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新型コロナで入院したら、どういう治療を受けるのか? 入院期間・復職は

倉原優呼吸器内科医
(写真:show999/イメージマート)

コロナ病棟の入院患者さんからよく聞かれる質問

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院してきた患者さんによく聞かれるのは、「どういう治療を受けるんですか?」「いつまで入院するんですか?」「職場には復帰できますか?」という3つの質問です。

具体的な治療

まず、急性のウイルス感染症全般に言えることですが、新型コロナには「根治的」な治療法というものはなく、自身の免疫応答とウイルス毒性の嵐が過ぎ去るのを待つしかないという側面があります。根治的ではないものの、いくらか効果がある治療法が確立されており、それらの適応にある患者さんは入院対象となります。

①酸素療法が必要

指にはさむパルスオキシメーター(写真)という機械で測定することができる「酸素飽和度」が低いと、入院の対象になります。体の中に酸素が足りていないということを意味しており、酸素療法をおこなわないと息がしんどいからです。症状だけでなく、他の臓器にもダメージが出ることがあるため、酸素飽和度が90~93%を下回っていると、酸素を吸っていただく必要があります。

パルスオキシメーター
パルスオキシメーター写真:アフロ

スポーツ用品店などに置いてある、酸素スプレー缶は無意味です。一時的に酸素が体内に入りますが、1分間にヒトは12~15回呼吸する生き物です。スプレー缶は、あっという間に空っぽになってしまうでしょう。また、呼吸ごとに適切な濃度の酸素を吸わないといけませんから、呼吸のたびに毎回シューっと押すのは現実的ではありません。

酸素療法については、前回の記事に詳しく書いたので、そちらをご覧ください。

■新型コロナの「重症化」とは? 人工呼吸器を装着したら、実際どうなるのか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210504-00235518/

②脱水を補う点滴が必要

食事や水分が摂れない人。これは入院対象です。新型コロナは高熱が出る疾患ですから、口からモノが入らないと、あっという間に脱水に陥ってしまいます。入院して脱水に陥らないよう、十分な輸液をおこない、高熱に対して解熱薬を用います。

③抗ウイルス薬やステロイドの適応

新型コロナによって肺炎を起こしていて、酸素飽和度が低い場合、抗ウイルス薬やステロイドの点滴をおこなうことがあります。

抗ウイルス薬というのは、その名の通りウイルスの増殖を抑える薬剤のことです。富士フイルム富山化学のファビピラビル(商品名アビガン)という錠剤が有名です。2021年4月末に「国内で新たな臨床試験を開始する」と発表されましたが、現場ではこれを用いる機会はかなり減っている状況です。また、高熱でしんどい状況で、初日に18錠のアビガンを飲むのはなかなか大変です。2021年5月現在は、ギリアド・サイエンシズのレムデシビル(商品名ベクルリー)という抗ウイルス薬を点滴で用いることが多いです。世界で広く実施された臨床試験の結果に基づいて、これを使ったほうが回復が早くなると報告されたからです(1)。外国の点滴製剤なので、英語のパッケージで病棟にやってくるため「なんだかオシャレね」と看護師が言っていました。

ギリアド・サイエンシズ
ギリアド・サイエンシズ写真:ロイター/アフロ

また、ステロイドという炎症を抑える薬を点滴します。錠剤でも構わないのですが、ベクルリーを点滴することが多いため、ステロイドもついでに点滴で入れてしまうことが多いです。「ステロイド」と聞くと、なんか体によくない不気味な薬剤というイメージを持っている人が多いかもしれませんが、適切に使えばまったく怖くありません。デキサメタゾンという名前のステロイドを1日1回点滴します。

比較的重症の場合、上記2つに加えて、過剰な免疫を抑える薬剤を使うこともあります。関節リウマチなどで使われています。「身体中の免疫を全集中して、大きな肺炎を起こすぞー!」と暴走しそうになっている免疫を「まぁ落ち着けよ」と抑えて、肺炎の火柱が大きくならないようにする作用があります。この中でも、日本イーライリリー株式会社のバリシチニブ(商品名オルミエント)という錠剤は、上述のレムデシビル、デキサメタゾンに続いて、3つ目の新型コロナ国内承認薬として認可されました。

コロナ病棟の入院期間は?

軽症・中等症・重症で入院期間が異なりますが、入院を要する新型コロナ患者さんの平均値をとると、おそらく10~14日あたりになると思います。人工呼吸器などを装着しなければならない重症になると、1ヶ月近くにおよぶこともざらです。

新型コロナには「発症から10日(重症の場合15日)かつ72時間症状が軽快している」という退院基準が定められています(宿泊療養・自宅療養の解除基準も同じ)。

極端なケースでは、発症7日目に入院した場合、入院初日から症状が軽快しておれば3日後に退院できます。ただ、強い症状があって入院した人がほとんどですから、入院して3日後に退院できることはまずありません。(そもそもそういう人は軽症なので、自宅療養かホテル療養になる)。

また、入院中はコロナ病棟の外に出ることができません。自由に出てしまうと、他の患者さんに感染を広げてしまうことになります。そのため、基本的には病棟内に「缶詰隔離」状態になります。

ホテルと同じくテレビやスマホを見ることは可能ですが、全員に個室が確保されているわけではなく、他の患者さんと相部屋になることも多いです。毎朝、体温・血圧・酸素飽和度などのバイタルサインを測定して、看護師や医師に診てもらいます。酸素療法が必要な患者さんは、廊下を歩くときに酸素ボンベを押して歩いてもらう必要があります。高流量酸素療法や人工呼吸器が必要な患者さんは動けませんので、ベッドの上で生活してもらいます。

たとえ症状が軽快していなくても、PCRを2回連続で採取して陰性化を確認すれば退院可能なのですが、コロナ病棟でこれをやっている病院は多くないと思います(療養型病床に転院するときにこれを求められることはある)。一度PCRが陽性になった場合、なかなか陰性化しませんので。退院基準が緩和される前、新型コロナ患者さん全員に退院時PCRをおこなっていた時代があるのですが、快復して元気もりもりなのに1ヶ月以上PCR陽性が続いた事例がありました。この場合のPCR陽性は、ウイルスの残骸をみているだけであって、周囲への感染性はありません。

仕事はどうなる?

コロナ病棟から退院、あるいは自宅療養・ホテル療養が解除になった時点で、復職は可能です。ただ、退院翌日から「おはようございまーす!」と会社に顔を出すのが精神的にキツイという患者さんが結構おられます。

特に雇用する側に伝えておきたいのは、「もう少し休んだほうがいいんじゃない?」や「PCR陰性を確認してもらったほうがいいよ」というコロナハラスメントは絶対ダメだということです。誰もがかかりうる感染症として、深く理解する必要があります。

新型コロナは、症状が出てから7~10日(人工呼吸器を装着した場合は15日程度)で急速にウイルス量が減り、感染性が失われることが分かっています。そのため、退院基準や自宅療養・ホテル療養解除基準を満たした患者さんが、追加で休暇をとる必要やPCR陰性化を確認する必要はありません。

余談ですが、家族が感染して自身が「濃厚接触者」になった場合、最終接触日から2週間(14日間)の症状観察期間が設けられます。この期間に新型コロナを発症する可能性があるため、不要不急の外出を控える必要があります。感染した家族が自宅療養している場合、【感染した家族の自宅療養期間】+【濃厚接触者の健康観察期間】として、濃厚接触者は家族の発症から24日間の自宅待機を指示されることがあります。濃厚接触者になってしまったからといって、1ヶ月近く休むというのは医学的には過度な対策であり、個人的にはやりすぎと思っています。

忽那先生がこのあたりについて詳しく書いておられるので、記事を参考にしてください(2)。

(参考)

(1) Beigel J, et al. N Engl J Med 2020; 383:1813-1826

(2)忽那賢志:新型コロナから回復し退院・療養解除となった人から感染することはないのか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210130-00220167/

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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