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コロナ禍の「面会制限」 高齢者施設が緩和の方向へ 病院における面会はまだ手探りの状態

倉原優呼吸器内科医
photoACより使用

高齢者施設のクラスターが減少

11月13日現在、新型コロナワクチンを2回接種した人は9,400万人以上にのぼります。新型コロナワクチンが接種可能な12歳以上の人口において、2回接種率は実に8割を超えています。

個々の感染対策に加えて、新型コロナワクチン接種が広く普及することにより、高齢者施設等におけるクラスター数は激減しました。いまだに施設では、窓やビニール越しの面会にとどめているところもあり、対面で面会が実施できるところのほうが少ないかもしれません。

2021年11月9日の「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」において、1つの考え方が示されました(1)。具体的には以下のようなものです(図1)。

  • 面会については、引き続き、感染経路の遮断と、つながりや交流が心身の健康に与える影響という両方の観点を考慮し、地域における発生状況等を踏まえることに加え、ワクチン接種の進展等を踏まえ、安全な実施方法を検討することが適当。
  • 具体的には、地域における発生状況や都道府県等が示す対策の方針等も踏まえるとともに、入居者及び面会者のワクチン接種歴や検査結果も考慮した上で、管理者が、面会時間・回数を含めた面会の実施方法を判断すること。
  • その際、入居者及び面会者がワクチン接種済み又は検査陰性と確認できた場合には、対面での面会の実施を検討することとする。
  • なお、ワクチンを接種していないことを理由に著しく不当な扱いとならないよう留意し、ワクチンを接種していない入居者や面会者も交流が図れるように検討すること。
  • いずれの場合でも、面会実施の際には、引き続き、感染防止対策を行うことが必要。

図. 高齢者施設において対面で面会を実施している事例(参考資料1より)
図. 高齢者施設において対面で面会を実施している事例(参考資料1より)

つまり、「新型コロナワクチンを接種した家族や新型コロナ検査が陰性の家族とは、面会を再開できるようにしましょう」ということです。面会制限によって心身ともに疲弊した入所者や家族が多かったと思いますので、感染防止対策に注意しながらという条件付きではありますが、面会が緩和されていくと予想されます。

悩ましい「病院」の対応

コロナ禍では、多くの病院で面会ができなくなりました。一部の緩和ケア病棟や小児科病棟などでは、やむを得ず許可という事情もありましたが、ほとんどの病院では第5波までは面会制限されていました。

この理由の一因は、厚労省および官邸の通達(2,3)です。「面会については、感染経路の遮断という観点から、感染の拡大状況等を踏まえ、必要な場合には一定の制限を設けることや、面会者に対して、体温を計測してもらい、発熱が認められる場合には面会を断るといった対応を検討すること。また、面会のやり方としてオンライン面会の実施等も考えられるので、検討すること」および「面会者からの感染を防ぐため、面会は、地域における発生状況等も踏まえ、患者、家族のQOLを考慮しつつ、緊急の場合を除き制限するなどの対応を検討すること」という文言により、面会を制限する施設が多いのです。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

多くの外来・入院患者さんを抱える病院の感染制御チームには、院内クラスターを防がねばならないという使命があります。無症状の人から新型コロナが伝播していく病院をいくつも見聞きしているので、「ステルス爆撃機」のようなこのウイルスを院内に持ち込ませない対策が必要でした。万が一院内クラスターに発展した場合、部門の規模縮小や入院制限など、病院や地域住民にとってダメージが大きくなるリスクを孕んでいました。

今後、国内ではっきりと指針が示されれば右にならえでよいと思いますが、高齢者施設と同様に病院の面会制限を緩和してよいのかは、全国的に手探りの状態です。いつ第6波が来るかわかりませんし、高齢者施設とは違い病院に入院しているのは病気の患者さんです。

11月13日現在、原則的に面会を禁止している大学医学部附属病院(病状説明時などの特例を除く)は、防衛医科大学校を含めた81大学病院中75病院(92.6%)にのぼります。とはいえ、残りの大学病院は10月の緊急事態宣言緩和以降、条件付き(新型コロナワクチン接種証明など)で面会制限の緩和に動いています。

■実際に面会制限が緩和された病院の規定(例)

・新型コロナワクチンの2回目接種日から2週間が経過している、または、面会日を含め3日以内に実施したPCR検査の陰性証明書を持っている家族。

・面会家族は、1人に限定する。

・面会時間は30分以内。

・病室への入室はご遠慮いただく。

・面会時の飲食は禁止。

免疫抑制状態の患者さんがたくさん入院している高度専門施設などでは、いまだに面会制限が継続されているところが多いです。第6波を意識している現状で、全国的にどんどん面会をすすめていこうというコンセンサスは得られていません。

タブレットなどを用いたオンライン面会はコロナ禍で急速に普及しましたが、やはり画面越しの面会では、十分なコミュニケーションが取れません。対面で面会して「具合はどう?」と語り合えるような、コロナ禍前まで当たり前だった風景が戻ることを心から願っています。

(参考資料)

(1) 第58回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料(令和3年11月9日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000853139.pdf

(2) 医療施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000685821.pdf

(3) 新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和3年9月28日変更).(URL:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihon_r_030928.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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