はじめに

ワクチンに限らず、注射した場所に腫れや痛みを起こすことがあります。ほとんどが2~3日でよくなりますが、特に初日の夜~2日目にかけて痛いという意見が多いのが今回の新型コロナワクチン。私は、接種後に発熱があったので解熱鎮痛薬を飲みました(1,2)。

モデルナ社製のワクチンの場合、5~11日後にかゆみを伴う赤みが出てくることがありますが、これは遅発性の過敏反応です(3)。これも基本的には心配いりません。

さて、新型コロナワクチン接種後の腫れや痛みに対して、「湿布を貼る」という治療が広まっているそうです。果たして、これには意味があるのでしょうか。

湿布の有効性

患部に湿布を貼ると、鎮痛消炎成分が皮膚から患部へと吸収され、腫れや痛みが抑えられます()。湿布は日本で広く用いられていますが、実は海外ではそれほど普及していません。これは、湿布が強いエビデンス(医学的根拠)を持っていないためです。

ワクチン接種後の湿布(筆者作成)
ワクチン接種後の湿布(筆者作成)

湿布という薬剤自体が欧米では全く一般的ではないため、湿布の大規模な臨床試験がほとんど行われていないという現状があります。

湿布を販売している製薬会社の社内資料(4)では、臨床試験が紹介されています。慢性疼痛がある関節リウマチ患者さん676人を集めて、ケトプロフェンという成分が含まれた湿布と、何も薬効成分が含まれていない湿布のどちらかを無作為化して貼り付けたところ、ケトプロフェン湿布で痛みが減ったと報告されています。

アジアや製薬会社主導の臨床試験ではこうした報告はあるものの、「痛み止めに湿布を使いましょう」という国はかなり少ないです。また、海外では「ワクチンの痛みに対して湿布を使う」という発想すら出ないでしょう。

なぜか国内ガイドラインで「冷湿布」の記載が

今回の新型コロナワクチンに関してもっともよく参照されるのが、日本感染症学会のCOVID-19ワクチンに関する提言 (第3版)」です(5)。ここには、「接種後の発熱や疼痛に対してアセトアミノフェンや非ステロイド性解熱鎮痛薬を使用することは可能です」と書かれていますが、解熱鎮痛薬が錠剤なのか湿布などの外用薬なのかは書かれていません。

しかし、医師がこの提言を読んで、「湿布だ」と思うことはないでしょう。基本的に錠剤を内服することを想起するはずです。

もう少し視野を広げてみましょう。新型コロナワクチンに限らない場合、そういう記載がガイドラインにあるかどうかです。

たとえば、「医療関係者のためのワクチンガイドライン第3版」(6)では、接種後に腫れることはあるとは書いていても、その具体的対処法については記載がありません。

肺炎球菌ワクチン接種に関して、日本感染症学会の「肺炎球菌ワクチン再接種に関するガイドライン」で突っ込んだ記載があります(7)。「予防接種後の局所の副反応は3~4 日で消失するが、熱感、発赤の強いときには局所の冷湿布を行う。なお、接種部位を中心に上腕全体、あるいは前腕にまで及ぶ局所の副反応が接種から2~3 日後をピークにみられることがあるが、局所の保存的な処置(冷湿布、ステロイドホルモン剤や抗ヒスタミン剤の塗布等)で消退する」。おお!ここでついに冷湿布が登場しましたね。

その他、「造血細胞移植学会ガイドライン第1巻 予防接種 第3版」(8)によると「一般に発赤・腫脹は3~4日で消失するが、熱感、発赤のひどいときには局所の冷湿布を行う。硬結は次第に小さくなり、1カ月後でもなお残る場合もあるが放置してよい」と書かれています。

というわけで、エビデンスがはっきりしているわけではないものの、国内のいくつかのガイドラインではワクチン接種後の熱感や発赤に対して冷湿布の貼付を暗に認めている、ということが言えそうです。

貼るなら、温湿布?冷湿布?

冷湿布は、急性の疼痛や捻挫など強い炎症を起こす場合に用いられます。冷湿布は痛みを抑える作用以外にも、患部に冷感を与えることが可能です。あくまで冷感であって、メントールなどで爽快感を出しているにすぎません。本当に冷却したいなら、氷嚢やアイスパックを使ったほうが効果的です。

他方、温湿布は、慢性的な肩こりや腰痛などに用いられます。患部に温感があるので、なんとなく血行がよくなるイメージがあります。ただ、冷湿布と同じく、患部を温めることが目的ならば、蒸しタオルやホットパックを使ったほうが効果的です。

写真:rammy2/イメージマート

とはいえ、実は患部の痛みに対して温めるほうがよいのか冷やすほうがよいのか、データはほとんどありません。急性腰痛を起こした被験者60人に対して、イブプロフェン内服+55度の温熱療法、イブプロフェン内服+マイナス1.8度の冷却療法のどちらかを実施する群に割り付けた研究がありますが、疼痛の軽減に差はありませんでした(9)。

確固たる医学的データに基づいて温湿布と冷湿布の使い分けがなされているわけではないのです。

通説に準じて使うなら、ワクチン接種後の腫れや痛みに対しては冷湿布のほうがよいのでしょうが、温湿布との差を如実に実感するほどの選択ではないと思われます。

光線過敏症に注意

湿布を貼った後、日光に当たると赤くなることがあります。特にケトプロフェンという成分を含む湿布では、太陽光に当たると光線過敏症という皮膚炎を起こすことがあるので注意が必要です。湿布をはがした後も皮膚に成分が残るため、しばらく太陽光にあたるのは控えたほうがよいかもしれません。そのため、ケトプロフェンを含む湿布の説明には「はがした後も4週間程度は貼っていた部分に日光を当てないように」と記載されています。

ワクチンの副反応で赤くなった皮膚に、光線過敏症などが加わってさらに皮膚炎が悪化すると目も当てられなくなるため、個人的にはどうしても痛いなら錠剤の解熱鎮痛薬を飲めばよいと思っています。また、湿布のほうが鎮痛成分の吸収が悪いですから、ここで敢えて湿布を選ぶ必要はなさそうに感じます。

(参考)

(1) 新型コロナワクチン接種後の発熱・疼痛 解熱鎮痛薬を飲んでもよいか?(追記あり)(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210517-00237645)

(2) 新型コロナワクチン、どちらの腕に接種すべきか? 接種医の経験から(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210604-00238774)

(3) モデルナ社製ワクチン接種後の「モデルナアーム」について分かっていること(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210715-00248044)

(4) 久光製薬集計資料.関節リウマチの臨床試験に関する資料.

(5) 日本感染症学会. COVID-19ワクチンに関する提言(第3版)(URL:https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2106_covid-19_3.pdf)

(6) 日本環境感染学会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン第3版. (URL:http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/vaccine-guideline%EF%BC%BF03.pdf)

(7) 日本感染症学会. 肺炎球菌ワクチン再接種に関するガイドライン. (URL:https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/pneumococcus_vaccine.pdf)

(8)造血細胞移植学会ガイドライン第1巻. 予防接種 第3版. (URL:https://www.jshct.com/uploads/files/guideline/01_05_vaccination_ver03.pdf)

(9) Garra G, et al. Acad Emerg Med. 2010 May;17(5):484-9.