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海外でインフルエンザ流行のきざし 「今年はワクチンを接種しなくても大丈夫」という油断に注意

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

忘れてはならないインフルエンザ

オミクロン株で世界中がざわついていますが、忘れてはならないのがインフルエンザです。国内では、去年に引き続き今年も流行しないという見解が主流です。実際、日本の報告は去年よりも少ない状況で、グラフでもどこに線があるのか分からないくらい少ないです(図1:グラフの一番下の直線)(1)。

図1. 日本における季節性インフルエンザの患者報告数(参考資料1より筆者作成)
図1. 日本における季節性インフルエンザの患者報告数(参考資料1より筆者作成)

インフルエンザの流行レベルは全世界的にも低いことは間違いありませんが、昨シーズンに比べると高い傾向にあります

たとえば、ヨーロッパ疾病予防管理センター(ECDC)によると、クロアチアではすでに例年の同時期を上回る数の患者が確認されているとのことです(2)。同様に、アメリカでも流行のきざしが観察されています(図2,3:確定例を報告しているニューヨーク州データも提示)(3,4)。もっとも顕著なのがニューメキシコ州です。明確に2年前の流行を超えてくる水準で患者数が増えています。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)も、昨年とは異なり患者数が増えていることから、インフルエンザの増加に現在警鐘を鳴らしています。

クロアチアもアメリカも、ほとんどがA型のインフルエンザです。

図2. アメリカにおけるインフルエンザ様疾患患者の割合(参考資料3より)
図2. アメリカにおけるインフルエンザ様疾患患者の割合(参考資料3より)

図3. ニューヨーク州における季節性インフルエンザの患者報告数(参考資料4より)
図3. ニューヨーク州における季節性インフルエンザの患者報告数(参考資料4より)

前シーズン、インフルエンザにかかった人が少なかったため、日本では集団免疫が形成されていない可能性があります。そのため、ひとたび新型コロナとインフルエンザがダブル流行となってしまうと、患者急増によって医療逼迫のリスクが上がるかもしれません。

新型コロナとインフルエンザの重複感染は起こりうる?

新型コロナ界ではやや古いイギリスのデータですが、2020年1月~4月にインフルエンザあるいは新型コロナが疑われ、両方を検査した1万9,000人あまりの人のうち、58人(0.3%)が両方陽性だったという報告があります(5)。

解析すると、新型コロナとインフルエンザの両方に重複感染した人の死亡リスクは、感染がなかった人と比べて5.92倍高いことが分かりました(図4)。人工呼吸器の使用や集中治療室(ICU)へ入室するリスクも重複感染者で高いことが示されました。

図4. 新型コロナとインフルエンザの重複感染によるリスク(参考資料5より)
図4. 新型コロナとインフルエンザの重複感染によるリスク(参考資料5より)

これまでは異なるウイルスに重複感染することはまれと考えられてきましたが、ハムスターを用いた長崎大学の研究によると、新型コロナとインフルエンザに重複感染した場合、単独のウイルス感染時よりも肺炎が重症化し、回復も遅れることが明らかになっています(6)。

実際にはこのような重複感染は起こりにくいと思いますが、インフルエンザが流行して、感染性の高い新型コロナの変異ウイルスが蔓延すると、絶対数が増えるかもしれません。

今年のインフルエンザワクチン接種は必要?

「新型コロナの感染対策をしっかりしているので、インフルエンザにもかからない自信がある」

「流行しないだろうから、今年はインフルエンザワクチンを接種しなくてよい」

「インフルエンザワクチン接種の予約が取れなかったので、もうあきらめた」

「私は健康体だから、そもそもワクチンは不要だ」

(「ぱくたそ」より使用)
(「ぱくたそ」より使用)

今季、上記のように考えている人が多いかもしれません。確かに、インフルエンザワクチンの流通が後ずれしてしまい(7)、10~11月のワクチン接種希望者が多かったことから、接種を見送られたケースもありました。しかし、現在ほぼ例年水準でワクチンが確保されつつありますので、接種できるクリニックや病院を探してみてください。

日本感染症学会や日本小児科学会は、インフルエンザワクチンの接種を積極的に推奨しています(8,9)。医学的には新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを同時に接種しても問題ありませんが(10)、日本では新型コロナワクチン接種前後2週間空けるよう定められています。

インフルエンザにかかることが健康上のリスクに直結する妊婦、高齢者、基礎疾患のある人などは、可能なら年内にインフルエンザワクチンを接種するほうがよいでしょう。

(参考)

(1) 厚生労働省 インフルエンザの発生状況(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou.html

(2) ECDC. Early influenza cases indicate the possibility of severe upcoming season for elderly.(URL:https://www.ecdc.europa.eu/en/news-events/early-influenza-cases-indicate-possibility-severe-upcoming-season-elderly

(3) CDC. Weekly U.S. Influenza Surveillance Report.(URL:https://www.cdc.gov/flu/weekly/index.htm

(4) NYS Health Connector(URL:https://nyshc.health.ny.gov/web/nyapd/new-york-state-flu-tracker

(5) Stowe J, et al. Int J Epidemiol. 2021 Aug 30;50(4):1124-1133.

(6) Kinoshita T, et al. Sci Rep. 2021 Oct 28;11(1):21259.

(7) 今年はインフルエンザワクチンが不足? 新型コロナワクチンの接種スケジュールにも注意が必要(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20211001-00260485

(8) 日本感染症学会. 2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方(URL:https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=44

(9) 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会. 2021/22 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針―2021/22シーズンの流行期を迎えるにあたり―(URL:http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=93

(10) Lazarus R, et al. Lancet. 2021 Nov 11;S0140-6736(21)02329-1.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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