Yahoo!ニュース

H&MがBtoBプラットフォーム始動、オンデマンド生産により過剰生産を軽減、プリント企業にも投資

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
H&Mグル-プがオンデマンドなモノ作りプラットフォームを始動 H&M発表資料より

▼H&Mグループがオンデマンド・プリント企業Printifyに投資

▼新しいBtoBプラットフォームサービス「Creator Studio」を開始

▼オンデマンド生産、パーソナライズを推進

▼必要な時に、必要なものを、必要なだけ作るサービスで、顧客との共創や、クリエイター、企業への事業機会を提供

 スウェーデン発のグローバルSPA企業H&Mヘネス&マウリッツが、オンデマンドなモノ作りのサービス提供を開始する。

 「消費者や企業が、より多くの選択肢、より高いパーソナライゼーション、より高い柔軟性を求めていることを背景に、世界ではオンデマンドサービスの分野で大きな成長が見られている。私たちは、革新的な方法でお客さまと関わり、共創していくことで、お客さまとのより有意義な関係を築いていく」と同社。

 すでに、グループ傘下では、「Weekday」(ウイークデイ)で3Dスキャン技術を用いたカスタムジーンズや、サブスクリプション型ブランド「Singular Society」(シンギュラーソサエティ)では、パーソナライズされた陶器などを展開してきた。

 今回、新しいビジネスモデルの開拓やベンチャー事業を手がけるH&M Group Business Ventures(*)の新サービスとして、「Creator Studio」(クリエイタースタジオ)を始動する。「H&Mグループが長年培ってきた資産を活用し、テクノロジーを駆使して商品の新しいスタンダードを創造すること」をミッションに掲げた、業界向けのグローバルなプラットフォームかつサービスだ。「無駄のない迅速な生産プロセス、オーダーメイドのデジタルプリント、Eコマースとの連携などにより、ブランドやクリエイターが良質な商品を提供するためのハードルを下げることを目指している。事業拡大のためには、厳選されたグローバルブランドやクリエイターを取り込むことで顧客基盤を拡大し、従来の商品にとどまらない体験を提供していく」と説明する。

 H&M Group Business Venturesのエレン・スヴァンストローム部門長は、「今日のお客さまは、これまで以上にパーソナライズされた商品や体験を求めている。オンデマンド・プリント企業への投資と取り組みによって、H&Mグループだけでなく、お客さまや外部パートナーにも価値を創造することで、業界に変革をもたらすことができる。私たちは、クリエイターがファンに向けて素早くメッセージを伝えることを可能にすると同時に、過剰生産のリスクを軽減していく」とコメント。

 これに合わせて、グループの投資部門であるH&M CO:LABは、透明性の高いプリント・オンデマンド・ネットワークのリーディングカンパニーPrintify(プリンティファイ)に投資した。2015年に設立されたベンチャー企業で、Eコマースをベースに印刷と流通の両方を管理することで、誰もが比較的容易にビジネスを開始し、初期投資をほぼゼロに抑え、リスクをできるだけ少なくして自分だけの商品を作ることができるというサービスだ。世界をオンデマンド生産に向かわせると同時に、加盟店が持続可能なビジネスを構築できるように設計したものだ。

 「新規事業や投資を通じた探求と成長は、私たちが組織として前進し、業界をリードしていくための重要なメカニズムのひとつだ」。

 ファストファッションの功罪が問われる中で、自社のノウハウを活用して、“必要な時に、必要なものを、必要なだけ作り、運ぶ”ビジネスモデルを取り入れたり、BtoBプラットフォームを提供することは、過剰生産による商品の廃棄や在庫過多を減らすことに直結する。ビジネスとしての収益確保とサステナビリティの追求、そして、顧客のニーズに迅速に応えることを同時に実現することにもつながる。

 なお、同時に発表した、H&Mグループの第3四半期の利益は158%増だった。コロナ禍での営業や、商品デリバリーの遅延などの影響を受けながらも回復傾向にある。

*H&M Group Business Ventures=新しいビジネスモデルとイノベーションに基づいて新しいベンチャーに投資、あるいは自社開発することで、複数の収益源を推進する事業。現在、Afound、Sellpy、Treadler、Singular Society、Store Lens、Weav、Itsaparkがあり、ここにCreator Studioが加わることになる。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

松下久美の最近の記事