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前澤社長がPB「ZOZO」の巨額赤字を説明 渦中のサービスについても言及

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
ZOZOの2019年3月期第3四半期決算資料より

 ZOZOの前澤友作社長は、創業20周年の目玉として発売したプライベートブランド「ZOZO」が、今期だけで125億円という巨額赤字となる見込みであることを明かした。PBの年間売上高は当初予想の200億円に対して、わずか30億円にとどまるという。

 さらに、昨年12月25日にスタートしたサブスクリプションサービス「ZOZOアリガトウ」で「嫌気がして販売ストップされた」ショップは全1255ショップ中、42ショップで、ショップ比率でいうと3.3%、取扱高ベースでは前年同期比1.1%、オンワードは同0.5%程度で、「業績に与える影響は極めて軽微」だと語った。

 2019年3月期第3四半期の決算説明会に登壇した前澤社長は、「非情に情けないことに、業績を下方修正した。申し訳ありません」と謝罪。「創業20周年の年に、社員一丸となって大きなチャレンジと試行錯誤の1年だったが、繰り出す施策が次々に大きな成果を生むことができずにこうなった」と振り返った。

 PB「ZOZO」については、「125億円の赤字で、高い勉強代になったが、社内の団結力が高まり、モチベーションが上がっている」と嘯く。

 これまで「高リスク・高リターン」「満塁ホームラン狙い」「完全自前主義」だったが、まずは「低リスク・中リターン」「ヒット狙い」「オープンイノベーション」に方針を変更して来期には収支トントンとさせ、将来的に「中リスク・高リターン」「定番大ヒット商品への投資」にシフトするという。商品群も増やし、靴や女性下着なども開発していく。「将来的には当初予定していた通り、高利益率事業にしていきたい。未来のPB事業はZOZOTOWNを上回る利益にしたい」と前澤社長。

 ZOZOアリガトウのサービスについては、「オンワードの販売停止に端を発して『ZOZO離れ』とメディアで騒がれた」が、「ZOZOTOWNの売上げ向上施策や収益源として有効だ」「初回購入のハードルを下げることで、新規顧客の利用促進を促す」「購入頻度、購入金額、それぞれの向上効果を期待している。すでに上がっているので、来期さらに効果が見込める」「サービスを充実・加速させていく」とさらなる強化宣言を行った。

ZOZOアリガトウで貪欲に市場シェア拡大・取扱高増へ

 アナリストからは、ZOZOアリガトウに関して、「受託中心のビジネスで、アパレルとの信頼関係は重要だ。売上高に占める割合だけではなく、少なくとも『ちょっとおかしいのではないか』と見合わせているショップがあるのがおかしい。『実るほど頭(こうべ)を垂れる……』ということもある。アリガトウのサービスをするうえで(こういう反応が出るのは)想像できたのではないか」と指摘されたうえで、「そもそもアリガトウをやろうとされた経緯と今後、ファッションブランドとどうコミュニケーションをしていく必要があるのか」という質問が出た。

 これに対して、前澤社長は「売上げだけではなく、40数ショップが見合わせている現実をどう思うのか、ということは、遺憾だし悲しく思う。とくにオンワードは社長をはじめ仲良くさせていただいていたので悲しく思うが、これもビジネスなので、それぞれの方針もある。ある程度は割り切って考えている」とコメント。

 「自分たちのブランドで独自に顧客を囲い商売をしたい方は、どこかの時点でプラットフォーム(ZOZOTOWNのようなECモール)と意見の相違が出るようなこともあり得る。たとえば今回見合わせているショップの中には、自社ECサイトではZOZOTOWNよりも安く売っていたりもする。われわれからすると、いつも買ってくださっていたお客さまがそちらに流れていってしまうので、そういう方針のブランドはいつかの時点で出て行くと方針を決められた会社だと思う。今回のZOZOアリガトウによって会社の方針や方向をみなさんがお考えになったでしょうし、いいきっかけになったのではないかと僕は実は思っている」と続けた。

 さらに、「百貨店やリアルなショッピングモールは優良顧客施策としてカードを持っていると何%オフなど、ほぼすべての商業施設がやっている施策。逆に言うとなぜ今までわれわれがこれをやってこなかったのかという意見もあるぐらいだ。9割方のブランドはZOZOの負担で割引いていただいて多くのお客さんに自分たちのブランドを見ていただけるのであれば、こんな喜ばしいことはないじゃないかと。むしろクーポンだといって必死に目立とうとしていたのに、ZOZOTOWNの原資持ち出しでこんなにやっていただいてありがとうという感謝の声も一方でたくさんいただいている。これは自信を持って今後引き続きやっていきたい。ただ、普段、割引しないブランドから見ると、価格表示では若干派手な面もあったので、ブランドの意見を踏まえて、価格表示をしたくないというブランドには表示しないように実装する予定だ」。

 創業経営者として一番大切にしたい数字に対しては、「商品取扱高だ。ZOZOアリガトウというサービス自体、あきらかにパイを広げに行く戦略だ。パイを広げに行く。自然成長を待っている余裕はない。(売上高目標)5000億円といわず、1兆、2兆円というところを見て、どんどんパイを広げていく。インターネットで服を買うことがこんなに簡単になったんだということを体感いただけていないお客さまもたくさんいる。そういうところにあらゆる方法を使ってご理解いただき、とにかく最初に買っていただき、こんなに早く届くのか、こんなに丁寧に対応いただけるのかと感動していただけるお客さまを一人でも増やしたい。大事なのは取扱高だ」と明言した。

 この考え方を聞き、アパレルをはじめとした出店ショップ・企業がどのような反応をするのか、注視していきたい。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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