新型コロナに対して「うつ伏せ寝」は有効か? 呼吸器内科医の見解
はじめに
うつ伏せで寝ることを、医学的には「腹臥位(ふくがい)」と呼びます。新型コロナで現在「うつ伏せ寝治療」(腹臥位療法)が注目されていますが、なぜこの治療法が話題になったのかという経緯と、実際に効果があるのかどうか解説させていただきたいと思います。
「うつ伏せ寝治療」はコロナ禍の前からあった
新型コロナ以外にも、肺炎を起こす病原微生物は数多くあります。重症の肺炎になる患者さんはこれまでもたくさんいました。
さて、重度の肺炎が起こってしばらく経つと、背中側の空気の入りが悪くなることが分かっています。これは、普段あお向けに寝ているため、肺炎と戦った残骸などが背中側にたまりやすいからです。
私たちが吸っている酸素は、肺の血管で血液にバトンタッチされます。ここから全身に酸素が旅をすることで、私たちは元気に生活できるのです(図1)。
血液は液体なので、重力に影響されます。そのため、あお向けに寝ている場合、背中のほうに血液が多く流れます。となると、肺の背中側でたくさん酸素がバトンタッチされることになりますね。
背中側にひどい肺炎を起こしていると、このバトンタッチが非効率的になります。背中側にたくさん血流が流れているのに、肝心の肺がやられていては意味がないからです。
そこで、「うつ伏せ寝になって肺炎が少ない肺を下にして血液が流れるようにすればいいのでは」と考えついた人がいました(図2)※。
※実はもっと複雑なメカニズムなのですが、ここでは簡単に書いています。
中等症~重症の新型コロナでは効果がある
実際、重症の肺炎では「うつ伏せ寝治療」の有効性が示されています(1,2)。人工呼吸器を装着した患者さんでは、ひっくり返すのにたくさんの人手が必要で大変なのですが、酸素飽和度が回復します。私も呼吸器内科医になったばかりの頃に目の当たりにして、ビックリしました。
新型コロナにおいても、重症で人工呼吸器を装着した場合、コロナ病棟のマンパワーが許容されれば、うつ伏せ寝治療を行うことがあります(写真)。
また、酸素投与が必要な中等症の新型コロナ患者さんに対して、「できるだけうつ伏せ寝で過ごしてもらう」ことを続けてもらうと、その後人工呼吸器を装着するリスクが減らせたという報告もあります(3,4)。ただ、8時間くらいうつ伏せ寝の時間が確保できないと、効果は乏しそうです。
では、自宅や宿泊施設で療養している新型コロナの患者さんが、うつ伏せ寝を行う意味はあるのでしょうか?
軽症でも「うつ伏せ寝治療」は有効か?
現時点では、酸素投与の要らない軽症患者さんがうつ伏せ寝を頑張って、医学的に意味があるのかどうかは定かではありません。検索した限りでは、効果的とする小規模な研究が1つあるだけです(5)。
医療逼迫時、当院のコロナ病棟でも、人工呼吸器装着を回避するべく患者さんにうつ伏せ寝を頑張ってもらっていたことがあります。しかし、「できるだけうつ伏せで過ごしてください」と言われても、なかなか難しいものです。首も腰も肩も、アチコチ痛くなってきます。また、うつ伏せになったほうが、むしろ呼吸がしづらくてしんどいという人もいます。
日中スマホをいじるときや読書するときだけうつ伏せになるくらいでは、おそらく効果はないでしょう。また、普段からうつ伏せで寝ていない人が頑張ってうつ伏せで入眠しても、朝起きたらいつの間にかあお向けになっている可能性が高いです。
そのため、たとえば普段からうつ伏せ寝をしている人でない限り、無理にうつ伏せ寝での生活をする必要はありません。
酸素を吸わないといけない状態で、酸素濃縮器が入手できない、入院あるいは酸素ステーションなどへの入所のめどが立たないような場合、主治医と相談の上で「うつ伏せ寝治療」を行うことは、ありだと思います。
ちなみに、完全にうつ伏せでなくとも、横を向いて寝る「側臥位(そくがい)」の体勢も有効とされています。
大事なのは、酸素飽和度が上がって呼吸が楽になる自分なりの姿勢を探すことだと思います。
(参考)
(1) Guérin C, et al. N Engl J Med. 2013;368(23):2159.
(2) Bloomfield R, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Nov 13;2015(11):CD008095.
(3) Perez-Nieto O, et al. Eur Respir J. 2021 Jul 15;2100265. doi: 10.1183/13993003.00265-2021.
(4) Ehrmann S, et al. Lancet Respir Med. 2021, DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00356-8.
(5) Liu X, et al. Med Clin (Engl Ed). 2021 Apr 23;156(8):386-389.