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大阪府の新型コロナ病床使用率100%超とはどういう状況か 軽症中等症病床の逼迫の現状

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

大阪府では軽症中等症病床使用率が一時117.9%に到達しました。これは「大阪府内で確保されている軽症中等症病床を超える軽症~中等症患者さんが発生していること」を意味していますが、いったい何が起こっているのでしょうか?

軽症中等症病床使用率がまさかの100%超え

第4波と第5波で医療が逼迫しても、軽症中等症病床使用率が100%に到達することはありませんでした。これは、アルファ株とデルタ株の重症度が高くても、全体の感染者数が少なかったためです。

しかし、第6波でとうとう100%を超えてしまいました。2月14日に117.9%という数値を記録しました(図1)。

図1. 2月16日時点の大阪府の軽症中等症病床使用率(筆者作成)
図1. 2月16日時点の大阪府の軽症中等症病床使用率(筆者作成)

コロナ病棟の外で新型コロナを診る事態に

現在、大阪府内の多くの病院でコロナ病棟を有しています。第4波の頃は確保病床2000床程度でしたが、現在は1.5倍以上の確保病床で、多くの民間病院でもコロナ病棟を運用するようになりました。本当にありがたいことです。

しかし、第6波で暗躍しているオミクロン株は伝播性が高く、院内に感染者が入り込みやすいステルス戦闘機みたいな特徴はこれまでのウイルスに引けを取りません。全く違う病気で受診したのに、入院時検査で新型コロナが陽性になった話をよく聞きます。

また、病院職員も多数感染しています。病院の循環を維持する原動力である職員がひとたび感染すれば、長期間の療養を強いられることから、病院がまともに運営できない状況になります。

院内クラスターが出てしまった場合、全員をコロナ病棟に移送すれば、他の患者さんと隔離することが可能です。しかし、院内のコロナ病棟がわずかしかない状況で、院内で多数の陽性者が出てしまった場合、他院のコロナ病棟へ転院させる必要があります。とはいえ、軽症中等症病床は大阪府内はもうどこも満杯に近い状態なのです。

となると、病院としては院内の別のエリアに新型コロナ患者さんをまとめて隔離する策を講じなければいけません。つまり、別の病棟に新型コロナ患者さんを集めて「臨時コロナ病棟」を作るというわけです (図2)。

図2. 臨時コロナ病棟を作ると病床使用率は100%を超える(筆者作成)
図2. 臨時コロナ病棟を作ると病床使用率は100%を超える(筆者作成)

これにより、本来の確保病床よりも多くの新型コロナ患者さんが、本来のコロナ病棟の外にあふれている状況に陥っています。そのため、病床使用率が100%を超えているのです。

現在、大阪府内で新型コロナを受け入れている病院198施設のうち、40施設以上が100%を超過して運用せざるを得ない状況です。

「数の力」により入院を要する肺炎が急増

入院を要する患者さんの数は、「感染者数×重症化率」の掛け算で決まります。重症化率は確かにデルタ株より低いのですが、このメリットを吹っ飛ばすくらい感染者数がいます。

そのため、コロナ病棟の体感としては第4波・第5波に匹敵するくらい肺炎が多く、大阪人としては「オミクロン株のどこが風邪やねん!」とツッコミたくなる状況が続いています。

医者なら誰でもピンとくる、典型的な新型コロナ肺炎は、この2週間でたくさん診ました。ピンとくる、というのは胸部画像検査で新型コロナの肺炎というのはとても特徴的だからです(図3)。

図3. オミクロン株による中等症IIの新型コロナ(両肺に広範囲の肺炎がみられる:患者さんの同意を得て掲載)
図3. オミクロン株による中等症IIの新型コロナ(両肺に広範囲の肺炎がみられる:患者さんの同意を得て掲載)

重症病床に転院しない「中等症II」が多い

2月に入ってから2週間で、当院のコロナ病棟(稼働病床60床)に入院したのは71人です。1日約5件ペースで新規入院が続いている状態です。

このうち、酸素療法などを要した急性呼吸不全の状態、すなわち「中等症II」以上は全体の半数以上にのぼります。第4波に匹敵するほどの頻度です。

「高齢者が多いため基礎疾患が悪さをして亡くなる」は事実ですが、入院にいたる新型コロナを連続的に診ていると、やはり肺炎の頻度がかなり高い印象です。基礎疾患だけで亡くなっていくだけでなく、新型コロナ肺炎の毒性に耐え切れずに亡くなるケースもたくさんいます。

季節性インフルエンザの致死率と比較することにはあまり意味はありません。検査閾値・制度がそもそも異なるので、母数に大きな乖離があります。新型コロナほど広く検査されない季節性インフルエンザの致死率は、やや高めに算出されます。

「入院を要するインフルエンザ」と「入院を要するオミクロン株」の両方を長らく診療している身としては、圧倒的に後者のほうが肺炎の頻度が高いと考えます。あくまで現場の私見です。

さて、酸素療法が必要な「中等症II」の状態でやってきた場合、人工呼吸器について話をしておく必要があります。もし人工呼吸器等の集中治療を希望される場合、通常の酸素療法で酸素飽和度が維持できない局面にくると、重症病床へ転院の手続きをすすめなければいけません。

しかし、高齢者の場合、家庭内ですでに話し合いが行われていることもあり、「人工呼吸器は希望しない」と明言される患者さんもたくさんいます。人工呼吸器等の集中治療の適応がなければ、基本的に軽症中等症病床で診療し続けます(図4)。

図4. 軽症中等症病床と重症病床の選択(筆者作成)(素材:いらすとや、看護roo!)
図4. 軽症中等症病床と重症病床の選択(筆者作成)(素材:いらすとや、看護roo!)

当院における第6波の入院患者さんの平均年齢は77歳です。重症病床に転院して人工呼吸器を装着して集中治療を受けますと言う人は、多くありません。それゆえ、第1~5波とは違い、中等症IIの多くが軽症中等症病床に留まるという現象が起こっています。

高齢者の中等症IIは、在院日数が長くなります。発症から10日間経過しても、後方支援病院は中等症IIでの受け入れにさすがに難色を示されることもあります。

「大阪コロナ大規模医療・療養センター」は、介護を要さない人を対象としているため、中等症IIから回復した高齢者は、なかなかここに転院できません。

そのため、軽症中等症病床はだんだん中等症IIの患者さんが埋まっていく構造になりつつあります。

院内発生例は自院で診る

さて、2月14日、大阪府は第68回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議において、もし病院で新型コロナ陽性と判明した患者さんがいた場合、特措法第24条に基づき、引き続き自院で治療をおこなうよう通知を出しました(1)。

これは、すでに大阪府の軽症中等症病床が満床に到達してしまい、転院させたくてもできない事態に陥っているからです。そのため、自施設のコロナ病床が満床の場合、上述したような臨時病床を院内に作って対応するしかありません。

こうなると、自施設のコロナ病棟キャパを超える患者さんを診なければならないわけですから、病院のマンパワーが足りなくなります。そうなると、新たな軽症中等症患者さんを引き受けられないことにつながりかねません。

まとめ

大阪府の軽症中等症病床使用率が100%を超えた理由は、重症病床の適応にならない軽症中等症患者さんがコロナ病棟外にあふれてしまったためです。

他病棟を丸ごとつぶして臨時コロナ病棟に転用している施設もあり、これにより新型コロナ以外の疾患の受け皿が枯渇しつつあります。外科手術や救急を止めている病院も増えてきました。

明確な有効打がないまま第6波が自然に過ぎてしまう可能性もありますが、今後の医療リソースに関して課題を残す波になるかもしれません。

(参考)

(1) 第68回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議(URL:https://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku_keikaku/sarscov2/68kaigi.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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