器系疾患との関連性も報告されています(3,5-8)。

(素材はphotoACから使用)
(素材はphotoACから使用)

不織布マスクで黄砂吸入を予防できるか?

さて、新型コロナ対策として普段私たちが着用している不織布マスクによって、黄砂への対応は可能でしょうか?

不織布マスクは製品によって性能が異なりますが、概ね4~5µm程度のものまで捕集できます。そのため、黄砂の吸入を軽減する上で有効とされます(9)。よって、現在新型コロナで使用しているマスクをそのまま黄砂対策として用いても問題ありません。PM2.5も概ね吸入を予防できるとされていますが、世の中のあらゆる粒子を吸わないことを目指すというのは、なかなか難しいです。

すべての有害な粒子を吸わないという最大限の対策を講じるのであれば常にN95マスク以上の高性能マスクを着用することになりますが、非常に息苦しいですし、完全にフィットさせるには訓練が必要です。そのため、現実的な落としどころとして、粒子の大部分が捕集可能な不織布マスクで妥協するということになります。

コロナ禍の現在、換気はどうすればよいか

換気が不十分な空間だと、新型コロナの感染が広がりやすくなります。そのため、適度に窓を開けて換気することが勧められます。

しかし、高濃度の黄砂が飛来している場合、換気をすることで黄砂が室内に入ってくるというジレンマがあります。

どちらが正しいかという答えはありませんが、普段一緒に生活していない人と同じ空間で過ごす場合、基本的に換気が優先されます。反面、高濃度の黄砂が飛来している場合、家族と過ごす自宅では換気を頑張らなくてもよいと考えます。

このジレンマを解決するため、空気清浄機の設置を検討してもよいかもしれません。初期性能はHEPAフィルターと同等レベルであれば大丈夫です。フィルターの有無や性能など機種によって効果は異なりますが、0.3μm程度の大きさの粒子を除去できる性能があれば黄砂、PM2.5、花粉、新型コロナに関してかなり有効です。

ただし、適用床面積が合っていないと集じん効果が落ちます。大きい適用床面積のモデルの製品を選ぶほうがよいと考えます。

その他、マンションなどでは給気口にエアフィルターをつけておくと効果的です。

不要不急の外出を控える

極めて黄砂や花粉の飛散が多いときは、症状が出やすい人は不要不急の外出を控えるのも手です。黄砂の影響は飛来当日から数日後まで続きます。

黄砂やPM2.5がどのくらい注意すべき状況かを知るためには、環境省黄砂飛来情報「黄砂ライダー」や大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」を有効利用してください。

■黄砂ライダーhttp://www2.env.go.jp/dss/kosa/

■そらまめ君https://soramame.env.go.jp/

黄砂には健康影響があらわれる濃度に規定はありませんが、0.3mg/m³を超える濃度の場合、黄砂がフロントガラスに付着するくらいの黄砂飛来があると考えられます。PM2.5は、1日平均値70μg/m³を超えると健康被害を生じる可能性が高くなると考えられています。健康な人ではほとんど問題ありませんが、喘息を持っている子どもでは注意が必要です。

(参考)

(1) Majbauddin A, et al. J Environ Public Health. 2016;2016:8280423.

(2) Kashima S, et al. J Occup Environ Med. 2014 Dec;56(12):1277-83.

(3) Hashizume M, et al. Environ Health Perspect. 2020 Jun;128(6):66001.

(4) Nakamura T, et al. J Epidemiol. 2016 Nov 5;26(11):593-601.

(5) Kashima S, et al. Epidemiology. 2017 Oct;28 Suppl 1:S60-S66

(6) Teng J, et al. Public Health Nurs. Mar-Apr 2016;33(2):118-28.

(7) Chan C, et al. Environ Res. 2008 Mar;106(3):393-400.

(8) Kashima S, et al. Occup Environ Med. 2012 Dec;69(12):908-15.

(9) 環境省. 黄砂とその健康影響について(URL:http://www.env.go.jp/chemi/mat01_1/105328_1.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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