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ドン・キホーテが オフプラ業態開店、“洋服ロス”問題の解決を目指す

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
「オフプラ」1号店では安さの理由や存在意義をメッセージとして強く発信。 筆者撮影

・ドン・キホーテが愛知にオフプライス業態1号店を開店

・夏には渋谷本店にハイブランド~海外ブランドを集めた都心型店舗をオープン

・循環型社会のインフラとして“洋服ロス”問題の解決の一助に

「オフプラ」1号店のエントランス(画像はすべて筆者撮影)
「オフプラ」1号店のエントランス(画像はすべて筆者撮影)

 ドン・キホーテが、アパレルメーカーや小売店が抱える余剰在庫を仕入れて販売するオフプライス事業の新業態「オフプラ」1号店を今日3月24日、愛知県郊外にオープンした。「NIKE」(ナイキ)や「ADIDAS」(アディダス)、「THE NORTH FACE」(ザ・ノース・フェイス)などのスポーツブランドをはじめ、「ARMANI」(アルマーニ)、「DIESEL」(ディーゼル)、「COACH」(コーチ)、「CALVIN KLEIN」(カルバン・クライン)、「POLO RALPH LAUREN」(ポロ ラルフローレン)、「VANS」(ヴァンズ)、「CHAMPION」(チャンピオン)、「STUSSY」(ステューシー)、「SAMSONITE」(サムソナイト)、さらには、「CELINE」(セリーヌ)、「GIVENNCHY」(ジバンシィ)、「SUPREME」(シュプリーム)などまで約150ブランド、3万3000点を取り扱う。

 ドン・キホーテやユニー、アピタ、長崎屋などを手がけるパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が同日、「MEGAドン・キホーテUNY大口店」(愛知県丹羽郡大口町)を「アピタ大口店」からリニューアルオープンしたのに合わせて、MEGAドンキの一部やダイソー、婦人服専門店、フードコートなどが入る2階の専門店ゾーンに売り場面積約300坪(960平方メートル)で出店したもの。カテゴリー構成比はメンズウエア40%、ウィメンズウエア20%、キッズウエア15%、バッグ12%、シューズ8%など。ブランドの価格帯構成比は中価格帯が60%、低価格帯が30%、高価格帯が10%としている。

「食品ロスも問題だけど 洋服ロスもヤバイ。」

 在庫処分といえば、2000年ごろからアウトレット業態が活況を呈してきた。ただし、アウトレットは自社の取扱い商品を扱うもので、最近ではEC(自社ECや他社ECモール、フラッシュセールサイトなど)がその役割を担うようになっている。一方、オフプライスストアは他社商品を仕入れて販売する小売り専門店業態となる。

 暖冬や、ファストファッションやD2C型新規参入ブランドなどとの競合の激化、百貨店の低迷などの要因もあり、衣料品や服飾雑貨が売れ残り、利益を圧迫する企業も増えていた。さらに、気候温暖化や環境汚染の原因の一つとされる衣料品の大量廃棄が問題視され、フランスが2023年から新品商品の廃棄を禁じるなど、サステナビリティの観点からも、在庫処理問題は喫緊の課題になっている。調査会社Coresight Researchによると、米国では2017~2019年の3年間で2万1700店舗が閉店。日本では「OLDNAVY」(オールドネイビー)、「FOREVER21」(フォーエバー21)、「AMERICAN EAGLE」(アメリカンイーグルアウトフィッターズ)などが日本から撤退しているが、そういった撤退ブランドや倒産ブランドなどの商品や未引き取り商品などは、メーカーや小売企業だけでなく、OEMやODM、テキスタイルメーカーなどにも大量に存在している。さらにこの新型コロナウイルス禍で、オフプライス向け商材が潤沢な状況にある。最近では、ワールドとゴードン・ブラザーズ・ジャパンの合弁会社アンドブリッジや、ゲオホールディングス、ジョイフル本田などが相次いで参入している。

PPIHの小田切正一・執行役員OPS事業本部長。ユナイテッドアローズで新業態開発も行った服好きで、「世界中で社会問題になっている洋服の余剰在庫・廃棄問題を解決し、循環型社会作りに貢献したい」と語る
PPIHの小田切正一・執行役員OPS事業本部長。ユナイテッドアローズで新業態開発も行った服好きで、「世界中で社会問題になっている洋服の余剰在庫・廃棄問題を解決し、循環型社会作りに貢献したい」と語る

 ドン・キホーテでは、オフプライス事業を「アパレル業界の廃棄・焼却処分など環境に対する社会的な問題を解決する“循環型社会を形成するサステナブルな活動”」として位置付ける。PPIHの小田切正一・執行役員OPS事業本部長は、「世界を含めて、生産量と販売バランスが良くなれば、この業態はいらなくなる。ただし、現状では需給バランスが合っておらず、商品の廃棄や利益の圧迫などにつながっている。売れ残り商品を早めに二次流通に回すことで、店頭の鮮度が高まって売り上げが上がったという取引先や、現金化したことで次シーズンの商品調達資金に回すことができたと喜ばれるケースもある。われわれは社会的インフラになり、循環型社会の一翼を担いたい」と存在意義を語る。

海外から8割仕入れ、百貨店や有名メーカーの放出品も

 商品の調達については、並行輸入品なども扱うドン・キホーテの在庫品が2割程度。残り8割は海外からの買い付け品で、北米から6割、欧州から4割で、韓国からも仕入れている。メーカーからの放出品や、オフプライス企業向けのディストリビューターからの買い付けが中心で、米国の百貨店「MACY’S」(メイシーズ)の商品なども取り扱っている。よって、他社のオフプライス業態に比べて、海外ブランドが充実し、未上陸ブランドなども多いのが特徴だ。

 今夏には、渋谷本店の7階(現在はオフィスとして使用)をリニューアルして売り場面積150坪(約450平方メートル)で2号店を出店する。「若年層・学生・ビジネスパーソン・インバウンド」をメインターゲットに、ハイブランドから海外ブランドまで幅広く展開する都心型の代表店舗となる。

 ちなみに、大口店は「ファミリー層・主婦層・親子3世代」をメインターゲットにメジャーブランドや低価格実用品、日本未発売商品や一点もののレアものなどを扱う郊外店の代表店舗となる。「オフプラ」は年内に複数店舗を出店する予定。さらに、ドン・キホーテは現在、アパレルを主力商品として扱う店舗が約300店舗あり、うち、100店舗はとくに売上げが好調だ。今後は店舗を選びながら、既存店内にも「オフプラ」をストア展開、あるいは、コーナー展開していく考え。

ドンキ流の魔境的売り場で宝探し、挑戦的なPOPのメッセージにも注目

 「ドン・キホーテは店舗数が多く、バイイングパワーが一番の競争優位性や差別化策になる。山で(まとめて)買って、コンテナ単位で輸送することで、ローコストで仕入れて、圧倒的低価格で販売していく」と意気込む。さらに、ドンキ流の圧縮陳列や宝探し感覚を促す魔境的売り場作りや、メッセージ性の高いPOPなども見どころだ。

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「食品ロスも問題だけど洋服ロスも実はヤバイ。」

「最新より欲しい!…と思える最旬をお届け」

「中途半端は大嫌い!どうせやるならガツンと値下げ」

「価格競争はもうウンザリ!! 徹底的に勝負します」

「周りと被る人気の色より被りにくい個性をどうぞ!」

「『後で買おう』なんてそうは問屋が卸さない!」など

 顧客をあおったり、安さの理由などを伝えるメッセージ性の高さなどもユニークだ。リアル店舗ならではのカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)につながりそうだ。

 店舗はユニー時代の内装や什器をそのまま使用したローコスト型になっているが、今後は、店頭でのカテゴリー展開や価格表示方法、試着のしやすさやサイズ感のわかりやすさなど、売り場もブラッシュアップしていくという。さらに取り扱いブランドの拡充やさらなる調達ルートの確立が、成功のカギを握りそうだ。

▼「オフプラMEGAドン・キホーテUNY大口店」写真ギャラリー(随時追加予定)

メンズの人気スポーツブランドを集積
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スニーカーも充実、日本では手に入らないレア商品も見つかる。海外モノ中心なのでサイズも豊富だ
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「シュプリーム」や激レアなお宝シューズなどもそろえる
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最高値は「セリーヌ」の15万円のバッグ。他にも「ジバンシィ」「コーチ」「マイケルコース」なども扱う
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「カルバン・クライン」の3Pショーツも人気アイテムに
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ウィメンズでは「フルーツ・オブ・ザ・ルーム」のインナーやヨガウエア類も
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米国百貨店「メイシーズ」から仕入れたブランド商材も多い
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メンズのスーツやシャツも。百貨店やセレクトショップなどで扱われるイタリア・ナポリ製の「BARBA」(バルバ)は3万円以上のシャツが7990円と破格値
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子供服・雑貨なども目玉コーナーの一つ
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ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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